ガチャ632回目:激情の炎
さて、くだんの『炎』使いのガキンチョだが、やっぱりまだこちらを睨み続けている。『悪意のオーラ』の効果で、表面的な感情が読み取れるんだが……。うん、最近何かと話題な俺が気に食わんって感じだな。
それで悪意をばら撒く辺り、マジでガキンチョだな……。
「あんなに構ってアピールされたからにはどうするべきか。行くのも面倒だし後回しにするのも面倒だな」
「どちらにしても面倒なら、さっさと片付けておいた方が気が楽じゃないかな?」
「……それもそうだな。エス、とりあえずあのガキンチョの事を簡単に説明してくれ」
「そうだね……簡単に言えば、ダンジョンを抱える国々の中で自分の国こそが世界で一番強いと思っていて、その中で自分こそが最強なのだと、周りから唆されて増長した子供、ってところかな」
「分かりやすい説明をありがとよ」
そんなん、反りが合わないとかそういうレベルじゃないだろうな。考え方というか価値観が違い過ぎる。どうりで、俺だけじゃなく周りにも敵意バリバリにむき出してる訳だ。納得。
そんなのを相手しないといけないのかとため息が出てしまうが、これも俺の仕事か。諦めて、渋々近寄る事にした。
「……」
「……」
……が、目の前に来たのに話しかけてすら来ないぞ。なんなんだこいつ。
てか、デジャブを感じるな。前もこんなことなかったっけ? あの時は握手で相手の心をへし折ったが、自分から話しかけてすら来ない奴は、そもそも握手すらしてこないかもしれんな。
「……用はないみたいだし、他を当たろうか」
「おい、待て」
他に目線を動かすと、ようやくしびれを切らしたのか話しかけてきた。その上、自分から話しかけた事が大層プライドを傷つけられたような顔をしている。
「なんだよ?」
「お前、俺を誰だと思っている。さっきから無礼ではないか!」
「おまいう」
「何だと?」
おっと、思わず口に出ちゃった。
「どういう意味だ。分かるように言え」
ああなんだ、通じなかったのか。まあ日本語覚えたての外国人に、日本のネットスラングは通じにくいよな。意訳してやる気もないが。
「つーか、お前のことなんて知らんし」
「ふん、お前といいこの国の連中は駄目だな。弱小国は情報でも弱小だということだな」
もしかして、自分は最強だから国の外に出てもちやほやされると思ってたんだろうか? それはまあご愁傷さまだな。国内のSランクですら、一般人にまではほとんど情報が降りてこないってのに、国外のSランクなんて情報が回る訳ないんだよな。わざと情報を出し渋ってる国すらあるみたいだし、なおさらだ。
「それにしてもだ。こちらが下手に出てやっているというのに、こいつらもお前も、あまりにも不遜が過ぎる。俺はSランクだぞ。Sランク以下は俺に頭を下げるべきだ」
奴の背後にいる女性2人が頷いた。
まったく、ダメなSランクの典型を見ているような気分だな。こうはなりたくないものだ。
てか、日本語で喋りかけてきてるのがこいつにとっての下手なのかもしれん。他国に自分からやってきた以上、相手の言語に合わせるのは最低限の礼儀だと思うが、こいつにとっては違うのかもな。知らんけど。
「お前、俺についてそこのエルキネスから何も聞いていないのか」
「お前とは馬が合わないって話は聞いた。それで十分だろ」
「ふん、同じ『元素使い』として一目置いてやっていたが、俺とは格が違い過ぎたか。それに、スピードスターだと謳われてのし上がってきたくせに、最後には他国の……それも日本などという弱小島国に助けを求めるとは、不甲斐ないことこの上ない」
棚上げすんなよ。どうせお前もその口で来たんだろうが。
「ふん、まあいい。おい、レアモンハンターとやら。貴様に我が国のダンジョンを攻略する権利を与えよう」
「はぁ。おたくの国は、攻略するのにあんたの許可がいるのか」
「当然だろう。あのダンジョンは俺がモンスター共を討伐しなければ、簡単にスタンピードが発生しかねないのだ。俺がいればこそあの街、ひいてはあの国が存続し続けるというもの。ならばあのダンジョンの支配者は俺となるのは自然の摂理だ」
こいつがいなければスタンピードが簡単に起きるって、それってもしかしなくてもエスのとこと同じ状況って事だよな?
ということは、こいつもそのダンジョンで『炎』のスキルを得たってことか。となると、スタンピード誘発型ダンジョンは、属性スキルの生産地ということか? これはますます、他所の誘発ダンジョンでの期待が高まるな……。
てか、こいつの言動と、顔つき。それから誘発ダンジョンが国内にあるって情報で、大体どこの人間かわかっちまった。『楔システム』の効果で、誘発ダンジョンがどの国にあるのか、俺には筒抜けだからな。
「一応聞くだけ聞いといてやる。クリアした報酬は?」
「もう報酬の話か。自信過剰、いや。傲慢な男だな」
おまいう。
「本来貴様のような下等民族が俺から報酬をもらおうなどと分不相応だが、俺は寛大だ。特別に褒賞を与えようではないか」
「前口上が長い。早く言え」
「ちっ、無粋な男だ。……まあいい、貴様には特別に俺のダンジョンで得たスキルをくれてやる。どれも我が国でしか見つかっていない貴重なスキルだ。ありがたく受け取るがいい」
ふーん、独自スキルね。
「兄さん、一つ言っておくね。彼の言っているスキルには心当たりがあるんだ」
「おい、エルキネス。余計なことを言うな」
「正確には彼の国でしか見つかってないんじゃなくて、その見つかった経緯が恥ずかしすぎて、他の国では見つかったとしても口を閉じてるだけの可能性があるよ」
「ほーん?」
なんだそれ。面白いな。
まあそれは後でゆっくり聞くとするか。勿論それはエスからであって、こいつからではない。
「出発は明日だ。準備しておけ」
「いや、行かねーけど。何で俺が参加すること前提になってんだ」
「何だと? スキルの重ね掛けすら最近になって知った弱小国に、本物のダンジョンを攻略する名誉を与えてやると言ってるんだぞ!?」
「名誉とか微塵も気にしてねえから。そんなもん犬に……いや、スライムにでも食わせとけよ」
スライムは残飯どころかなんでも食うからな。多分。
とはいえ、それは普通のスライムのことであって、イリスは俺と同じ嗜好だが。
「なんだと……!」
「それに、ダンジョンの管理権限。どうせそれも寄越せとか抜かすんだろ」
「当たり前だ。聞いていなかったのか? あのダンジョンは俺のものだ。俺が支配するのも当然の帰結だろうが」
「そんなセリフは自分でクリアしてから吐けよ」
自分でできもしない癖に人の成果は奪うとか、頭蛮族かよ。
てか、俺がトロフィーとか鍵の欠片やら集めたら、結局所有権俺になるって知らないのかね? 多分知らなさそうだな。こいつ馬鹿っぽいし。下手に攻撃能力だけはあるから、こいつの所属する国も良い感じに操ってるんだろうけど、手綱を離すなよな。まったく。
……いや、馬鹿ならそれすら知った上で寄越せとか言ってきても不思議ではないか。でもそうする為には、結局自分でももう一度同じ道を辿って俺に挑戦する権利を得て、そこから勝負をふっかける必要があるわけだが。完全に二度手間なんだよな。
そう考えるとただの骨折り損だし、やっぱ知らないって線が濃厚か。
「貴様は何を言っているのだ。ダンジョンはその国に住う国民が手にするものだ。だからこそ貴様は、エルキネスのダンジョンを制覇しても手にすることはできなかったではないか!」
あ、もしかして『楔システム』で連結していないから、権利をもらってないとか勘違いしちゃってるのか。さっきの勘違いの延長線であれば、その考えに行き着くのも不思議ではない、か。
「まあ何にせよ、俺はお前の国にもダンジョンにも、あとお前にも興味はない。だからお前の希望は叶いませーん。とっととお引き取りくださーい」
しっしと手で払うと、奴の堪忍袋がブチギレたのか、顔を真っ赤にした。
そして俺を指を刺し、こう宣言した。
「貴様……! 平和ボケした国の雑魚が! 俺の恐ろしさを知らない無知を後悔させてやるぞ!」
「恐ろしさ? 恐ろしいほど馬鹿って意味じゃなく?」
「もう許しを請うても手遅れだぞ……!」
奴の全身から炎が吹き上がる。感情と一緒にスキルが発現するとか、ちゃんと制御できてんのかね、これ。
「はぁ。お前の許しとかいらんし。てか、その程度の炎で俺が怯むとでも思ったか?」
俺の『灰燼剣』を火炎放射器だと例えるなら、この程度の炎は点火棒……チャッカマンレベルだろ。脅しにしてももうすこし火力出せよ。
「ハッ、貧弱な炎だな」
「……さんぞ」
「なんて?」
「絶対に許さんぞ! 俺は貴様に『決闘』を申し込む!!」
「おっ?」
視界が暗転し、俺達は屋敷の正面玄関に飛ばされていた。俺は一人で、奴の背後にはイエスマンとなっていた2人の女性。
「っはー。馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、
多少煽りはしたけど、こんなん人前で使ってくる時点でアウトだろ。
さて、どうしてくれようか。
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