ガチャ633回目:ワンパンKO

 飛ばされた場所は玄関前の広場か。

 『決闘』は発動者を中心に結界が生成され、邪魔者は外に弾き出される仕組みだと思っていたが、人数が多いと弾き出されるのは逆になるのだろうか? 勉強になるなぁ。

 そう思っていると、身体が急激に重くなった。俺が知っているのとは比べ物にならないくらい身体が怠さを感じている。相手の側には仲間と思しき女が2人控えているし、彼女達とあの名前も知らないガキンチョのオーラが爆発的に増加しているのを感じる。

 一応結界を視てみるか。


「『真鑑定』『真理の眼』」


 名称:決闘Ⅷ

 品格:≪伝説≫レジェンダリー

 種類:スペシャルスキル

 説明:現在の魔力の半分を消費し、自分と相手を外部から完全に隔絶した世界へと閉じ込める。その際(5+スキルレベル×5)%分のステータスを自身に加算し、相手からは同等の割合ステータスを減算させる。また、自身に降りかかるあらゆるデバフを打ち消し、決闘によるその効果を周囲にいる全ての同族に与える。

 ★自身が仲間と認める人間をスキルレベル分決闘フィールドに呼び出せる。


 おお。言うだけのことはあって『決闘』のⅧか! こりゃすごい。こいつはカスだけどスキルだけは認めてやってもいいな。しっかし、普通に考えれば『決闘Ⅶ』のモンスターが出て勝利しまくったとか、『裏決闘』持ちの連中で勝ち抜き戦させてぶんどったとか、手段はあるにはあるが限られている。どうやって確保したんだ?

 まあ、聞いたところでこいつが素直に答えてくれるとは思えんし、機会があれば後で自力で調べるとしよう。


「んー……」


 んで、Ⅷだから減少率も4.5割と。ほぼ半減じゃん。おかげさまで俺のステータスが……うん。それでもまだエスの3倍近いステータスはあるんだよな。半減してもこれなんだよな……。全然弱くなった気がしないわ。そしてこれでもまだ扱いきれない数字だっていうな。

 ただ、問題は『頑丈』なんだよな。こればっかりは半減もすると色々と致命的だ。特に『炎』属性なんて、この間全身を焼かれたばっかりだし、いい思い出があんまりない。


「ははは! どうだ、恐れ入ったか! 弱体化した理由も分からず、震えながら死んで行け!!」

「つーか、俺を殺して良いわけ? どうせお前じゃ攻略できないっつーのに」

「ふん。俺は最初から貴様のような部外者をダンジョンに入れること自体反対だったのだ。あのようなダンジョン、いずれ俺たちの手で制覇してみせる。今回は政府の連中が貴様を呼べというから仕方なく魔女の誘いに乗って、こんな辺鄙な場所にやって来たのだ。だというのに、貴様は俺の誘いを断るばかりか、俺を下に見た態度……! 許せるものか!!」


 最初から許す気なんて無いくせによく言うよ。


「あと、お前やっぱ馬鹿だろ。こんな公衆の面前で俺を殺しでもしたら国際問題だろうが」

「ハハハ! 国際問題? 貴様は何もわかっていないな。こんな辺鄙な島国など脅威ではない。貴様らは誰一人として俺を傷つける事など出来はしない!」


 随分と自分の能力に絶対的な自信があるみたいだな。

 奴の『炎』の力が、エスの『風』と同様の幅広さを持ってる可能性を思えば、奴が好き勝手に振舞えば、この辺り一帯を簡単に火の海にするくらい造作も無さそうではある。


「確かに貴様の発見した『楔システム』とやらには驚かされたが、すぐに俺達が追い抜いてみせる。せっかくだ、貴様を殺したあとその秘密を暴き、有効活用してやろう!」


 奴の言う通り、俺が死ねば『幻想ファンタズマスキル』はフリーになって解放されるだろう。けど、こいつらじゃ一生掛かっても手に入れられないだろうな。

 辛抱強くもなさそうだし。


「どうした、構えないのか? 無抵抗だと盛り上がらんだろうが!」


 奴は腕に炎を纏い、正拳突きを繰り出した。

 炎は直線上に伸びていき、俺の真横を通り抜けて行った。軌道から見て当たらないのが分かってて避けなかったが、奴は見切れなかったと思ったようで、痛快そうに顔を歪めた。


「本当におめでたいやつだな」


 しかし、根っこが腐っても『炎』使いというのは伊達ではなさそうだ。技名もなく、自然な動きで炎を操り攻撃してきた。まともに相手をしていたら大変なことになるだろう。本気で相対した場合の危険度は、エスにこそ劣るものの、『決闘Ⅷ』の効果で付随したバフ・デバフは重たいものだし、奴の強化された仲間も、うちの彼女達レベルには強者だ。

 まあ、だが。


「もうこのくらいで良いか。……ウォーターボール」


 俺は手の上に、見た目は水の玉を作り上げた。


「……貴様、何のつもりだ?」

「なに。お前にはコレだけで十分だと判断したまでだ」

「#%*;!?」


 キレすぎて母国語が出ちまってるぞ。

 俺も英語以外勉強してないから何言ってるかさっぱりだけど、怒ってることだけは確かだな。奴の仲間の女達も、すごい形相で槍と棒を構え、全身で炎を身に纏った。あの感じからして、『炎の鎧』や『灼熱の鎧』とは完全に別種の何かだな。アレも興味は尽きないが、さっさとこの茶番を終わらそう。

 俺は頭上に広がる結界に向けて、勢い良く投げた。


「もういい……死ね!!」


 奴らは全力で俺に向かって駆けてくるが、奴らの攻撃が俺に届くよりも、俺の放った水の玉が結界に触れる方が早かった。


『パキン!』


 薄い氷を踏み抜いたような音が鳴り響くと、目の前に迫っていたガキンチョは突然ヘッドスライディングを決め込み、頭を抑えてうずくまった。並走していた女たちも、突然の変化に驚き立ち止まる。


「グ……アアアアアァァ!」


 いつぞやのリザードマンのように全身から血を吹き出すかと思ったが、そうでもないな。普通に頭痛だけのようだ。

 コレから考えられる可能性は3つあるな。

 まず第一、モンスターと人間とで効果が異なる可能性。

 第二に、『決闘』のレベルに応じてフィードバックされる威力に軽減が付く可能性。

 第三に、前回は俺が『裏決闘』を重ねていたせいで、フィードバック効果が跳ね上がっていた可能性。

 まあ何にせよ、試せる相手なんて滅多にいないから、今回の事は心の片隅にでも留めておこう。


「にしても、あんなに自信満々だったのに、『結界』を破られることをまるで考慮していないとは、なんとも間抜けな奴だ」

「グ、ギ……ザマァァ!」


 反撃のためか身体に炎を纏おうとするが、すぐに霧散されてしまう。どうやら結界が破壊された衝撃は、全身から血を吹き出さなくても、かなり長時間の間、身体を苛むらしいな。

 まあ反撃されたら面倒だし、さっさと刈り取るか。


「じゃあな、クソ雑魚」


『ドガッ!』


 ちょうど良いところに奴のアゴがあったので、思いっきり蹴り上げてやった。すると奴は何度かバウンドした後動かなくなった。

 あー……生きてるかな? ちょっと心配になったが、奴の仲間が駆け寄り、安堵した様子を見て俺も安堵する。あんなドクズとは言えど、人を殺す感覚は『裏決闘』の時くらいで十分だ。

 ちなみにシェイプシフターは人じゃないのでノーカンである。


「動けない相手に追い打ちをかけるなんて、この卑怯者め!」


 女の片割れが、槍を構えながらヒステリックに叫ぶ。


「はぁ? お前らが俺を殺すのは良くて、反撃されたら卑怯? 甘えた事言ってんじゃねえよ」

「ガハッ……!」


 コイツにも一発、間合いを詰めて鳩尾にグーパンをお見舞いする。骨をヤった嫌な感覚が手に残るが、高レベルだし死にはしないだろう。回復魔法は吹き飛んだ部位すら復活させるんだし、後遺症もそう残らないんじゃないかな。

 ……いや、自然治癒したあとの『回復魔法』では後遺症が残っちゃうんだっけ? まあどうでもいいか。


「ヒッ……!」


 1人残った最後の一味は、武器を取り落とし戦慄しているが、流石にコレに攻撃したりはしない。荷物を持って帰ってもらわないと。


「おいお前。起きたらこいつに伝えておけ。俺に2度と関わるなと。それから今後スタンピードが起きて救援を呼ぼうとも、俺は絶対に助けに行ったりなんかしない。それでも助けて欲しけりゃ誠意を見せろとな」


 女がコクコクと頷いたのを見届け、外を指差す。


「分かったらそいつらと落とし物拾って消えろ。目障りだ」


 そうして奴らの姿が消えるのを見届け、振り返ると彼女達が突っ込んできたので、何も言わずに抱きしめ合う。彼女達と順番にハグをして行くうちに、ささくれ立った心が冷めていき、冷静さを取り戻すと、もう1度ハグを1周するのだった。


「あ、そういえば、動画は撮ったか?」

「はいっ」

「はいですわ!」

「バッチリだよ☆」

「皆ナイスー」

「それでお兄様、これどうするー?」

「当然、編集したやつをテレビ局とネットに公開する。今回の場合無編集でも良いかもしれんが。それとシルヴィ、悪いがそのデータを696協会に流してベン叔父さん経由でアメリカでも発信するようにしてくれ」

「え、良いの?」

「いいのいいの。奴らに俺が『決闘』対策のスキルを持ってることは教えてやろう。そうすればより一層、スキルが使用不可の『裏決闘』に拘るはずだからな」


 多分だけど。

 まあなんにせよ、ようやく1人目の冒険者の接待が終わったか。あと何組いるか知らないけど、こう言う輩はこれっきりにして欲しいな。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る