第十九章 嫌がらせの包囲網

ガチャ651回目:デート中断

 宝条院家のパーティーが終わり、今日で12日ほど経過していた。

 俺はかねてから予定していた通り、彼女達の頑張りを労う為に、1人1人時間を取り1泊2日のデートを敢行していた。デートの日の朝から翌日の夜までがその子の時間で、それを11人分繰り返すというものだ。単純計算で22日間。長い間ダンジョンには入れなくなるだろうが、俺達には必要な行為なので外野には黙っていてもらう。

 んで、肝心の順番は彼女達に任せたのだが、今回のデートは結婚式への仕込みも兼ねている為、それを考慮したアイラとイズミによって俺と付き合いの長い順に順番が割り振られる形となったのだった。

 ただし、カスミは別枠扱いだとかで、最後の方に回されたみたいだが。まあ、あいつは結構顔に出るしな。デートの最後に俺の告白を受けて、まともでいられるとは到底思えん。まあそれ以外にも顔に出そうな子は何人もいそうだが……。

 そうしてアキ、マキ、アヤネ、アイラの並びで順番にデート&求婚を申し込み、その後5人で一緒に2泊3日の旅行に出かけ、今しがた帰ってきたところだ。

 この後はカスミチームのメンバーと、同じように1泊2日のデートをして、最後に6人纏めて2泊3日の旅行にいって、それからミスティとも同様にデートをし、仕上げに結婚式を挙げてハネムーン……という予定だった。

 そう、のだ。


「上手くいかない予感はあったが、当たってほしくはなかったな……」


 慌ただしく動く彼女達をソファから眺めて、俺は独りごちた。すると、電話中のシルヴィと何か話していたエスがやってきてソファに腰掛けた。


「こんなことになっても、兄さんは随分と落ち着いてるね」

「俺が慌てたところで、彼女達を不安にさせるだけだ。良いことなんてなんにもないなら、皆のためにも俺はどっしりと構えておくべきだしな。そもそも、俺はいつでもベストコンディションだから、慌てて準備するようなこともないんだよなぁ」

「流石兄さん。それで今回の件だけど、誰を連れて行くんだい?」

「そうだなぁ。規模がわからないのもあるが、全員で乗り込むのは機動性の面で望ましくはないし、そうするのは。だから人数は割かずに、少数精鋭でまとめて潰す」

「僕とミスティと兄さんの3人と、それからエンキ達ってところかい?」

「ああ、それがベストだろう。今回の件、あまりにも突然すぎて情報が錯綜してるが、腑に落ちない点があるんだよな」

「そうだね……。前に僕たちがあそこのスタンピードを平定して約80日くらいか。日数的にも、そろそろ溢れても仕方のない頃ではあるけど、その間アメリカが全く手を出していなかったというのはあまりにもお粗末な話だ。きっと、今回の件はなにか裏があると思う」

「だろうな」


 そうして話していると、電話を終えたシルヴィが駆け寄ってきた。


「お待たせエス、お兄さん! ええっと、何から報告しようか迷うところだけど」

「ご苦労様。そんなに慌てなくても大丈夫だぞ」

「安心してシルヴィ、僕と兄さんならこの程度大した問題にはならないさ」

「うん、ありがとう。それじゃ、改めて内容を伝達するね」


 シルヴィは一度深呼吸をして、今朝飛び込んできた情報を時系列順に語り出した。


「まず、今から約5時間前。つまり、日本時間でいうと午前8時ごろ、アメリカ西海岸沖にある『1099ダンジョン』でスタンピードが発生。モンスター進行方向は、なぜかアメリカ側ではなく日本に向かっていることが確認されました。また、同じく日本時間の午前9時ごろ、海底ダンジョンの1つである『1097ダンジョン』でもスタンピードが発生。こちらはオーストラリアの北にある、パプアニューギニアよりも北の沖合にあるダンジョンですが、こちらもまっすぐに北上し、日本を目指しています。それも進路方向的に、東京付近を目指しているものと思われます」


 俺達は旅行最終日ということもあって、今日はのんびり帰宅する予定だったんだが、その情報が飛び込んできたせいで慌てて帰ってくることになったんだよな。


「どう考えても、何者かの意図を感じるよな」

「まったくだね」

「これでもしも誰も謀略をしてないって事になったら、スタンピードの群れは『楔システム』を狙ってきている事になりかねんよな」

「……の狙いがそれだったら、かなりまずい事になるんじゃないかな?」

「まあ、それは何も対策をせずに受け身に回ったらの話だな。到着前に全て殲滅すれば問題ない。が誰かは知らんが、誰がなんと言おうと、勝った奴の言葉が正義だろ」

「流石兄さん」


 1箇所だけでもあれなのに、2箇所でほぼ同時にスタンピードが発生して、俺のいる場所を狙ってくるだと? そんなの、悪意を持った人間が俺を狙い撃ちにして来てるだろ。間違いなく。


「この前『コラプショングリフォン』を撃破した時にゲットしたアイテム、覚えてるか?」

「……ああ、『スタンピード誘発香』だったね。今回はそれが使われたと?」

「可能性の1つだがな。変異したレアモンスターとしては強力な部類にあるモンスターだったから、他のダンジョンで気楽に遭遇する相手とは思えないから、もしかしたら類似品が存在していて、それを使われただけかもしれないが……」

「なるほどね。じゃあ、近くにいる人間を襲わずに、こっちに向かって一直線に動いているのも……」

「そういう類のアイテムが使われている可能性がある。んで、俺が対策できずに縮こまってたら、世論を使って大バッシング。それが敵の筋書きじゃないかな」


 アイラが持ってる禁制品の『改良型魅了香』も、そういう類のアイテムだしな。あれは香りを吸ったモンスターが、香りの下に向かって襲い掛かってくるという誘因アイテムだ。なら、スタンピードの勢いに指向性を持たせるアイテムが存在していてもおかしくはない。

 まあ、間違いなく禁制品の類だろうし、もう敵がいる事前提で話してるが、そう考えると色々と状況が噛み合うんだよな。


「シルヴィ、2つのスタンピードがここに到着するタイミングはわかるか?」

「衛星のデータを貰ってるから、概算だけどわかるよ。南方面から進軍中の『1097ダンジョン』の軍勢は、本日の午後10時頃到着予定。東方面から進軍中の『1099ダンジョン』の軍勢は、翌日の早朝から正午辺りになる予定だよ」


 まあ、東の方は太平洋横断することになるしな。それでもかなり早い方だと思うが。


「それで、兄さんはどう動くつもりだい?」

「そうだな。まずモンスターにも種類がいるだろうし、その分個体差による速度の違いが出てくる。あんまり気長に待ちすぎると隊列が伸びて散発的にやってきそうだし、この一直線に向かっているというのも最後まで続く保証はどこにもない。だから、バラバラに散らばる前に、こっちから倒しに向かう」

「了解した」


 とはいえ、どちらも途中に陸地なんて無いから、水上戦になりそうだな。倒すのは良いとして、ドロップはセレンに頑張ってもらわなきゃな……。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る