ガチャ600回目:鍵を手に

「申し訳ありません、ご主人様。パンドラという名を伺った時に、奴の落とした『箱』には十分に注意するべきでした」

「まあ仕方ないよ。注意したところで欲望を突かれたらひとたまりもないみたいだし、『運』が500オーバーあるアキやマキも違和感に気付けず呑まれるくらいなんだ。こういう『直感』系は今までもこれからも、俺の仕事だ」

『ゴゴ』

『ポー!』


 あの邪悪な気配を消し飛ばしたことによってエンキ達も元気になったようで、さっきからこの調子で甘えてきている。


『プルプル』

『♪』

『キュイー』

「旦那様旦那様」


 彼らを順番に撫でていると、一緒になって撫でられ待ちをしていたアヤネが箱を指差した。


「せっかく綺麗になったわけですし、改めて箱を開けてみませんこと?」

「そうだなぁ。そうするか」


 結局これは、『プリズムの箱』ではなくただの偽装だった訳だ。本当の姿は『パンドラの箱』であり、今目の前にある『浄化されたパンドラの宝箱』であるわけだ。つまり『プリズムの箱』ではない以上、ここから『神器』クラスの物が出るとは限らない訳だが……。

 でも困ったことに、見た目はまんま『プリズムの箱』なんだよなぁ。けど、開けても世界が壊れないのなら、無駄に怯える必要はないか。


「そんじゃ開けるぞー」


 宝箱に触れても選択肢は出ず、そのままあっさりと開いた。すると中に入っていた光が飛び出し、俺の中に飛び込んできた。


「お?」


【シークレットリワード】

【知恵の実:No.8を獲得しました】


「おお、知恵の実だ!」


 これは『神器』以上に嬉しいぞ!!

 そして宝箱の中にはもう1つアイテムが入っており、そちらは最近よく見る種類のアイテムだった。


 名称:無形の紋章【Ⅴ】

 品格:≪伝説≫レジェンダリー

 種類:アーティファクト

 説明:悪しき邪神、合成獣パンドラを撃滅した者に贈られる特別報酬。696ダンジョンで使用する事で、使用者を含めた周囲10メートル以内の人間全てを696ダンジョンの好きな階層へ移動させる。何度でも使用可能。トリガーアイテムとしても使用可能。


「おお。このダンジョン限定の『転移の宝玉』みたいな効果だな」


 それだけ見ると『初心者ダンジョン』にあんな宝玉が出たこと自体すごい確率だったのかもしれないが、このアイテムの真価は移動能力ではない。

 俺はそっと紋章を持ち上げると、役目を果たしたかのように箱は消失した。


「アイラ、全部の紋章を出してくれ」

「畏まりました」


 全員で例の台座まで移動する。その台座は全部で5つあり、そこにはⅠからⅤまでの数字が刻まれていた。

 何をどこに乗せるのかは一目瞭然だった。


「ねえショウタ君、このままガチャは回さなくて大丈夫なの?」

「そうですよ。あと1回で更新なんでしたよね?」

「いや、この後は戦闘になることはないと思う。だからこのまま行くよ。ここを制覇したら一度帰るつもりだったし、その時サクヤお義母さんと対面した時のために、なるべく高レベルを確保しておきたいんだ」

「なるほど。それは大事ですわね!」

「そうですね。とても大事なことかと」

「ん。メロメロ回避」


 アイラから紋章を預かり、まずは第一層の紋章からだな。台座に置いてみる。


「おっ」


 台座に刻まれた数字が光を放った。この調子で、第五まで、全てを光らせてみる。

 すると5つの輝きが浮かび上がり1箇所に集まると、そのまま俺の目の前までやってきて静止した。


「……受け取れってことかな?」


 そっと手を伸ばして輝きに手を突っ込むと、ソレは俺の中にするりと入り込んだ。


【管理者の鍵(696)を獲得しました】


「よしっ、鍵ゲット! これでクリアだ!!」


 皆から歓声が上がり、喜びを分かち合った。3年もの間続いた呪縛から解き放たれたからか、ミスティとエスは揃って涙を流した。今まで不安や恐怖を溜め込んでいたのだろう。ミスティは涙腺を決壊させて泣きじゃくるし、エスもまた嗚咽を溢す。

 2人まとめて抱きしめて慰めていると、こっちまでもらい泣きしそうになってしまった。ちなみにうちの彼女達は絶賛もらい泣き中である。


 そして数分ほど泣いてスッキリしたのか、2人とも良い笑顔を見せていた。エスは気恥ずかしそうに離れるが、ミスティは引っ付いたままだ。


「……ん。離れたくない」

「仕方ないなぁ。と言いたいところだけど、そういうわけにもいかないだろ。ほら、鍵使ってコアルームで完全にスタンピードを止めておかないと。じゃないと、ぬか喜びになっちゃうだろ?」

「……ん。そういえば、この第五層はもう起きなくても、他の階層は一時的なんだっけ」

「そゆこと」


 第五層だけは特別だったのかもしれないが、この階層はそのトリガーが『ダンジョンボス』の撃破だからな。そりゃ固定になるのも頷けるってものだ。


「ん……」


 ミスティは、頭では納得してるけど、心は納得できないみたいな顔で見つめてきた。

 そんな顔されても、俺にはどうしようもないので諦めてもらう。


「終わったらいっぱいイチャイチャしような」

「ん。終わったら絶対外の皆に囲まれる。今までは遠巻きに喜んでくれてたけど、今回はその比じゃないレベルで奉り上げられる」

「神様扱いされちゃうのか」

「成し遂げた偉業を考えれば、それだけじゃ済まないだろうね。例えば、今日がこの国の記念日になるのは間違いないね」

「マジかよ……」


 エスやミスティだけじゃなく、皆が頷いた。

 記念日が確定している以上逃げられはしないが、せめてそこに俺の名前が入らないようにしてもらおう……。


「そんじゃ、紋章は全部無事みたいだし、一旦Ⅳの紋章を使って第五層の入口にまで戻ろうか。俺はコアで色々確認してくるから、皆は休んでて」


 すでに全員が集まっている状態だったので、そのまま紋章を使用して第五層の入口まで転移した。


「旦那様、せっかくですし第四層とかの方が安全じゃありませんこと?」

「そうよ。今はボスの影響か、まるでモンスターがいないけど、それも一時的なことでしょ? あんまりあのモンスターは、視界に入れたくないわ」

「そうですね。拠点に隠れていたとしても、気配はあるので気持ち悪いですし……」


 皆が提案してくれる。まあ言いたいことはわかるが、多分大丈夫だと思うんだよな。

 それはパンドラを撃破したからとか、そんな漠然とした理由ではなく、もっと根本的なもので……。


「ご主人様? まさかとは思いますが、この階層を改造なさるおつもりですか?」

「お、アイラ正解。シェイプシフターなんて気持ち悪いだけだしな。前から持ってる方の『知恵の実』を使って、モンスターの出現ルールを変更しようと思うんだ。皆にここに残ってもらうのは、それができたか確認して欲しいからなんだよ」

「ん。賛成。超賛成! ショウタ頑張って!!」

「ここの階層に関しては今後用事がなくなるとしても、居たら嫌になるモンスターであることに変わりはないからね。消してくれるなら是非そうして欲しいよ」

「おう。とりあえずやるだけやってみるよ」


 そうしてちょっと離れるだけなのに、皆とハグをし合ってから、宣言をした。


「管理者の鍵を使用する」


【所持者の意思を確認】


【管理者キー 起動】


【管理No.696】

【ダンジョンコアへ移動します】


 さーて、今回で待望のレベル5だ。色々と確認したいことがありすぎるな!

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