ガチャ636回目:品格の種類とスライム

「アマチさん、もういいわよ」


 そう言ってサクヤお義母さんはそっと離れた。


「うふふ。こうやって純粋な気持ちで肌を触れ合ったのは、本当に何年振りかしら。とても嬉しかったわ、ありがとう」

「俺で良ければいつでも……と言いたいところだけど、今後の展望次第なところがあるので、確約できないのが申し訳ないです」

「うふふ、仕方ないわ。あなたは今や世界に名を残す存在なのだし、こんなおばさんを相手している時間はないわよね」

「そんなことは決してないです! ただこれは、その、俺の都合というかなんというかで……」

「……そうね。今の貴方なら大丈夫かしら」

「え?」

「アマチさんが気にしているのは、レベルでしょう?」

「「!?」」


 いつかはバレると思っていたが、やはりそこを突かれると、つい顔に出てしまう。だが、今の衝撃で注意が逸れたが、明らかに驚いていない奴がいた。

 裏切りは起きていないとしても、その反応の無さは問いたださなくてはならない。


「……アイラ」

「申し訳ございません、ご主人様。私の想像では、随分と前からバレている事は想定しておりました」

「そうなのか?」

「はい。確定情報では無かった為胸に秘めておりました。ですが奥様も、ご主人様の能力について、詳細は分からずともある程度把握した上でご主人様には何も伝えずにいたのではありませんか?」

「ええ、そうね」


 そうなのか。どうやら本当に泳がされていたみたいだな。けど、そこには嫌な感情もなければ嫌な予感もない。

 ひとまず、ここは黙って聞いておくのが吉か。


「アイラには、私の持つ能力の1つについて、以前ユキネちゃんから聞いていますね?」

「はい。対象の持つスキルのレアリティに応じた色のオーラが見えるようになる、と」


 え、何それすごい。


「てことは、俺と初めて会った時に……」

「ええ。アマチさんが『幻想ファンタズマ』スキルを持っていることは確信していたのよ」

「具体的に、それぞれのレアリティはどんな色で見えてたんです?」

「そうねぇ。何もスキルがない子や、『通常ノーマル』スキルしかない子は青色。そこから段階的に水色、緑色、赤色、紫色となっていって、『伝説レジェンダリー』は白、『高位伝説ハイ・レジェンダリー』は黒。そして『幻想ファンタズマ』は虹色に輝いて見えるのよ」

「……!!」


 その変化と順番は、そのままスライムの変化と同じじゃないか!

 思えば、『通常ノーマル』から『幻想ファンタズマ』までの品格は8段階だ。そしてスライムの通常カラーから虹までも8段階だ!

 くそ、最近になって『高位伝説ハイ・レジェンダリー』の存在によって品格の種類が7種から8種に増えたのに、どうして今までそこに気付けなかったんだ……!

 普通に悔しいぞ。


「お兄様……? どうしてそんなに悔しそうなの?」

「ああ……。イズミには俺のコレを入手した経緯を教えただろう?」

「ええ」

「アレの進化の系譜と、今サクヤお義母さんが教えてくれたレアリティのカラーと数が、完全に一致してるんだ」

「あっ……!」


 イズミも俺が悔しがっていた理由を理解できたようだ。続いて、その進化の系譜について、口に出して良かったのかという心配も顔に出ているが……。

 まあ、この人の事だし、今このタイミングでその話題を切り出してきた以上、そこも把握してそうな気がするんだよな。


「実はアマチさんが3年間挑み続けてきた『アンラッキーホール』だけれど、あそこに隠された秘密には気付いていたわ。私のスキルから着想を得てね。だから出現当初は、私の部隊を派遣して挑戦させていたの」

「そうなんですか?」

「ええ。だけどどんなに数を重ねても、出現を確認できたのは5番目の紫まで。見えるオーラの色を考えれば、順番的にその先には3個の色が隠されている可能性は極めて高かったのだけれど、その時は『運』を高めた人員はほとんどいなかった事もあって、あまりにも天文学的な確率に撤退を余儀なくされたの。その時期は、アイラが前線から退いた事でできた穴を埋めるために、部隊の練度を高めていたタイミングだったことも重なって、部隊を遊ばせておく暇はなかったのよ」

「なるほど……」


 色々とタイミングが重なっていたのか。そういえば、俺があのダンジョンの常連となり始めたころ、あのダンジョンには何もないと察して他所のダンジョンへと消えていく冒険者達の中に、それなりの頻度ですれ違った人達がいたなぁ。あの人達がサクヤお義母さんの部隊の人だったんだろうか?

 さすがに顔はうろ覚えだけど。


「ふふ。やっぱりアマチさんは、その先を自力で発見し、そしてたどり着いたのね。私の部隊が撤退した後も、あなたがずっとあの場所で狩りをしていたのは把握していました。納める魔石の数からしても、僅かな『SP』を使って徐々に『運』を高め、とんでもない試行回数を重ねていたことも。あの時あなたの『運』は、私の手の者が確認していた限りではたったの60前後だったはず。それにもかかわらず、あなたは果てへと至ることができた。そこへ達することのできたあなたの根気と執念には、心から感服するわ」

「サクヤお義母さん……」


 なるほど、部隊を撤退させた後も、定期的に監視されていたのか。

 そりゃそうか。俺の行動なんて、魔石の生産量を見れば筒抜けだっただろうし、そこから俺が何を目指しているのかも理解した上で放置されていたんだ。

 俺のあまりにも低い成長スピードでは、この先何年かけても達成は困難であろうと。でも経過は知っておきたいから、人を派遣させていたんだな。

 たまにダンジョンを物珍し気に見に来る人もいたけど、多分そんな中に『鑑定』持ちの人が混ざってたってところかな。んで、俺がお目当ての『レベルガチャ』を獲得して『初心者ダンジョン』に移動したのは、丁度監視の目が届いていないタイミングだったんだろう。おかげで、サクヤお義母さんが察知するよりもはやく、アヤネが先に気付いて近付いてきてくれたと。

 そんな感じかな。


「レア狙いであることを理解した上でなお、俺を放置していた理由はなんですか?」

「実はアマチさんのことは、10年前のダンジョン出現騒動の際からマークしていたの。……他者と比べても圧倒的に低いステータスと、その成長値。何かあるのではないかと調べさせたわ」

「でも、何もなかったと」

「……ええ。神の悪戯か、不自然なほどに何も無かったわ」

「まあそこは、初期ステータスを思えば納得できますよ。だって、『運』が2しかないんですから。悪運の星の下に生まれたとしか言いようがないですよ」


 そうぼやくと、不意に両隣から柔らかく温かい感触が押し当てられた。


「まあ、今はそんな時期の『運』を逆転させられるくらい、楽しくやらせてもらってますけど」

「ふふ。そのようね。それで、あのダンジョンに挑み続ける貴方を放置していた理由だけれど、私の見落としている何かがあなたにはあって、それが開花してくれるんじゃないかって、小さな可能性に賭けて勝手に期待していたの。だけど、あなたが持っていたのは特殊な技能でもなんでもなく、ただ不屈に挑み続ける精神力だったということね」


 サクヤお義母さんが手放しに褒めてくれると、つい頬が緩んでしまう。


「……ここまでバレてるんなら、サクヤお義母さんには俺のスキルを伝えても良いかなって思うんだけど」

「うふふ、その気持ちだけで十分よ。それに、ミキ姉さんには伝えられていないのに、私が先に知る訳にもいかないわ」


 それはあれかな。順番的な話かな?


「話は戻すけれど、私には相手のオーラをはっきりと見る能力があるわ。そしてそれは、当然色だけではなく――」

「強さそのものも目視ができる。そういうことですね」

「ええ、正解よ」


 だから、俺のレベルが日によって違う事が分かったんだろうな……。そんな真似ができるのは『幻想ファンタズマ』スキルでしかありえないと。そう判断した訳だ。

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