ガチャ609回目:一っ飛び

 翌日。

 朝食を摂り、リビングのソファーでのんびり過ごしていた俺の端末に、電話がかかってきた。出てみると、それはカスミからだった。


「お兄ちゃん、起きてるー?」

「おーカスミ、おはよ」

「おはよう! じゃなくって。お兄ちゃん、なんて事してくれてるのよー!」

「え? 何が?」


 俺、なんかしたっけ?


「昨日の記者会見っ!」

「あー……」


 そういや、うちの第二パーティが関西のダンジョンを攻略したって公開したんだったか。それは事情を知ってる人なら、暗にカスミ達のチームって言ったも同然ではあるよな。


「おかげで、うちのメンバーほぼ全員の家に、記者の人達が押しかけてきて大変なのよー!」

「そんなの、追い払えばよくない?」

「私達まだBランクだから、そんなに威張ったりできないの。向こうもそれを承知で押しかけてきてるわけ」

「ははーん。なるほど?」


 それは確かに大変そうだ。

 俺の時は事前に協会側に根回ししてたからスムーズにことが運んだけど、カスミ達はこっそりやってたのかな? それを俺が注目させちゃったと。

 けど、俺の第二チームって発言したんだから、普通はそんな馬鹿な真似しないとは思うんだけど……、ああでも、今までもそういった馬鹿はいたのかもしれないけど、うちの彼女達や義母さん達が露払いしてくれてたのかな。けどそれは第一エリア限定の話で、第二エリアの、ましてや俺の第二チームにまで手は伸ばせてない感じか。


「まさかそんな事になるとは……。ごめん、軽率だった」

「もう、お兄ちゃんってば。なんで暴露なんてしちゃうのよー」

「いやー、皆不安そうにしてたから解消してあげたかったってのもあるんだけど……。本音は、うちの妹達は凄いんだぞって、ちょっと自慢したかったんだよな」

「……なら許す」


 許された。


「てか、ちょっと気になってたんだけど、こっちの時間では昨日の朝に、ダンジョンをクリアしたのか?」

「ううん、正確には違うかな。まずボスの討伐は3日前には終わってたの。それから1日休んで、鍵を使ってのアクセスは念には念を入れて、朝早くにダンジョンに入って、第一層の入口近くで実行したの。すぐに騒ぎになるだろうから、いつでも帰れるようにって」

「ふんふん」

「その後、私達6人で打ち上げパーティーをして、夕方には解散したの。基本的に皆、家に戻って行ったけど、イズミだけは協会に報告するからって。それでそのあとは、お兄ちゃんが生配信であんな事言ってのけちゃったわけ。イズミは、嫌な予感がするからそのまま協会に泊まり込むって言ってて……。それで、今朝起きたらこの有様よ」

「なるほど」


 これも『運』の差か。イズミだけ記者からの突撃をちゃっかり回避できた訳だ。まあ今回の場合、『運』による運命改変というより、『直感』による危機回避ってところか。


「事情は分かった。カスミ達のランクアップはすぐにはできないのか?」

「どんなに急いでも明日になるんだって。遅いと3日後とかになるかもってイズミが言ってたわ」

「なるほどなぁ。……分かった、記者の事はなんとかするから、全員家から出ないように伝えておいてくれ。またあとで連絡する」

「うん。けど、無理はしないでね?」


 電話を切ると、俺の周りに皆集まっていた。スピーカーにはしていなかったが、ほぼ全てのメンバーが今の会話で状況を察してくれたらしい。

 だがまあ、齟齬が無いように改めて現状を説明した。


「なるほど、そうなりましたか」

「ショウタ君ほどぶっ飛んだ『運』がないと、そういうのを回避することはできないのね」

「『運』が高いのはイズミちゃんだけで、他の子は一般レベルですし、ほぼ全員が実家暮らしですから……。ダンジョンの外だと私達とは違って基本的に別行動ですもんね。同じ場所で過ごしていたら、また話は違ったのかもしれないですけど……」

「『運』が強いやつに、その後の展開が巻き取られる感じか」

「わたくし達は旦那様と一蓮托生ですわ」

「ん。普段からショウタの側にいれば、災厄は自動的に回避される。ショウタの側が、世界で一番安全」


 アヤネとミスティが引っ付いてくるので、全力でわしゃわしゃする。

 しかしそうか、ほぼ敵地なアメリカで、なんのトラブルもなく全員が平穏に過ごせたのは、俺のそばにずっといたからか。この考えは場合によっては自惚れだが、俺の場合実数で証明されちゃってるからな。


「さて、問題はカスミたちをどう助けるかだけど……。アイラ、やっぱり彼女達のランクを上げるのは、すぐには難しいのか?」

「そうですね。奥様にお願いしても、早急な対処は難しいでしょう。あの方の影響力は世界中にありますが、強く発揮できるのはやはり第一エリア周辺ですので」

「そうか……」


 その辺は想像通りか。……なら、直接赴くしかないか。

 少しの間、俺が離れる事になるけど実質彼女達もSランク冒険者だし、実力面でも世界屈指だ。危険な目に遭うとは考えにくいし、なんなら俺の『運』をもってすれば、距離なんて関係ないかもしれないしな。


「エス、悪いがちょっと付き合ってくれ」

「いいよ」

「まだ何も言ってないだろうに」


 全幅の信頼を置いてくれちゃってまあ。


「んじゃ、エスとエンリルの2人で、関西エリアまで俺を『風』で運んでくれないか」

『ポポー』


 2つの『風』を用いた贅沢な専用ジェット機だ。


「人を長距離で運ぶのは初めてだけど、兄さん相手なら悪いことにはならなさそうだね」

『ポ? ポポ!』

「ああ、頑張ろうかエンリル」

『ポ!』

「つーわけだから、悪いけど他の皆は待機で。父さんを含め、彼女達の両親にも軽く挨拶をして、そこから彼女達を連れて戻ってくるよ。カスミ達の部屋割りも決まってるんだろ?」

「はい、勿論です」

「んじゃ、長くても……3日くらいかな? その間に、義母さん達とのセッティングだけお願いできるかな」


 ガチャはなるべく早く回しちゃいたいしな。


「畏まりました。手筈は整えておきます」

「ショウタ君、ついでに鍵も受け渡ししてもらう感じ?」

「その予定だよ。まあ、譲渡についての詳しいやり方は漠然としか聞いてないんだけど。まあ、そんなに面倒な事にはならないでしょ」

「ふふ、ショウタさんらしいですね」

「旦那様、いってらっしゃいませですわ!」

「ん。ショウタ、気をつけてね」

「ああ。あ、そうだ。ついでにアグニも一緒に来るか?」

『キュイ? キュイイー』


 カスミ達もアグニに会いたがっていたし、この子は首に巻き付けば荷物にもならないからな。あと、アグニと一緒にやりたいこともあるし。


『プル? プルル!』

「ん? 別にあっちに行ったからって、食い倒れする気はないぞ」

『プル。プルル!』


 どうやら、イリスはあっちの味付けが気に入ったようで、また食べたいらしい。まあ俺の生まれも育ちも向こうがベースだからな。関西と関東では味付けが結構違うし、イリスの味の好みは俺の好みでもある。だから、向こうの味が恋しく思う気持ちも分からんでもない。


「仕方ないなぁ。アグニと一緒に首に巻き付いとけ」

『プル!』

『ゴゴ』

『♪』


 エンキとセレンは大人しく留守番してるらしい。2人は良い子だなー。よしよし。


『ゴー』

『♪♪』


 改めて皆と順番にハグしあい、俺達は外に出た。


「んじゃ、エス、エンリル。頼むな」

「ああ。しっかり捕まっていてくれよ」

『ポー!』

「「「「「「いってらっしゃい!」」」」」」


 さて、久々にカスミ達に会いに行くか!

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