ガチャ615回目:サプライズのために
スキルの一覧に『魔力超回復LvMAX』が2つ並ぶ事象に、俺は心から満足していた。
「パンドラがやれるんなら、俺もできるんじゃないかと思ったが……。上手くいって良かった」
「お兄様、パンドラって? なんだかとっても嫌な感じのする名前ね」
「ああ、記者会見で言ってたレベル500のボスだな」
「じゃあ、そのボスってスキルを重複して使ってきたの?」
「ああ。しかも3倍でな」
「うわー……。大変そう……」
実際大変だったが、それもあとでアルマジロのボスデータと交換して見せあいっこしようかな。
「あー、そうだ。ダンジョンコア、この共有システムだが、2人ペアまでなのか?」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「えぇ……」
「相変わらずケチね」
それくらい良いじゃん。まあでも、複数人で増えるんなら、協力的な奴を加え入れればもっとお得になるってわけだな。まあ、そんな信頼できるやつがいるかどうかが問題な訳だが。
いっそのこと、エスみたいに契約書で縛るとかが必要かもな。
「さて、ダンジョンコア。このダンジョンと俺の『楔システム』を連結してくれ」
『許可。……実行しました』
俺たちの正面に世界地図が出現し、『大阪城前ダンジョン』と第一エリアのダンジョンの間に細い線が繋がった。
というのも、『アンラッキーホール』と『初心者ダンジョン』、それから『ハートダンジョン』はほぼ隣接してると言える距離感に存在しているため、その3箇所だけで見れば『楔システム』の結界も非常に狭いものになっている。
そんな一辺の距離がとてつもなく短いと、そこから真っ直ぐ大阪に線を伸ばしてもとんでもなく極細の、槍の先端みたいな三角形で結ばれてしまう。そこからはるか南東の小笠原諸島には『1086海底ダンジョン』があるが、そこと結ぶには第一と第二エリアに点在する他のダンジョンを攻略しなければならない。
先日攻略した『696ダンジョン』こと『幻想ダンジョン』も、間に海底ダンジョンが存在するせいで、結界で結ぶことはできないでいた。
「なんともまあ、歪な形だな」
「ねえお兄様」
「んー?」
「思ったんだけど、今後も数多くのダンジョンを平定していくのなら、あたし達はこれからも別行動したほうが都合が良さそうね」
「残念ながらな。でも、良いのか?」
「よくはないけど、その方が一緒に行動するよりもお兄様の役に立てると思うし……。それに、あと数ヶ月の辛抱だわ」
イズミが言っているのは、ここからあと数ヶ月もすれば、今うちのチームにいる彼女達のお腹が大きくなってくる事を指している。見た目的にも倫理的にも、その状態でダンジョンに潜るのは危険だと思われるからな。
個人的には大丈夫だと思うが、気分的には俺もよろしくはない。そしてイズミ達『疾風迅雷』は、そのタイミングでバトンタッチして、俺と行動を共にするという契約を結んでいた。
「あーあ。前回お兄様とデートした時や、最初にした時に
「俺の『運』が勝っただけかもな」
「ぶー」
イズミがむくれて見せる。
「それじゃ、帰ろうぜ。確認したいことは大体知れたしな」
「あ、お兄様。皆と合流する前に、1つ確認しておきたいことがあるの」
「ん、どうした?」
「先輩達との結婚式は、いつ始める予定なの?」
「!?」
驚いた。
イズミが、明らかに確信を持って言って来ている事に。
「なんで分かった?」
「お兄様、ダンジョン馬鹿のようにみえて、ちゃんと先輩たちの事を愛してるもの。だから、お腹が大きくなる前に実行するんだろうなとは思ってたわ」
「それ、誰かに言った?」
「誰にも言ってないわ。ただ、うちのチームにも勘のいい子はいるから、何人かは想像ついてるかもしれないけど」
「そうか……」
もしかして、顔に出さないだけでアキやマキ、アヤネやミスティは気付いているんだろうか?
「あ、先輩達は多分気付いてないと思うわよ。こういうのって、距離が近いほど分かりにくいものだからね」
「そういうもん?」
「ええ」
じゃあアイラは……。
ってまあ、あいつの読心力は、今に始まった話じゃないわな。
「それでお兄様、いつ頃開催予定なのかしら。それに合わせて、あたし達もダンジョン攻略はお休みにして、お祝いに行きたいからね」
「ん?」
「え?」
なんか、違和感が……。
「お祝いって、誰の?」
「勿論先輩達よー。それ以外にあるの?」
んー……。話が、噛み合ってないな?
……ああ、そういうことか。
「確かに、こういうのも言わなきゃ伝わんないことだよな」
「お兄様……?」
「俺は確かに彼女達を愛してるが、それはイズミ、お前達もだぞ」
「……えっ」
「だから結婚式は、お前達も祝われる側だ。拒否られたら泣くぞ」
「ほ、本当に? あたし達とも、結婚してくれるの?」
「当たり前だろ。むしろ、挙げてもらえないと思われていたのが地味にショックなんだが」
それからイズミは涙をこぼし始め、静かに泣き出してしまった。てか、察しの良いイズミでこれなら、カスミ達は……。うん、早めに言って安心させてあげたいが、どうせならうちの彼女達と一緒に、サプライズでどーんと発表したいところでもあるんだよな。
ゆっくり慰めていると、イズミはすぐに持ち直した。復帰が早いなぁ。
「このことを知ってるのは、アイラ先輩だけ?」
「ああ、やっぱり分かるか。お前ら似たもの同士だもんな」
「そうかしら? でも嬉しいかも。あっちに行ったら、すぐにアイラさんの手伝いに入るわね☆」
「ああ、よろしく頼むよ」
「あ、お兄様。帰るのはまだもうちょっと待ってて」
そう言ってイズミは、泣いた痕を隠すため、鏡を取り出して化粧をし始めた。そうすると、泣いていた事実などどこにもなかったかのように、その痕跡がメイクで覆い隠されていく。こういうところ、素直に尊敬できるな。
メイクとかそういうの、俺には結果でしか分からないけど、これこそが魔法のように思えたのだった。
「お兄様、お待たせ☆」
「それじゃ、帰ろうか」
「はい、お兄様っ」
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