ガチャ635回目:孤独の魔女

「皆さま、ごきげんよう。今宵は宝条院家主催のパーティーにお越しいただきましたこと、誠に感謝しておりますわ」


 サクヤ義母さんが簡単な挨拶を行い、続いて今回のパーティーを開いた経緯を軽く説明してくれる。まず最初に、俺がアメリカの難関ダンジョンを突破したこと。そして第二チームのカスミ達が第二ダンジョンの1つを制覇したことを理由として語ってくれた。

 ただまあ、それは表向きの理由であって、裏の理由があるはずだ。それが何かまでは会ってみないとわからないが。


 ちなみに俺がこのパーティーに参加する上で求めた物は、以下の2点だ。

 まず、カスミ達を第一エリアの支部長達と繋ぎ、紹介と顔合わせを同時に行う事。これは今後の活動を続けていく中で、必須事項だろうし、イズミはちゃんと渡りをつけてくれたので一安心だ。

 そして第二に、今の状態の俺でサクヤ義母さんに魅了されず乗り切る事だ。乗り越えた後はガチャでレベルがリセットされてしまうが、何となく一度でも乗り越えてしまえば、あとは何とかなる気がするんだよな。理由はわからんが、直感がそういうんだからそうなんだろう。

 あとは問題の、サクヤ義母さん側の思惑だが……。今のところは全く分からんし、俺が分かったところでどうしようもできない点は多々あるだろう。政治とか。その点についてはうちの彼女達が把握していればいい事だし、俺が知っておく必要があるのなら、アイラが教えてくれるだろう。


「今のところは問題ありません」


 だそうだ。

 にしても、勝手に参加者を一組追い払ってしまったけど、話題にすら上がらないとは。あいつらは語る価値すらないと言うことだろうか。

 その後、話を終えたのかサクヤ義母さんは部屋の奥へと戻っていき、義兄のユズルが何か言いたそうにこっちに近づいてきた。だけど、言葉をうまく紡げないような顔をしていて、どうしたものかと思っていると義姉さん達2人が連行して行った。

 なんだったんだ? まあ良いけどさ。


「そういえば、前回ユズルお兄様は、旦那様に相応しいポストを用意すると言っていた気がしますわ」

「そういやそうだっけ」


 あんまり覚えてないなぁ。あの人について覚えていることは、握手で圧倒したことと、人の話をまるで聞かない人であることくらいだ。

 うん、全くいいイメージがない。


「ですのに、旦那様はご自身の力で、そんなポストなど歯牙にも掛けない立場に収まっているんですもの。どう声をかけていいか分からなくなるのも仕方がありませんわ」

「そうやってマゴマゴしてる内に、義姉さんたちに連行されてしまったと」

「だと思いますわ。旦那様はこれから、お母様とのお話がありますもの。ですから、ユズルお兄様との時間は無駄だと判断して、姉様達は気を利かせてくれたのだと思いますわ」

「なるほどなぁ」


 そんじゃ、義姉さん達がせっかく動いてくれたのに、俺が無駄にするわけにもいかないからな。早速サクヤ義母さんのところに向かうとするか。


「……それじゃ、ちょっと大事な話をしてくるから、大人数でズカズカ行くのは止めておこう。メンバーは、俺とアイラ。それからイズミ。この3人で行こうか」

「畏まりました」

「はいですわ!」

「ショウタさん、いってらっしゃい」

「今のショウタ君なら大丈夫だと思うけど、気を強く持つのよー」

「って、あたしも一緒に行くの!?」

「そりゃね。イズミは管理者でもあるけど、それ以前にメンバーの体調管理やオフの日のスケジュールも把握してるでしょ。表のリーダーはカスミでも、裏のリーダーはイズミなんだから、何もおかしくはないぞ」

「もう、その事は恥ずかしいからお兄様には内緒にしてたのに~。誰よ、話したのは~……」

「いや、これは俺の直感で、多分やってそうだなって思ったから言っただけなんだが。その反応からして、バッチリ当たってたか」

「うぅー……。分かった、行くわ」


 渋々とだがイズミも横に並んでくれる。イズミがこうなるってことは、サクヤお義母さんの武勇伝か何かを聞いていて、それに怯えてたのかな?

 まあこの先、皆あの人の親族みたいなものになるんだから、慣れておいてもらわないとな。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 宝条院家のメイドによって案内されたのは、以前訪れた時と同じ執務室だった。扉を開け中に入ると、サクヤお義母さんが満面の笑みで迎え入れてくれた。


「アマチさん、お待ちしておりました」

「ただいま、サクヤお義母さん。お元気そうで何よりです」

「うふふ、本当に無事でよかったわ。信じて送り出した甲斐があったようね」


 そう言いながらサクヤお義母さんが立ち上がり、俺の傍へとやってきて手を握ってくる。


「……」

「あら、アマチさん。どうかされました?」

「いえ、相変わらず綺麗な人だなと」

「まあ。うふふ、私もミキ姉さんのように口説かれてしまうのかしら」


 本当に、一つ一つの所作が綺麗で、目を奪われてしまう。

 いつもならその自然な動きに目を奪われ、近付いてることにすら気付けず、手を握られた段階で目が覚めていたんだろうけど、今日は彼女の動きをはっきりと認識できているな。

 本当に……不思議な人だな。動きを見破ったからこそ、改めて彼女からは敵意や害意が全くないことが分かる。だからこそ、スルスルと意識を持っていかれていたんだと気付かされる。

 以前サクヤお義母さんに聞いた時、その手の『魅了』に類するスキルは持っていると言っていた。でも、いくら本人に他者を騙すつもりがなくても、その洗練された動きと美しさで相手の意識を短時間奪ってしまうせいで、相手が警戒心を抱いてしまうとしたら、なんともまあ……可哀想な話だ。


「あら、アマチさん。それは少し違うわ。私は自分の力をきちんと理解しているわ。制御こそできないものの、意識して使いに行っている相手もちゃんといるのよ?」

「俺が相手の場合、『魅了』の効果が乗らないように細心の注意を払っていることが、今日はっきりとわかりました」

「うふふ、勿論よ。私はあなたに嫌われたくないもの」


 サクヤお義母さんが今までにないくらい嬉しそうに微笑んだ。それがまた本当に嬉しそうで、雰囲気はまるで違うがちょっとアヤネに近い気配を感じた。

 それでつい、魔が差したというか……。思わず抱きしめてしまった。


「……! ああ、とっても暖かいわね……」


 けど、驚きこそしたもののサクヤお義母さんは素直に抱きしめられているし、背後にいるアイラとイズミからも、無理やり中断させられるような事はなかった。少し衝動的だったとはいえ、あんな顔を見せられたらな。

 この人は、人の温もりに飢えていたんだ。

 だから、それからしばらくの間、俺は普段アヤネにしているように、彼女を抱きしめるのだった。

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