ガチャ637回目:魔性の女
「俺のレベルが変動している事に気付けた以上、俺の能力の根幹にも予想がついてたはずです。なのに何も語らなかったのは、そこにどんな思惑があったんですか?」
「……以前、私には相手を魅了してしまう能力がある事は伝えましたね。そしてそれは私の意志に関係なく、勝手に発動してしまう事も」
俺は頷いて答えた。
「その状態で相手に何かを求めれば、レベルに差があればあるほど、相手の想いや感情を塗りつぶしてまで、私の願いを叶えようとしてくれるのです。そしてその願いを叶えれば、多幸感まで与えてしまう」
「それは……」
もはや麻薬では?
「俺に直接的なお願いや命令をしなかったのは、俺を傀儡化しないためだったと」
「ええ。あなたには、あなたの思うがままに道を切り開いて欲しかったから。そしてこの言葉でさえ、魅了状態の子には甘美な毒となる。間違いなく、望まない形で伝わっていたことでしょう」
なんともまぁ、危険な話だ。
それを危惧していたからこそ、彼女は俺の質問には答えることはあれど、強く何かをお願いしてくることはなかったし、協会ぐるみの『お願い』も、会議という会話ツール、それからアキやマキといったフィルターを挟んで、間接的に伝えてきたんだろう。
……抱きしめられはしたけども。
「相手のレベルが上がり、私との影響力が拮抗してくれば、この呪縛からも自然と脱することはできるのですが、それでも完璧にとはいえません。ですが完全に克服できた者もいます。例えば新たな忠誠先、もしくは指針となれる存在を見つけた者などですね」
彼女の視線の先にはアイラがいた。
アイラは、育ての親ともいえるサクヤお義母さんから、アヤネに忠誠心を移した。だから彼女からの束縛を抜け出すことができたと。
「アヤネちゃんもそうですが、心の拠り所にはアマチさん。あなたもいますよ」
「俺も?」
「ええ。何事もそつなくこなせる子ではありましたが、部隊にいたころでは考えられないくらい、あなたの存在に依存しているようね」
「まあアイラは、俺にとっても、なくてはならない存在ですけどね」
「そのようね。この子が役立っているようで何よりだわ」
にしても麻薬めいたスキルか。意図していなくても発動しているところを見る限り、完全にパッシブスキルだ。それも本人の望む望まないに関係なく無作為に発動するような……。サクヤお義母さんほどの人が、なんでそんなスキルを取得して……。ん?
「サクヤお義母さんは、いつからこのスキルを?」
「……これは誰にも言っていないことなのだけれど」
そうワンクッションをおいて、彼女は口を開く。
「
「最初?」
「ええ、最初から。人類がステータスを得た、あの日からよ」
「「「!?」」」
それってつまり……。いや、だからこそか。
そんな天啓とも言える形でスキルを得ていたからこそ、ステータスも伸び代も絶望的な俺を見つけて、何か特別があるのではないかという想いもあって、期待も含めて監視してくれていたんだな。
まあ俺の場合、本当に何もなかったわけだが。
「では奥様、そのスキルの特性は、全て『鑑定』系統のスキルからによるものではなく……」
「ええ。周りの全てを甘い蜜で誘い、牙城を築き上げる過程でようやく推察するに至れたの。それまでに、沢山の子達を虜にしてね。……その過程で、息子や娘達は一種の信奉者のようになってしまったわ。私の望んだ難しい願いを叶えるほどの素養を持っていたことでね」
ああ、あの人たちから感じてた異質な感じの正体は、それだったか。
あれ、でもそれじゃあ……。
「アヤネは?」
「アヤネちゃんね、本来ならあの子達と同じような状態になっていたと思うの。けど、あの子は私の簡単なお願いも満足にこなせないくらい、本当に出来が悪い子だったわ。だからこそ、他の子達と違う事に気付けたの。ああ、この子は私の支配下にはいないんだって」
「……だから、突き放したと?」
「言い訳のように聞こえるかもしれないけれど、その通りよ。あの子はその能力から、私の呪縛から抜け出せるほどのレベルに至る事は困難。少しでも簡単なお願いをしてしまえば、一生私の傀儡になってしまいかねない。そのせいか、他の子達からも邪魔者扱いされてしまったけれど、下手な事をすると余計にあの子を傷つけてしまいそうで……。何もしない事に決めたの」
「なるほど……」
「だから、アマチさんがあの子を幸せにしてくれたことも、本当に感謝しているわ」
……ああ、もう。そんな寂しそうな顔は、アヤネそっくりなんだから。
俺の微細な動作を感じ取り、両隣が手を解放してくれる。
「
「……もう、私は大丈夫なのに。優しい子ね」
今度は彼女を、俺の意志で力強く抱きしめた。俺がこのスキルと出会ったことで、昔の俺が報われたように、この人もこんなに孤独に耐えて頑張ってるんだ。
彼女は、救われるべき人だ。アヤネと一緒に救われるべきだ。
「サクヤさん、俺はあなたを救ってみせる。だから教えてください、そのスキルの名前を」
「……その気持ちはとても嬉しいのだけれど、良いの? あなたには可愛らしい恋人達が沢山いるのに」
「問題ないですよ。彼女達が好きになった俺は、ここであなたを見捨てるような男じゃないんで」
「うふふ、そう。……でもこのスキル、自分の口で言うのは、少し恥ずかしいわね」
先程から強く抱きしめ続けているので、サクヤさんは俺の腕の中でしばらくモゾモゾしていたが、覚悟を決めたらしい。そっと、俺にだけ聞こえるようなか細い声量で、ぼそぼそと教えてくれた。
「『傾国の美女EX』!?」
「もう! そんなすぐにバラさないで欲しいわ……!」
「いやあ、お約束かなと思って。それにアイラには聞こえてるだろうし」
「まさかそんな。敬愛するご主人様と奥様との会話を盗み聞きするなど」
「嘘つけ」
白々しい反応をするアイラにツッコミを入れつつ、改めて今回の話を整理する。
まず、サクヤさんはダンジョン出現当初から『傾国の美女EX』の力によって、周囲の人間の全てを手中に収めてきた。その力も使うことで、彼女は日本をまとめ上げ、最初のスタンピードを乗り越えたのだろう。
そしてその際急激なレベルアップを経たことで、彼女の傀儡化可能な対象は爆増したが、孤独を感じた彼女はそのスキルを使って世界を牛耳るつもりはなかった。だから有効範囲を必要最低限、身の回りの人間にだけ留め、ダンジョンの謎を1人で追いつつ、呪縛を解き放ってくれる人を待ち望んでいたんだろう。
「サクヤさんは、必ず俺が助けますね」
「その言葉は本当に嬉しいのだけれど、良いのかしら。さっきからあなたが告げているソレは、ほとんど愛の告白よ?」
「……そこはまあ、救った後に考えます」
「あら、ひどい人ね」
多分だけど、俺がこの人の『傾国の美女EX』の効果対象にならなくても、ベロベロにされてしまうのは、この人が俺の好みのドストライクだからだと思うんだよな。
今までは変なスキルのせいという言い訳もできたが、サクヤさんは俺には意図的に使わないようにしていたと言うし、だとするならば、この感情は俺の本心だろう。
なんにせよ、確かな事が1つだけある。今後アイラや彼女達に節操無しと揶揄われても、反論のしようがないことだ。
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