ガチャ602回目:眠っていた災厄

「ただいまー」

「「「「「おかえりなさい!」」」」」


 『ダンジョンコア』にあれやこれやと聞いたり、『696ダンジョン』の各種調整をしていたらすっかり遅くなってしまった。

 戻ってきた俺を、皆が盛大に歓迎してくれた。けど、今回飛びついてきたのはミスティだけで、他の皆は我慢しているようだ。あと、エスだけこの場にいないようだったが、マップで見ればこの階層を探索しているようで、こちらに気付いたのか戻る動きを見せていた。


「ミスティ、通知は聞こえた?」

「ん! バッチリ!!」

「そっかそっか。一応確認なんだけど、通知はどんな内容だった?」

「ん。スタンピード完全停止。第一層から第三層のドロップアップ永続化。あとは第一層から第四層にあるワープゲート全種永続設置!」


 ミスティがはしゃいでいると、エスが隣に降り立った。


「これで、いつでも好きな時に好きな階層に行けそうだよ」

「なら、エスがこのダンジョンで黄昏れることは、もう無くなったって事でいいかな?」

「ははっ、そうだね」


 ミスティは一通り甘えた後、満足したのか離れていき、入れ替わるように他の皆が飛びついてきた。

 一通りハグし合った後はエスがタイミングを見計らって確認をしてくる。


「兄さん、一応待っている間にこの階層を確認していたけど、やっぱりモンスターは湧いてないみたいなんだ。『ダンジョンコア』から何か聞いてるかい?」

「ああ。実はパンドラを撃破した瞬間から、出現自体完全に止まってたんだ。だから今後、奴らが出現することは2度とないよ」

「本当かい!?」

「けど、そうなるとこの階層、ただの行き止まりになっちゃうだろ? そうなると勿体無いから、ちょっとこの階層の設定を弄ってきたんだ」

「弄るって……。何をしたんだい、兄さん」

「まあそれは見てのお楽しみって事で。皆、着いてきてー」


 第五層の入口から、俺たちは再びパンドラ戦跡地である、例の祭壇があった場所へとやってきていた。

 祭壇はそのままだが、その背後には無数の低木が出現し、色とりどりの小さな実が生っていた。


「兄さん、あれは……?」

「ほら、シェイプシフターがいなくなると、せっかくの面白アイテムである虚像のキャンディが2度と手に入らなくなるだろ? だからいつでも取れるようにしたんだ」

「それが新しい知恵の実の効果ですか? そんな力をも手にしたことは誇らしく思いますが、ご主人様。あのアイテムは世に出回ると危険なものだとお話ししましたよね?」

「ああ。だから、効果もちょっと

「なるほど?」

「普通の『鑑定』でも効果が見れるように調整もしてあるから、皆も見るといいよ」


 言われるがまま、誰もが木に生った実を視る。俺も改めてみておくか。


 名称:鏡写しのキャンディ(いちご味)

 品格:≪遺産≫レガシー

 種類:食材

 説明:虚像のキャンディを改変して生まれたキャンディ。舐めている間、目の前にいる人間の姿に変身することができる。相手への理解が深いほど体格や声質などが完璧に再現される。

 ★変身中、使用者の頭上に星のマークが出現する。

 ★本人が5メートル以内にいて、かつ同意していないと変身を維持できない。

 ★ステータス、スキル、記憶、知識はコピーできない。

 ★変身相手は人間のみ。

 ★口内からキャンディが無くなると解除される。


「わたくしでも、★の詳細が見れますわー!」

「なるほど、目の前にいる当人からの許可制ですか。これなら確かに、悪用される心配はぐっと減りますね」

「これでもう、完璧にパーティーグッズね。しかも、いろんな味があるのねー」

「旦那様旦那様、これは好きに採って良いんですのー?」

「ああ。ダンジョンアイテムだから、時間経過で復活するようになってる。好きに採っちゃって良いぞ」


 そうして皆で束の間のキャンディ狩りを楽しんだ後、俺達は再び第五層入口に集まっていた。


「はぁ、ここから出たらどうなるやら」

「ん。ショウタ、ふぁいと」

「おー……」

「ところで兄さん、今逃すとしばらく聞けるタイミングがなさそうだから確認しておきたいんだけど」

「ん? どうした改まって」

「僕達が気付かずに開けようとしていた、『パンドラの箱』。あれを開けていたら、どうなっていたと思う?」


 エスが怖いもの見たさで確認してきた。皆も気になっているようで、耳を傾けている。


「実はそれも『ダンジョンコア』に聞いてきたんだ」

「流石兄さん」

「いつもならレベル不足と言われそうですが、今回は聞けたのですか?」

「ああ。『知恵の実』が入っていた宝箱だからかな? すんなり教えてくれたよ。ただ、内容が内容だったから、実を言うと伝えるべきか悩むレベルではあったんだよね」

「そうなのかい? ……だが、一歩間違えば開けてしまっていたかもしれない劇物だ。自戒の意味も込めて知っておきたい」


 真面目だなぁ。他の皆も同じ気持ちのようだ。一度はその魔力に魅了されちゃったからかな。……仕方ない。

 まず今回、邪悪な『パンドラの箱』を浄化する事で、変化した箱からは2つのアイテムが出た。それは、『知恵の実』と紋章の2つ。そして聞くところによると、紋章はこの階層のクリア報酬として存在しているため、例え邪悪な方の箱を開けていても入手はしていたらしい。つまり、それが『パンドラの箱』に残った最後の希望となるようだ。

 難を逃れる。そういう意味での、残された希望なのかもしれない。

 そして問題なのは『知恵の実』の枠だ……。


「邪悪な方を開けていた場合『知恵の実』は当然手に入らず、呪いの元凶が世界に解き放たれていたらしい。それが宝箱から飛び出すと、支配済みのダンジョンを除いた全てのダンジョンで、スタンピードに必要なエネルギーが急激に増加していたらしい」

「エネルギー、ですか?」

「ああ、言うなればダンジョンで俺達がモンスターを討伐する事でスタンピードを防げているのは、そのエネルギーをモンスターの再出現に充てさせることで、消耗させているからだそうだ」

「その仮説は聞いた事がありますね」

「ん。アメリカの学者も、似たようなこと言ってた」


 ミスティですら知ってるという事は、それなりに高名な人なのかもしれないな。


「なるほど。ではあの宝箱を開けてしまうと、他所からいきなりそのエネルギーがチャージされていた訳だね」

「そういうことだな」

「うーん、いまいちよく分かりませんわ。もし仮にあの場で開けてしまっていたら、具体的にどうなっていましたの?」

「ああ。今の段階でその呪いが起動すると、全世界で約300ほどのダンジョンがスタンピードを起こしていたと、ダンジョンコアは言ってた」

「「「「「「!?」」」」」」


 誰もがその効果に戦慄し、今の結果に安堵していた。


「……とんだトラップが仕込まれていたものだね」

「まさに、パンドラの名に相応しい効果ですね」

「旦那様以外の誰かが、たまたま遭遇してたまたま討伐していたらと考えると、恐ろしいですわ……」

「ん。今までは攻略を進めるたび、このダンジョンの脅威度だけが上がっていく罠だったのに、最後には世界中を巻き込むことになってたなんて。本当に、ショウタを呼んでよかった」

「そんな事になっていたら、今度こそこの世界は滅んでいたわね……。つまり、ショウタ君が世界を救ったわけね!」

「いやいや、未然に防いだだけだよ」

「ふふ、それすら普通の人には難しいですよ。ショウタさんだからこそ成し遂げられたんです」


 ……まあ、それほどでもあるのかな?


「逆に、今の話からして、世界には300近いダンジョンがスタンピード間近であることも示唆されていますね。これは有益な情報です」

「あー、そういう風にも考えられるか。サクヤお義母さんにこの情報を持ち帰ったら喜んでもらえるかな?」

「はい。きっと何かしらの役に立つでしょう」


 それはよかった。

 まあとにかく、これでこのダンジョンに思い残すことは無い。早速凱旋に行くとしますかね。

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