ガチャ596回目:神降ろし

「おりゃっ!」


『斬ッ!』


 『雷鳴の矢』と、それに混ざって時間差で飛んでくる銃撃を切り落とす。ミスティのスキルや『武技スキル』もコピーしているみたいだが、アレは結局のところ通常弾みたいだし、なによりミスティの方がもっと正確で連射力も上だ。不意打ちの追尾弾だろうと当たってやる気はしない。


「『解析の魔眼』!!」


 相手の攻撃に集中しなくても、ある程度回避ができるようになったところで、本格的に奴の弱点を探り始める。といっても『弱点看破』のスキルは機能しないし、特別なウィークポイントも存在しないようだ。

 だが、相手の『魔力』の残量を直接視さえすれば、奴がピンピンしているのか、それとも息切れ間近なのかすぐに判断できる。ここから何か糸口を……。


「ん?」


 なんだ? やけに魔力の回復が早いな。エスの言い方からして、最初に対価となる魔力以外にも、前借りスキルにはデメリットがありそうだし、使ってきたらエスもすぐに気付くはずだ。

 ということは、こいつはデフォルトで回復力が早いのか? この回復量、俺の3倍くらいは……。

 待て、3倍……!?


「エス、ミスティ。お前達も『魔力超回復』はあるか?」

「ああ、あるよ」

「ん。必需品」

「なるほど。奴め、俺達の間で重複したスキルは打ち消しあってるもんだとばかり勝手に思っていたが、どうやら効果は重複するらしい。あいつは15秒につき魔力を160×3の480回復させてる!」

「「!?」」


 15秒で480なら、毎分1920で魔力が回復することを意味している。どうりで200消費の『紫電の矢』を結構な頻度で撃ってくるわけだ。そりゃ息切れなんてしないよな。

 それにこいつ、頭が3つ分あるからそれぞれが別々に思考をしてるみたいだし、そこに俺の『思考加速』と『並列処理』を全部の頭でフル活用してるだろ。その為、3頭6腕それぞれが、時折通常攻撃の中に武技スキルを巧みに織り交ぜ、俺達に致命傷を与えようと攻撃してきていた。

 大変ではあるが、このまま耐えるだけなら問題はない。だがこいつ……乱発しているように見えて、消費魔力も計算しているな? 最初に『結界破壊』と『ワールドカッター』で消費した3600+@の魔力が、徐々に回復しつつある。


「エス! 今すぐそのスキルのメリットデメリットを教えてくれ! 簡潔に!」

「分かった!」


 そうしてエスから教えられた前借りスキルは以下のようなものだった。


【メリット】

・捧げた魔力に応じて未来の魔力を前借りできる。

・最低2500から捧げられ、総魔力量から見た消費割合に応じて前借りできる量が変化する。

・5割なら30分、8割なら1時間、10割なら3時間分の魔力が前借りでき、その量は『魔力回復』及び『魔力超回復』で回復する見込みの数値分となる。

・前借りした状態でも、『魔力回復』系統スキルで最大値を無視して徐々に回復する。


【デメリット】

・今ある残存魔力の全てが捧げる魔力となるため、2500未満では使えない。

・前借りした時間の5倍の時間、魔力が失われる。

・効果時間は10分。


 つまりそのスキルは、一気に大量の魔力を使うような短期決戦時には有能だけど、長期戦を見据えると使い物にならないスキルな訳だな。

 となれば、コイツが今魔力を徐々に回復させているのは、大技をぶちかますための時間稼ぎということか。

 現時点での魔力量は8割ほど。なら、『予知』を危惧して様子見をするのは利敵行為じゃないか!


「こいつの魔力量だと、僕の最終技は満足に使えない。けど、前借りしてしまえばその手前の技なら何発かは撃てるはずだ。兄さん、あれを使わせる前に決着をつけないと!」

「だな」


 それにしても、あいつは1分で1920回復する化け物だ。そんな奴が8割の時点で前借りをしたら、借りられる魔力は1時間分。単純に60を掛ければ、魔力は約11万5000だ。そんな魔力でもだって?

 お前の必殺技、どんだけ魔力をバカ喰いするんだよ……。まあそれはさておき、使わせたらまずいと思って使わなかったが、消費を惜しむ相手にこのカードは使い得だったようだ。


「出てこい、『天罰の剣』『魔導の御手Ⅲ』!!」


 左右に二本の剣、そして上空に三本の黒腕が出現した。


「天罰は奴の剣の相手をしろ! 腕は奴の顔を狙え!」

『グ!?』


 エスの行動を阻害していた蛇腹剣と『エアリアルソード』にぶつける。格もコピーされていたとしても、あっちは『遺産レガシー』と『伝説レジェンダリー』だ。『ケルベロス』のような『幻想ファンタズマ』武器じゃないから、ある程度張り合うことは可能だろう。

 奴は……『天罰の剣』よりも、魔力を用意する事を優先したらしい。この場でアレを召喚したりしたら形勢は元通りになるが、魔力は空っぽになるもんな。


「エス、大技の準備をしろ!」

「助かるよ兄さん。ミスティ、あとのことは頼んだよ」

「ん。任せて」

「……いくよ、『神降ろし』!!」


 突如としてエスを中心として竜巻が発生し、大気が揺れた。


『『神降ろし』!!』


 慌てたパンドラが、エスの口でスキル名を実行し、同様の竜巻に飲み込まれる。そして攻撃をしていた『天罰の剣』と『魔導の御手』が全て弾き飛ばされた。

 だが、竜巻の巨大さからしても、内包する魔力の量からしても、圧倒的にエスの方が上だった。

 パンドラの竜巻から伺える魔力の総量は、さきほど予想していたよりも多く12万ほどあったが、エスの方は……50万を超えていた。エスの大技とやらは、あんな大量の魔力を必要とするのか? つーか、ほぼ満タンとはいえ3時間前借りしただけであの数値って、あいつの魔力回復量、どんだけあるんだよ。


「……ん。こうなったらこっちの攻撃は相手に通らない。あの竜巻が消えたら、戦闘再開」


 ミスティが弾を再装填させながらやってきた。

 ……あれ、それ俺特製の奴か?


「ん。惜しんでいい相手じゃない。ここからが本番」

「二挺ともそれでいくのか?」

「ん。そんなことしたら肩が持っていかれる。片方は通常弾で牽制して、もう片方でぶっ放す」


 まあ、威力に比例するように反動もえぐいもんな。


「ちなみに、あの状態を『破魔の矢』で撃ったらどうなるかな?」

「ん。多分効果ないと思う」

「やっぱり?」

「『破魔の矢』は見たところ、一部のスキル効果を無効化する能力だけど、何でもかんでも無効化はできない。シェイプシフターの時もそうだった」

「だよなー」

「それに、うまく解除できても酷いことになると思う。その瞬間、行き場を失った風のエネルギーが周囲に爆散する。私達も危険だし、最悪この階層がズタズタになる」

「あー……」


 この階層にいるのが俺だけならまだしも、他の皆を巻き込むわけにはいかないか。入り口にはうちの彼女達だっているんだしな。

 それにあんな大量の魔力を内包した風の暴走だ。外装を張ったとしても、暴発が一瞬ならまだしも、継続的に発生したら耐えきれない。


「仕方ない。大人しく見てるよ」

「ん。それがいい」


 あの竜巻が消えたら、速攻で奴の外装を2枚とも引っぺがし、張りなおしたものも即座に消し飛ばす。問題は、エスの攻撃よりも、パンドラの攻撃を受け流す方法だが……。『鏡花水月』用の水を用意したとしても相手に利用されちゃ意味ないし……。

 こっちも倒すくらいの意気込みで、本気の攻撃を仕掛けて、当たって砕けるしかないか。だがグングニルは制御が効かないから、万が一のことがある。念のためアレは封印して、今俺が出せる、最強の技をぶつけてみるか。

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