ガチャ642回目:バチカンの騎士

 パーティー会場へと戻った俺達は、改めて話の続きをすることにした。


「エスー。次の紹介を頼む」

「了解した。……けど、そうだね。マリーはまだお酒が手放せないみたいだし、こっちかな」


 そう言ってエスは俺に向かって膝をつく女性に視線を向けた。

 他3人はしっかりドレス姿なのに、彼女だけは鎧ドレスなんだよな。防具としても使えるしドレスとしても見栄えが良い。うーん、うちの彼女達にも着てもらいたくなるな。宝箱から出たりしないかな?


「そこで片膝をついて祈りを捧げているのはテレサ。バチカン出身の騎士で、タンク、アタッカー、ヒーラーなんでもそつなくこなせる万能者だ。異名は『聖印騎士』。世界で初めて聖印スキルを取得した事からその名がついたみたい。今ではその聖印も複数持っていることで知られているね」

「ほおん」


 その聖印ってのは、もしかしなくともアレだよな。……うん、俺の場合はスキル欄には残ってないけど、普通の印を束ねて『万象の刻印』にしちゃったんだよな。明らかに聖印の方が上だろうけど、下位スキルとはいえ、それに近いスキルをしれっと量産できちゃうガチャは、本当にチートなスキルだよなぁ。

 んで、本物の聖印は今、在庫として『水の聖印』が2個、『水の聖印Ⅲ』が1個、『光の聖印Ⅲ』が1個あるのと、エンリルが『風の聖印Ⅲ』を取得してるんだよな。これ、扱いに困ってるんだけど、どうしたもんかな……。


「テレサ、いつまで膝をついているつもりだい。こっちに来て兄さんに挨拶しなよ」


 エスに呼ばれた聖騎士様は、ビクッとしたあとかぶりを振った。


「そんな畏れ多いこと、出来ませんわ。私のような下賤な身が、使徒様にご挨拶などと……」

「はぁ、信仰深いってのも困りものだね。兄さん、彼女のことが嫌いじゃなく、ちゃんと話がしたいなら、ちょっと強気に行ったほうがいいよ」

「みたいだな……。テレサ! こっちに来なさい」

「はいっ、使徒様! ただちに!」


 素早く立ち上がり、一礼を済ませた彼女は早足でやってきて、再び片足をついた。エスに呼ばれた時はテコでも動かなさそうだったのに、俺が呼んだら来るのか。

 素直な子ですこと。


「テレサ・デ・ミランダ。御身の前に」

「うん」


 なんとまあ、感心するほどに美しい所作だな。

 しかし、こうやってイリーナ以上の信仰心を持って崇められると、むず痒くもあるな。目の前で傅く彼女をじっくりと観察する。

 オーラはうちの彼女達と同レベル。容姿は美麗。肩まで伸びる金の髪に、騎士然とした白銀の鎧ドレス。ドレスと言っても一応金属製だから、彼女が動けば多少なりとも金属系のこすれる音が鳴りそうなのに、そういうのが全くなかった。

 それだけ高性能な装備という事か。


「テレサは以前、来日予定だったんだよね。その時はどんな命令で来る予定だったの?」

「はっ。使徒様と親交を温めることであります」

「ダンジョン攻略の勧誘や、婚姻関係への発展のためじゃなく? 正直に言いなさい」

「……あの頃は、あなた様が使徒様だとは知らず、無礼を働くところでした。誠に申し訳ありません……!」


 否定はしないのか。

 そう思っていると、俺が黙った事で機嫌を損ねたと思ったのか、テレサはそのまま深々と頭を下げた。リアクションが早いなー。


「やってもいないことを怒るつもりはないよ。だから顔を上げて」

「なんと慈悲深い御方……。感謝いたします」


 あー。イリーナが行くとこまで行ったらこうなるって実例を見てる気分だ。こういう人がいること自体は別に良いんだけど、未来の家族にこうなられたらたまったもんじゃないな。イリーナはデートで矯正できれば良いんだけど、できるかな?


「ところでその使徒様っての、やめない? 俺はふつ……ただの人間だからさ」


 普通の、と言おうとしてやめた。

 流石に普通ではないよな、俺。自覚はあるぞ。


「ファンタズマウェポンに宿る意志を軽々とねじ伏せるほどの常軌を逸した力や、教皇猊下を始め、高位の聖職者様にしか持ち得ないはずの後光と神聖なオーラを持ち、ダンジョンを平定するだけでなく完全な安全地帯を生み出すほどの奇跡を体現できるあなた様が……人間、ですか?」

「ああ、人間だ」


 一応。


「だから使徒じゃなくて、人間扱いしてくれ」

「それが使徒様……いえ、あなた様の望みであるならば。……で、では失礼ながら、アマチ様とお呼びしても?」

「まあそれで良いよ。んで、最初の話に戻るけど、以前こっちに来ようとしてた時、俺に何をして欲しかったんだ?」

「は、はい。バチカンに存在する悪しきダンジョンの平定をお願いしたかった次第です……!」

「そっか。そこって難しい?」

「あのダンジョンは、正気を保つのが難しい場所でして、誰も最奥まで辿り着けたものはいません」

「ほう」


 常時SAN値チェックでもさせられるのか?


「そこはテレサでも正気を保てないのか?」

「私であれば耐えられますが、ただ1人で奥に進むわけにもいきませんので……」

「なるほどな」


 そりゃそうか。1人じゃ対処できない事は無数にある。奥まで進まずとも定期的にモンスターを処理していればスタンピードの危険はないし、わざわざ単身で乗り込む必要はないよな。


「OK、分かった。いつになるかは分からないけど、興味はあるからその内行くかもね」

「感謝いたします、アマチ様! そして私は、あなた様が使徒様でないとしても、この身を捧げるためこの地を訪れました。いかようにもお使いください」

「……」


 それ、実質の奴隷宣言じゃん。人間扱いしてくれとは言ったが、やっぱそれは表面上の話であって、彼女が国から俺にそうするよう伝えられた事実と、その覚悟までは変わらない訳か。

 思えば、端末の通信を通してもイリーナには後光が見えていた以上、直接出会わずともテレビなんかの映像に出てしまえば、俺が後光を持っていることがバレていたんだよな。そこまで考える間もなく、矢継ぎ早にインタビューで受け答えしちゃったからそこにまで発想が至らなかったが、うちの彼女達ならばそれくらいは想定していたはずだ。特にアイラとマキ辺り。

 そして聖騎士や聖女が俺を狙っている事は周知の事実であったし、こうなることも予想できてたはず。ならまあ、彼女がこうしてアタックしてくることもわかってただろうし、俺には何も忠告してこなかったのは……そういうことだろう。

 諦めて受け入れるとしようかな。あとは彼女達が人間性とかその辺りを審査してくれる事だろう。


「……」

「……」


 ああ、こうして考えている間も、テレサは完全に俺の指示を待ってるな。こりゃ、また俺が何か言うまでこの場から動かないんじゃないか?

 しっかし敬虔な信徒が集うバチカンからしてみれば、神の御業を振舞う存在が現れれば、身を捧げるほど敬うのも、当然なのかね。

 ……あ。そういやモーセの真似事して海を割ってたわ、俺。


「テレサ、立って」

「はい」

「そうだな。……とりあえず、このパーティーを満喫していてくれ」

「畏まりました、アマチ様」


 うん、従ってくれたな。


「よし。んで、最後の1人だけど……」


 まだワインを飲んでるなぁ。さっきから視界の端でボーイを呼んではグラスに並々と注ぎ、一杯一杯楽しそうに飲んでいたな。

 残る彼女は間違いなく『撃滅聖女』だろう。撃滅という物騒な単語はさておき、聖女である以上彼女も敬虔な信徒に違いない。テレサほどではないにしろ、俺の後光は効いてるはずだし。

 ただ、それでもワインは片時も手放さなかった以上、我欲の方が強いのかもしれんが。

 ……会話になる事を祈るか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る