ガチャ616回目:ショートカット

 その後、戻ってきた俺達をカスミ達が全力で迎え入れてくれた。どうやら、外では1時間近く経過していたらしい。そうしてダンジョンの外へと出ると、大阪城周辺では観光客や冒険者、果てには野次馬などでごった返していた。彼らの視線の先を見てみると、そこには東に向かって伸びる2本の『楔システム』の結界が見えたのだ。

 まあ、あれが突然現れたらビビるよなー。

 しかしまあ、第一エリアの支配ダンジョンと直線を結んだ間に、他のダンジョンが存在しなくて本当に良かった。余計な物が挟まってたら、『696ダンジョン』のように孤立した状態になってたかもしれない。

 そうしてそのままダンジョン近くにあるホテルへ直行。

 その日はめちゃくちゃ頑張りました。はい。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 翌朝、目が覚める頃には『楔システム』の連結によって、カスミ達が攻略した事実は真実である事が広まっていき、突発的に行われることとなったSランク授与式にも沢山の見物客が訪れる結果となった。

 彼女達は皆、一様に緊張していたが、自分たちの頑張りが認められた結果のためか、どこか誇らしげだった。


 そして彼女達が褒められているのを関係者席でぼーっと眺めていると、インタビューには何故か俺も呼ばれてしまった。せっかくなので、先日の家凸によって一部メディアが出禁になった事もその場を借りてぶっちゃけたりした。それと同時に気配とオーラを強烈に放って「以後このような事が無いように」と忠告したところ、会場にいた人達だけでなく、画面を通して観ていた人達にも届いたらしい。

 その日の内に第一エリアと第二エリアの協会宛に、一部メディアからは謝罪が届き、公式HPにも掲載されたらしいが、当日に詫びを入れない時点でアウトなので、反応のないメディア含めそれらは以後完全出禁。

 後の処理は上に丸投げすることにした。

 ちなみに中継を見ていた冒険者達は、その出来事に対しては割と受けが良かったらしく、掲示板が大盛り上がりしてたのは少々意外だった。


 授与式により、彼女達は俺と同じく新たなSランクとして無事に仲間入りを果たし、そのあと彼女達の家族と一緒になってお祝いパーティーを開いたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そしてまた一夜明け、翌日。彼女達の両親からも許可を得て、カスミ達の拠点を関西第二エリアから関東第一エリアへと移動することが決まり、引越しのための準備を整える。と言っても、前日までにまとめた荷物の中で、軽い物を俺が持ち、家具とかそういうのは配送業者に依頼してすでに運送済みである。数時間もすれば、向こうにいる彼女達が受け取ってくれる手筈だ。

 それとあれから音沙汰のないエスについてだが、実は一昨日の段階でお土産を買った後、ひとりそそくさと第一エリアへと帰っていたようだ。まあ、せっかく旅行というていでシルヴィと一緒に来たのに、翌日には俺の足に使われて別行動を余儀なくされたもんな。

 薄情だとは言うまい。


「それでお兄ちゃん、また『大阪城前ダンジョン』に来て、何か用事があったの?」

「駅に向かって新居を目指すものだとばかり思っていたのですが、何か兄上の興味を惹くモンスターがおりましたか?」

「といってもー、ボク達がお兄さんに見せた映像って、ダンジョンボス戦くらいだと思うけど……。あ、もしかしてお兄さん、ダンジョンボスを湧かせられるとか!?」

「本当ですか? 流石はお兄様ですわ……!!」

「いやいや、流石にそれは無理だよ」


 結局イリーナだけは、2日経ってもずっとこの調子なんだよな。俺を神の使いか何かだと思ってるんだろうか。

 これ、俺のレベルが下がればマシになるのかね? 今後全員と結婚するとしても、1人だけ祈りを捧げてくる信奉者とかいたら、流石にちょっと嫌だぞ。


「お兄様がどこへ向かわれようと、指示してくだされば、全力でお守りいたします」


 ダンジョンへの入場と同時に、盾役のハルが正面に立ってくれる。このあと戦闘の予定はあるし、今はエンキがいないから頼りになるかもな。

 でも、それはここではない。


「ありがとなハル。けど、今はまだ大丈夫かな。とりあえず、人のいない所に行こうか。ちょうど前回行った行き止まりは、今も人がいないみたいだし、そこにしよう」

「そうね、お兄様☆」


 イズミものマップを起動して確認していたようだ。このマップ、やはりというかコピーをした段階から情報が更新され始める仕組みのようで、2日前にイズミが起動した段階では、この『大阪城前ダンジョン』のマップは、俺と全く同じ狭い範囲でしか表示されていなかった。

 ただ俺と違ってイズミは、ネタバレがなんだと気にしたりはしないので、即座に全開放してたが、第二層以降は踏み込んでいないのでどうあがいても開放はできない様子だった。遠慮なく開放する姿勢は俺もびっくりしたが、攻略済みだしな……。

 ちなみに俺からコピーした『アトラスの縮図』であることから、イズミがマップデータを更新したら、俺のマップデータにもデータが反映されるんじゃないかと思っていたが、そういうことにはならなかった。

 どうやら完全に個別で動いているらしい。ちょっと残念だ。


 しかし、軽く試してみたところダンジョン間のワープ移動はイズミのマップでも健在のようで、今後も個別に行動するなら、快適に攻略ができるはずだ。

 ちなみにこの『アトラスの縮図』を利用したワープ移動だが、何もダンジョンに入らずとも、外の世界で使用することだって可能だ。だがなぜ今回、わざわざダンジョン内での使用を選んだかと言うと、当然理由がある。それは、この効果が使用したタイミングで10メートル以内にいる生命体全てを、問答無用で移動させるからだ。

 ダンジョン内なら『アトラスの縮図』で付近に誰もいないことを確認できるが、外の世界だとそうはいかない。屋外はどこもかしこも人で溢れているし、屋内なんてもってのほかだ。いくら俺が周囲の気配を読めるといっても、にいる別階の人間の存在までは感知が難しいからだ。

 あと、一部の勢力に使と誤認させる為でもある。こういう根回しって大事だよな。


「お兄様、到着しました」


 先頭を壁役として進んでいたハルが報告をくれる。今更ゴブリンくらいどうってことはないが、張り切るハルが可愛いので野暮なことは言うまい。


「おう、ご苦労様。それじゃ、全員集合ー!」

「「「はーい」」」

「「「はいっ」」」

『ポポ』

『プルン』

『キュイッ!』


 彼女達は俺を中心に円陣を組み、エンリル達は足元に群がる。

 周囲に人影がないことと、白点が存在しないことを確認して、マップを起動。そしてタブを切り替え他のダンジョンリストを表示させる。現在選択可能なダンジョンは6つだ。

 俺はその中から『初心者ダンジョン』を選択し、人のいない場所を探す。しかし、第一層も第二層も、どこを見ても人人人。とんでもなくごった返していた。


「うへー、相変わらずめちゃくちゃ人気だな」

「えっ?」

「これって……」


 彼女達は俺の手元に映るダンジョン情報の違和感に気付き、困惑した様子を見せている。そういえば昨日も一昨日も、『アトラスの縮図Ⅱ』で可能になった機能を、話す暇がなかったんだよな。

 まあ、あとで良いか。


「それじゃ、飛ぶぞー」


 俺は有無を言わさず、ワープ機能を選択した。行き先は、第二層の中で周囲の視線が通らず、人もあまりこなさそうな――。

 そんな条件を満たすのは、やっぱり『マーダーラビット』の出る森の中だな!

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