ガチャ645回目:赤い活力剤

「そういえば兄さん、帰り際にSランクのタツノリさんから何かもらってたよね。あれは何だったの?」

「あー、なんか『上級ダンジョン』の下層部で取れたお土産って感じだったな。あの人曰く、女性達を満足させられそうになければこれを飲むといいらしいが……」


 俺は魔法の鞄から、真っ赤な液体が入った瓶を取り出す。液体はサラサラしているが、見た目的にはこの液体が普通の飲み物だとまるで思えないんだよな。あの人が毒を渡してくるとは全然思えないけど、コレを飲むのは抵抗がある。

 それにこれ、妙に熱を持っているのも気になる。どれくらいの熱さかというと、自販機で売ってるHOTな飲み物くらい熱い。


「に、兄さん。これ、ちゃんと視たかい?」

「ああ、そういや貰うだけ貰って視てなかったな。んじゃ『真鑑定』『真理の眼』」


 名称:レッドドラゴンの生き血入りの瓶

 品格:≪遺産≫レガシー

 種別:素材/消費アイテム

 説明:無限の体力を持つと言われる赤き竜の全身を駆け巡る貴き血。鮮度が良いと熱を持ち、サラサラの液体となり、鮮度が悪いと冷め、ドロドロになる。この血を一口舐めると、一時的に無限の活力・精力を体験できる。

 ★服用した量が増えると効果が増すが、その分副作用も大きくなる。

 ★一舐めした場合、約1時間の間、活力と精力が膨れ上がる。効果時間中一定量活力と精力を消費しなかった場合、反動で14時間衰弱する。

 ★この瓶を全て摂取すると、12時間の間レッドドラゴンと同様の無限の活力と精力、そして一時的なステータスバフを獲得する。その反動に、7日間衰弱する。


「……微妙にリスキーな付属効果もあるじゃないか。てかドラゴンて」

「知らなかったのかい? 『上級ダンジョン』の奥地にはドラゴンが出現するそうだよ」

「……ああ、そういえば最初期のスタンピードでドラゴンが出たんだっけ。考えないようにしてたらすっかり忘れてた」

「はは、兄さんらしいね」


 てか、日本のダンジョンなのに俺が知らないでエスが知ってるのはなんともアレな話だな。多分業界では有名な話なんだろう。

 それにしても、一舐めしただけでも1時間の間活力と精力が湧き上がるのかぁ。コレは使うとしたらの終盤じゃなくて、序盤か中盤くらいが丁度良いか。でもまあ、使うほどのものかと言われるとそうでもないよな。

 ぶっちゃけ、今の段階でも十分事足りてるし。強いて言うなら、カスミ達6人との戦いが、ちと大変ではあるのだが、1時間もいらないんだよな。一舐めではなく、スポイトで一滴だけ飲むとかそのレベルで調整すべきかな……?


「旦那様~」

「ん。ショウタ、撫でて」

「おっと」


 そうやって使い道を考えていると、甘えたがりの2人がやってきて、膝枕を要求してきた。2人は俺の返事を聞くまでもなく寝転がり、左右から頭を押し付けてくるのでゆっくりと撫でてあげる。

 帰りの車の中、アイラが今後の婚約者人数について言及してから、アヤネはずっとこんな調子だった。多分、クリス達4人が増えるかもしれないって話よりも、サクヤさんがそのレースに加わる可能性を聞いて妬いてるんだと思う。

 ちなみにミスティは、そんなこと微塵も気にしていないようで、いつもの調子ではあったが。


「あ、そうだ」


 2人という人数でアレの連れを想起して思い出すのは、少しこの子達には申し訳ないが、エスには聞きたいことがあるんだったな。


「エスー、例の『炎』の奴だけどさ」

「ん? アイツの何が気になっているんだい?」

「あいつがって言うより、あいつの誘い文句についてだな。ほら、ダンジョンのスキルについて教えてくれるって話だったじゃん」

「……ああ、あの国の恥部の件か」


 恥部て。


「あれはなんとも情けない話でね。かの国はそんな事実はないと否定してるんだけど、情報通からしてみれば筒抜けだから、外から見ると滑稽だったんだよね」

「結局それは、どんな話なんだ?」


 そこでエスの口から語られた話は、かなり興味深い話だった。

 まず、その国に出現したダンジョンは、最初は緑豊かなよくあるダンジョンだったらしい。しかも、『ハートダンジョン』第三層のように、食べられる木の実も自生するような場所だったとか。

 だけど、それがある時を境に徐々に変質していったらしい。ダンジョンの環境も、そこに出現するモンスターも。最初は一時的に変質しては元に戻るという変化だったらしいが、その変化は次第に顕著となり、最後にはその変化が定着し、二度と元に戻らなくなったという。


「それは、どういった変化だったんだ?」

「ああ、緑豊かなダンジョンは、未知の病原体が蔓延る不浄な場所へと変質したんだ。そしてそこで得られるスキルも病魔に関連するスキルが中心になってね。中には、『病気耐性』なんてものまで得られるようになったとか」

「『病気耐性』か……。普通にそれ、有用なんじゃないか?」

「日本の諺でいうなら、災い転じてって奴かな? まあそれは間違いではないよ。実際にそのスキルは有能だった。かのダンジョンを攻略する上では必須と言っていいし、外の世界でもスキルレベルがMAXになれば、どんな病原体を取り込んでも強力な免疫が発生するらしく、病気とは無縁の身体になれるようだ。正に、夢のようなスキルさ」

「へぇ」


 レベルを上げれば身体が強くなるように免疫も高まるけど、全ての人間にそれを求めるのは酷だもんな。ある意味、そのスキルが普及すれば医者いらずになっちゃうわけだ。


「で、それがなんで恥に繋がるんだ?」

「ああ。ダンジョンが変質した理由さ。兄さんも、環境を書き換えた事があるから分かるだろう? 環境を変えるなら、どうするのが効果的だい?」

「そりゃ、そのフィールドにその属性の力を定着させて……」


 ん、待てよ?

 なら、緑あふれるダンジョンを、汚染された土地に変質させるには、それ相応の汚染物をダンジョンに……。


「……なるほど、そりゃ恥部だ」

「そういうことさ。奴らは、ダンジョンを資源の一つとして扱いつつも、ゴミの不法投棄場所としても活用し始めたんだ。ダンジョンは、その環境下に無い存在を、時間経過で取り込んでいく習性があるからね。ダンジョンのドロップ品であれば、数十分から数時間ほどでエネルギーに還元して跡形もなく取り込むけど、それはダンジョンの外から持ち込んできた物だってそうだ。多少時間はかかるみたいだけど、基本的にこれらも取り込まれるようにできている」

「あれ、でも『ハートダンジョン』の第二や第三、それから第五層にはダンジョン外から持ち込んできた建造物やらベンチ、それから小舟なんかもあるけど、消えてないぞ?」

「その辺のメカニズムは完璧には判明していないけど、たぶん人が近くにいるかいないかでダンジョン側が判断してるんだと思う。心無い一般客もそうだけど、冒険者だって野営の後片づけをしない連中だっているだろう。けど、時折その痕跡が消えてることがある。誰かが片付けた訳でもないのにね」

「つまり、ダンジョン側がそれらの物質をエネルギーに還元して、取り込んでいると……」

「まあエネルギーに関しては、研究者たちの憶測だけどね。そして、基本的にそういうのは多少取り込んだとしてもさほど影響はない。ダンジョンの巨大さと比べれば、その程度のゴミでは砂漠に水を垂らしたようなものさ」


 けど、そいつらは、その巨大なキャパを軽く超えるほどの産業廃棄物や汚染物質をダンジョンに放り込み続けたのか。一時的な変化で危険を促されたにもかかわらずだ。そんなにゴミを押し付けられたら、環境も書き換わるし、モンスターもスキルも変質するか。

 これは確かに、どうしようもなく国の恥部だな。その国は隠してるつもりなのがまた哀れというか滑稽だ。

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