ガチャ597回目:元凶を屠る者

「……終わったみたいだな」


 竜巻の中から姿を現したエスは、髪の色が金からエメラルドグリーンへと変化し、身体全体がエネルギー体になったかのように脈動していた。まるで、作りかけのエンリルや、大精霊を彷彿とさせる感じだ。

 もしかするとエスのこの状態は、大精霊に近い存在のナニカを、その身に宿しているのかもな。


「エス」


 呼び掛けると、彼はアイコンタクトを送ってくる。

 どうやら、大技発動にはタメが必要らしい。なら、俺が時間を稼ぎつつ鎧を引っぺがしてやるか。そうしている間にパンドラの竜巻も消え失せ、中からはより一層、全身をエネルギー体に変貌させたパンドラが現れた。

 エスはまあ辛うじて人間であることが判別できるが、パンドラはもう完全に化け物だな。まあ、あんな三面六臂の暗黒ボディの時点で、最初から普通の人間からは程遠かったのだが。


「『破魔の矢』『重ね撃ち』!」


 まずは『破魔の矢』で最初の外装を引っぺがす!

 俺は回避させない為に至近距離まで接近し、発射した。


『『雷鳴の矢』『破魔の矢』』


 奴も当然警戒していたんだろう。潤沢にある魔力を使い、迎撃してきた。

 相手の手札は剣2本、『雷鳴の矢』と『破魔の矢』。

 対するこちらは『破魔の矢』3本、『天罰の剣』2本。『魔導の御手』3本、そして隠し玉の5倍マジックミサイル3本だ。

 両者の間で剣撃と小規模の爆発が起き、衝撃が過ぎ去った時には両者の障壁は解除されており、互いに負傷していた。


「ちっ、痛み分けか」


 手数だけならこっちが有利だと思っていたが、奴め。構えていないと思わせておいて、ちゃっかり『ケルベロス』で弾幕を張ってきやがった。流石にこっちも『破魔の矢』を外すわけにはいかなかったので、回避よりも命中を意識しすぎたせいで、向こうの『破魔の矢』を被弾してしまった。

 つってもこっちの頑丈の高さも相まって、掠り傷で済んだが。


「『金剛外装Ⅳ』『超防壁Ⅴ』」

『『金剛外装Ⅳ』『超防壁Ⅶ』』


 奴も同様に壁を張ったが、Ⅶて。エスかミスティのどっちかが、防壁のⅦを取得してるのか。

 しっかし、魔力は有っても頑なに『天罰の剣』を使ってこないところからみて、あっちは大技のために魔力を温存する必要があるんだろうか? それとも使えないのか。

 だが、それは奴の事情であって、俺には関係ない。

 ここで出し惜しみはしない!


「ダブル、シャドウサーバント」


 シャドウサーバントは『影魔法』で使えるようになったスキルで、自分の影を操ることで自分と全く同じ動きを動作させることにより、一撃を二撃に増やすという変わった能力を持っていた。

 流石に二撃目は威力が半減するみたいだが、同じ攻撃を別々に撃つよりも攻撃の密度が高くなるので、今回のように命中率優先の際は期待値の高い魔法だ。

 そこにダブルを併用することで、俺の一撃は4つに増加するのだ。


「『結界破壊Ⅲ』『閃撃・灰燼』!!」


 全てを灰燼に滅する4つの炎が、激しく燃え上がる。当たれば確殺できる威力を秘めた火の鳥が、群れを成してパンドラへと襲い掛かった。


『……』


 飛来する火の鳥に対し、パンドラは避ける素振りを見せなかった。その結果、最初の1体が奴の障壁に激突すると、たちまち外装が消し飛ぶ。


「よし!」


 エスには悪いが、このまま削り切って――。


『『フルリフレクト』』

「何っ!?」


 突如としてパンドラを囲い込むように突風が発生。火が燃え移る寸前、火の鳥の大部分が風の力で受け流されてしまい、そのまま火の鳥は奴を中心にぐるぐると回転。そこに残りの3体も同様に流され、合流し巨大化。

 最後には1つの巨大な火の鳥となって、こちらへと目標を切り替え飛んできたのだ。


「あいつ、カウンター技なんて持ってたのかよ!」


 エスの奴、あとでしばく!

 回避は……無理だ! 俺の背後にはエンキ達がいる。ちょっとでも掠ればコアまで焼き尽くされるだろう。

 かくなる上は……。


「セレン!」

『♪♪♪』


 俺は火の鳥に真っ向から衝突し、高く飛び上がった。


『ジュッ!!』


「グギッ……!」


 標的となった俺が飛び上がることで、火の鳥は軌道が変わり、そのまま勢いよく大空へと連れて行かれた。俺を守るべく存在していた防壁と外装は即座に解除され、魂まで燃え上がるような灼熱が全身を包む。


「ガアあッ!!」


 全身が炭化し、焼け落ちる音とともに、魂が消失するかのような感覚に意識が飛びそうになる。だが、俺は死なない! 絶対に生きて帰る!

 霞む視界の中、俺はセレンが広げてくれた水源へと意識を集中させた。


「……『鏡花水月』!!」


 水溜まりに出現した俺は、煙を上げながら地面に転がり落ちる。

 自分の身体が灼ける匂いを感じながら、遙か上空を昇り続ける巨大な火の鳥を見上げた。神秘的な光景だが、自分の技で死にかけるとか、情けないことこの上ないな。

 全身を苛む激痛に気を失いそうになるが、戦いの結末を見届けなくては。


『『閃撃・剛Ⅲ』『飛剣・鳳凰Ⅲ』『紫電の矢』『雷鳴の矢』『魅惑の矢』『クロック・スコーピオン』』

「させないっ!」

『ゴゴ!』

『ポポポ!!』


 死にかけの俺に、パンドラが追撃を仕掛けてくるが、皆がカバーに入ってくる。銃弾と『魅惑の矢』はミスティが全て撃ち落とし、紫電と雷鳴はエンリルが攻撃の軌道を逸らす。そして質量のある剣技はエンキが身を挺して守ってくれた。

 エンキが被弾する度、彼の腕や足が吹き飛ぶ。だが、すぐさま吹き飛んだ手足を呼び寄せることで無限の再生力を持ってカバーし続けてくれた。


『プルプル!!』

「んぐっ」

『♪♪』

「ぐぎぎっ……!」


 イリスとセレンは、水属性で応戦すると『鏡花水月』に使われかねないので、俺を触手で持ち上げることで足代わりになってくれていた。あっちにこっちにと高速で逃げ回るので、めちゃくちゃ揺れるし、その度激痛に襲われるが、死ぬよりはマシだよな。


「……お待たせ、兄さん」


 そうしてようやくエスの準備が完了したらしい。エスの周囲には、目に見えるほど凝縮されたエネルギーの奔流が見えた。あんなの受けたら、ひとたまりもないな。

 『直感』だが、アレの直撃を受けたら、『金剛外装』の上からでもダメージを受けるんじゃないか?


『!?』


 パンドラが武器を放り捨て、6本の腕に魔力を溜め、エスに向き直る。


『『ワールドカッター』』


 苦し紛れの攻撃だが、6腕全てを使った渾身の『ワールドカッター』だ。当たればひとたまりもないだろう。大地も空気も切り裂く斬撃がエスへと向かう。


「……『極閃』!」


 眩い光が周囲の全てを飲み込み、静寂が訪れた。

 何も見えなくなった真っ白な世界の中で、次に聞こえてきたのは空間が揺らぐ音。そして、大地が激震し、世界がひび割れる音だった。

 やがて光が消えていくと、視界が開ける。

 そこで見えたのは、腰から上が完全に消失したパンドラと、空に亀裂が入った光景だった。

 ダンジョンの空間が裂けるとか、どんな超常現象だよ。


「すげーな……」


 そう言葉を漏らすと、パンドラは全身から煙を噴き出し、爆散した。


【レベルアップ】

【レベルが176から654に上昇しました】


【特殊条件を満たしました】

【スタンピード進行が永久にロックされます】


 どうやら、この階層だけは、鍵が無くとも永久に完全クリアとなったらしい。


「や、やった。ついに、僕達は……。成し遂げたんだ……!」


 エスはそう言って前のめりに倒れた。どうやら限界まで魔力を使い果たしたらしい。エスは顔だけをこちらへと向け、静かに笑顔を見せてくれた。

 もう立ち上がるどころか、言葉を発する気力もないようだ。それは俺も同じなので、笑顔で応えてやる。そうして俺達は静かに笑い合った。


 まあ、後でしばくけどな。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る