ガチャ599回目:パンドラの箱

 俺とエンキ達が『プリズムの宝箱』を警戒する中、他の面々は目を輝かせていた。


「すごい、またプリズムが出るなんて!」

「流石旦那様ですわー!」

「ん。ショウタすごい。持ってる!」

「今度は何が出るか、期待できますね!」

「ショウタさん、早く開けてみましょう!」

「兄さんはすごいや」


 全員好感触だが、俺と繋がっていることで『直感』が共有されているのか、エンキ達は怯えたような反応を示していた。


『プルプル』

『キュィー……』

『♪』

「ああ、分かってるからな」

『ゴゴ』

『ポー』


 皆が不安を紛らわす為に引っ付いてきて、ツルツル、フカフカ、ぷよぷよ、ひんやり、ポカポカと、俺の周囲が忙しいことになっているが、メンバーの誰もがこちらに一切の興味を持たない様子で、宝箱に視線を集めていた。

 いつもならこの光景に、うちの女性陣は微笑ましく見ているものだが……。

 まずは、普通に『真鑑定』だけで見てみるか。


 名前:プリズムの宝箱

 品格:『伝説レジェンダリー

 種別:モンスタードロップ

 説明:合成獣パンドラのアイテムリストから抽選


 まあ、普通のことしか書いてないわな。けどやっぱり、違和感しか感じない。


「兄さん、早く開けてくれないか。中身が気になって仕方がない!」

「ん。ショウタ、早く開けて!」

「どうしたのよショウタ君、いつもなら真っ先に開けるでしょー!」

「ショウタさんが何を引き当てるか楽しみです!」

「きっと素晴らしいものを引き当ててくれますわ!」

「ご主人様、何を迷っておられるのですか。早く開けてしまいましょう!」


 うん、皆どことなく正気じゃないな。エスに至っては、動くことができたら自分で開けていたかもしれないくらい、目が狂気染みている。


「喝ッ!!」


 こんな時は、叫ぶだけで使える『克己』の出番だ。最近『克己』の使用頻度が高いよなぁ。おかげで、なんだか叫ぶことへのハードルが下がってきた気がする。

 さて、これで皆も正気に……。


「ショウタさん、早く開けましょう」

「ん。はやくはやく!」

「兄さんまだかい!?」

「えぇ……?」


 ぜ、全然効果ないんだけど!? もしかして、俺がおかしいのか!?


『ゴゴー……』

『ポポ……』


 いや、相変わらずエンキ達は何かに怯えていた。やっぱりアレには何かある。


「本当の宝箱じゃないはずだ。……『真理の眼』!」


 名前:プリズムの宝箱

 品格:『伝説レジェンダリー

 種別:モンスタードロップ

 説明:合成獣パンドラのアイテムリストから抽選


 んん? 全然変わらんぞ?

 まさか『真理の眼』をもってしても暴けないとはな……。それとも嫌な予感は、コイツではないのか?


『プルプル!』

『キュイィー!』

「あ、やっぱり宝箱か?」

『♪♪』


 まあうちの子達もそう感じているなら、信じるべきだな。けど、いつまでも呑気に観察していたら、彼女たちの手で開けられてしまいそうだ。

 いっそのことふん縛るか? ……いや。ちょっと試すか。


「アキ、マキ、アヤネ、アイラ、ミスティ。皆に聞きたい」

「「「「「?」」」」」


 身体は宝箱へ向いたまま、彼女達は視線だけをこちらへ寄越す。うん、普段の彼女達なら絶対身体ごと俺の方へ向けるはずだから、絶対におかしいな。


「俺と宝箱、どっちが大事だ?」

「ショウタ君に決まってるでしょ」

「ショウタさんです!」

「旦那様ですわー」

「当然ご主人様です」

「ん。ショウタ」


 皆即答してくれた。そして、改めて俺の方へと身体ごと向き直してくれた。


「じゃあ、これの扱いは俺に任せてくれないか? 賛同してくれるなら、宝箱から距離を置いて……俺の後ろに回ってくれ」


 そう伝えると。彼女達は、少し名残惜しそうに宝箱に視線を送るが、その後は真っ直ぐに俺の後ろへと集まってくれた。

 うん、アレの誘惑はどんな恐ろしいものかは分からないが、ちょっと勝った気分だ。


『ゾワッ!』


 その時、宝箱の周辺が歪んで見えた。彼女達が欲望に打ち克ったことで、何かが揺らいだのかもしれない。この隙を逃がしてなるものか!


「もう一度だ。『真鑑定』『真理の眼』!」


『ザザッ、ザザ……ザザ!』


 宝箱周辺の空間が歪んで見える。そして見える情報にも変化が生じた。


 名前:プ*ンド*ムの宝箱

 品格:『伝説レジェンダリー

 種別:*ヒ*ンスタ*け*ドロ*ケロ*

 説明:合成獣パンドラのア*念*テムリストか*世界*選


 もっとだ。もっと見せろ!

 俺はいつも以上に魔力を眼に込め、宝箱を凝視した。


「その正体を見せてみろ! 『解析の魔眼』!!」


『ザザ、ザザザ……バキン!』


 空間が割れる音と共に、輝く宝箱は別の存在へと塗り変わった。まるで地獄の底から這い出た様なドス黒い何かが、宝箱を取り囲んでいたのだ。


 名前:パンドラの宝箱

 品格:『奈落アビス

 種別:ヒラケ開けろアケロ

 説明:合成獣パンドラの怨念が詰め込まれた宝箱。世界を壊す何かが眠っている。

 ★開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ

 ★アケロアケロアケロアケロアケロ

 ★アケロ! アケロ! アケロ! アケロ!

 ★イマスグニ!! イマスグニ!!! イマスグニ!!!!


「ぐっ!」


 頭をガツンと殴られたような衝撃に、たまらず蹲る。心が呑まれそうになるのをぐっと堪え、何度か深呼吸を繰り返す。そして心に巣くおうとしていた邪念を徐々に払い退けて行った。


「ふぅー……」


 とんだトラップだった。危うく、精神が持っていかれるところだった……。

 しかし、コレをこのままにしておくわけにも行くまい。地の底に投げ捨てようにも手に触れたくないし、今後誰かくるかもしれないのに放置するわけにもいかないのだ。


「ショウタさんっ!」

「だ、大丈夫?」

「な、なんですのあの気持ち悪いのは!」


 お? どうやら皆正気に戻ったらしい。正確にあの箱の不吉なオーラを視ているようだ。


「申し訳ありません、ご主人様。操られていたようです」

「ん、一生の不覚。エスは……まだ恥を重ねてる最中」

「ああ、開けたい! いますぐあの中身を……!」


 エスがまだ心を囚われてるのは、多分誘惑に打ち克てていないからかもな。必死に手を伸ばしているが、まあエスは動けない以上害はないし、放っておこう。


「ご主人様、それでアレはどうされるおつもりですか?」

「ああ、それなんだがな」


 俺は両手に魔力を込める。


「昔からよく言うだろ、汚物は消毒だってな! ピュリフィケーション! ついでに浄化!!」

『グオゥァアアア!!?』


 宝箱に憑りついていた何かが苦悶の声を上げた。『コラプショングリフォン』を苦しませた魔法だ。邪悪そのものなこいつには効果抜群だろう。

 邪悪の根源は、神聖な光に飲まれしばらくの間悶え苦しんでいたが、次第に力尽きてゆき、最後には光に溶けて消えていった。

 そこには、宝箱だけが残っていた。


 改めて。もう1度宝箱を見てみるか。


 名前:浄化されたパンドラの宝箱

 品格:なし

 種別:秘宝

 説明:合成獣パンドラの根源だけが残った宝箱。世界を滅ぼす力は喪われている。


「どうやら、これで完全に終わったようだな……」

「……あれ。僕は、一体……。あぁっ!?」


 エスもまた正気に戻ったようだ。そして自分がどんな状態だったのか思い出し、顔を地面に埋めて唸り始めた。

 パンドラ戦直後はしばいてやろうかと思ってたけど、あんだけ恥かいたんだし、勘弁してやるか。


 シルヴィにはチクるけど。

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