ガチャ603回目:凱旋と宣誓

 最初にこのダンジョンを訪れた時は、第一層が頻繁にスタンピードを起こしてしまう対策として、入口には地雷原が敷き詰められていた。けど、今ではそれも完全に撤去され、元の広々とした空間に戻っている。

 そんな場所で、俺達は盛大な出迎えを受けることになった。待っていてくれたのは協会関係者や冒険者だけじゃなく、街の人達も総出で出迎えてくれたのだ。中には記者の人達もいるようで、群衆達の一角でカメラが何台も構えられている。

 まあ通知が届いてからそれなりに時間が経過してるもんな。そりゃ集まっちゃうか。別にここで待たなくてもとは思いはしたが、野暮な事は言うまい。

 そう思っていると、エスが前に出て声を上げる。


「皆も知っての通り、彼は僕達を苦しめていたダンジョンを、完全に制圧してくれた。これでもう、このダンジョンのせいで誰かが苦しんだり、涙を流す必要は無くなった!!」


 どうやら『風』の力を使って拡声器のような能力の使い方をしているらしく、声は遥か遠くまで届いているようだ。

 エスの言葉を受けた彼らは、喝采したり歓喜の声を上げたりと様々だ。場がそんな風に盛り上がりを見せる中、俺達はボソボソと会話をする。


「兄さん、彼らに言いたいことはあるかい?」

「いや、特にないけど?」

「ははっ、だよね」


 俺に気の利いたことなんて言えるかよ。

 ……ああいや、待てよ? 1個伝えておきたいことがあったな。


「やっぱあるわ」

「OK。好きに喋っていいよ。僕が拾って拡声するから」

「任せるー」


 一歩前に出ると、彼らは一瞬で静まり返る。無秩序に見えて、意外と統制が取れてるなー。これはもしかすると、俺の600オーバーのレベルが効いているのかもしれないな。


「あー、気になってる人もいると思うから言っておく。今回俺達は、エスとミスティを助けるためにこのダンジョンの制圧をした。けど、制圧をしたからといって、どこぞの誰かさんみたいに支配する気もなければ、得られた物の一部を献上しろとも言わない。真っ当な商売として、ドロップした食材やスキル、アイテムなんかを日本にも流通してくれればそれでいい」


 そこまで言い切ったところで再び歓声が上がる。彼らは節々に俺の行動に感謝と敬意を払ってくれる。俺もその反応に満足していたが、伝え忘れがあったので片手を上げて、歓声を静止させた。


「それから、ダンジョン外にはスタンピードの永久停止の通達が。ダンジョン内にはフィーバータイムの無期限化とワープゲートの永続化の通達が届いたと思う。けど、それ以外にも『696ダンジョン』の一部には制圧する過程で変化が起きていてね。変化の詳細はこのあと協会から届けられると思うから、楽しみにしといて」


 そう言って俺はエスと向かい合い、手を伸ばす。

 それだけで全てを察したエスは、俺と握手を交わした。


「ありがとう兄さん、本当に……!」

「おう」


 そして今まで以上の歓声が俺たちを包むのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうして凱旋を終え、いつものホテルの、いつもの部屋にやってくると、エスはその場で土下座をした。


「兄さん、本当にすまない!!」

「「!?」」


 突然の土下座にシルヴィとベンおじさんは面食らったようだ。さっきは衆人環視の中、仲良さそうに握手を交わしたと思ったらコレだもんな。事情を知らなかったらこうなるのも仕方がない。

 2人は黙って見守ることを選択し、どうなるのかと俺へと視線を向ける。


「エス、それはどれに対する謝罪だ?」

「まず、宝箱を前に我を忘れてしまったこと。そしてもう1つは、僕の不注意で兄さんに大怪我をさせてしまったこと……!」


 なるほど。ダンジョンから出る前に謝ってこなかったのは、ここで謝る為か。あそこで言ってこない以上、無いもんだとばかり思ってたけど、シルヴィの前で伝えることが、エスにとっては1番の贖罪になるもんな。


「で、なんであの時教えてくれなかったんだ? 言い訳は聞くぞ」

「その……。この手で『ダンジョンボス』を倒せると思うと、そこに意識が行ってしまって……」


 まあそれは分かる。俺もそういう時あるし。


「それと、実は開発しておいてなんだけど、あのスキルは今まで、あまり使ったことが無かったんだ」

「ほう。そもそも、あれはどういう技なんだ?」

「理論上、ほぼ全ての攻撃エネルギーを受け流して、相手に返す技なんだ。けど、完成させたは良いけど、費用対効果が悪くてね。物理攻撃は返せないし、強力な魔法やエネルギーの塊を放ってくるような相手はほんの一部しかいない。その上、そういった奴らはここの第四層もそうだけど、攻撃スキルはそのままそいつらの耐性になってることも多い。だから攻撃を跳ね返したところであまり意味はないし、やるだけ無駄な事が多くて……。強敵が現れたら使おうって意識はしてたけど、ほぼ忘れてたと言うか……」

「なるほど。奴も最初は使う予定はなかったけど、エスのその『強敵が現れたら』という記憶が影響して俺の技に反応したのかもな」

「本当にすまない、兄さん」


 再びエスが頭を下げる。

 まあ俺も自分のスキルのことは全てを把握している訳でもなく、割と頻繁に忘れるしな。強力なスキルはなるべく普段から使うことで、ふとした拍子に思い出して使えるようにしてるけど、それでも一部のスキルはまともに使ってなかったりする。

 人のことを言えない以上、これ以上とやかくは言えんな。


「……仕方ないな。謝罪を受け入れる」

「ああ、本当にありがとう、兄さん! この借りは必ず働きで返すよ!」

「その前に、ダンジョンクリアの約束が先だろ?」

「はは、そうだったね!」

「ん! やっと見せられる!!」


 エスとミスティが早く見てくれと言わんばかりに乗り出してくる。そんなに見せたかったのか。

 さーて、2人はどんなステータスかね。

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