ガチャ592回目:作戦会議
拠点の外に出た瞬間、無数の見えない眼が俺に向けられていることを察した。やっぱ、エンキ達は眼中に無しか。こんなスライムもどきにモテても、全然嬉しくもないな。
「……ふむ。視線の感触と空気の振動具合からして、兄さんが7体、僕が5体、ミスティが3体ってとこだね」
「……なんだエス、いきなり喋っちゃうのか。作戦だと、慣れてきてからって話じゃ無かったか?」
「そうだね。兄さんは直接戦うのは初めてなんだし、慎重にとも思ったんだけど、ずっと無言で狩るなんて息が詰まるだろう? それに、近接攻撃をする中で、威力を乗せようと動けば声なんて自然と出てしまうさ。なら、突然奴らが喋り出して不意打ちを喰らうより、最初から出しておいた方がいい」
「まあそれもそうか」
敵の群れは先ほどまでと変わらず、前方に6体、左手に4体、右手に5体だ。エス曰く、内訳としてはミスティはそれぞれの集団に1ずつ配置されていて、俺は正面が3、他が2。そして残りがエスって具合だった。
前衛中衛後衛がバランスよく配備されているし、最初から複数の分身体と戦うのはあまりよろしくない。特に俺の分身体なんて、防壁2種と『結界破壊Ⅲ』の能力があるが、致命的な問題を抱えていた。
俺は昨日の夜、第五層での作戦を考えていた時のことを思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【1日前:昼】
俺達はホテルの一室に集まり、第五層での戦い方について作戦を立てていた。
「ゴーレム達がコピーの対象だった場合とそうでない場合とで、作戦と方針は分ける必要があると思うけど、まずはコピーの対象外だった場合で考えようか」
あの階層に関しては、そのモンスターの特性からネタバレを気にしている場合ではないので、一番戦闘歴の長いエスに音頭を取ってもらう事にした。
「その場合、うちの子達は自由に動けるわけだけど……。混戦になるとややこしい事になるし、一旦ついてくるのはエンキとエンリルの2人だけにしておこうか」
『ゴゴ』
『ポポー!』
「それで問題なければ、セレンとイリスも参戦な。ただ、アグニはお留守番だけど」
『♪』
『プルン』
『キュイ~』
アイラが巨大なホワイトボードを取り出した。
彼女は会議の中で上がって来た情報を精査して、そこにまとめてくれるらしい。
「ん。それじゃ、私達3人のスキル構成が、そのまま敵に回った時に厄介な点を挙げてく。まずエスは『風』を始めとした風属性の魔法で、こっちを撹乱させてくる。更には物理攻撃も魔法攻撃も、エスの前では悉く威力を減衰させられるから、いるだけで邪魔な存在。だけど、威力の高い攻撃は『魔技スキル』に集約されてるから、そこまで危険度はない」
「はは、ミスティとは相性が悪いよね。だけど本当に厄介な存在は、間違いなく兄さんだよ。兄さんはとんでもなく豊富なスキルを持っているから、遠近両方行ける上に、早期撃破を狙っても外装と防壁の2枚の壁がある。両方破らないとダメージを与えられないというのがまた厄介極まりない……。正直、兄さんも後ろに控えてもらいたいところだけど、鍵の権利とかの問題もあるしね。兄さんには前に出てもらわないと困るというジレンマがあるね……」
まあ、鍵の問題がなくても、俺は前に出るけどな。エスもその辺は分かってるだろうから、今のは半分冗談のつもりだろう。
「我ながら敵に回ると面倒な能力だよな。その上、『結界破壊Ⅲ』の能力もあるから、こっちの盾はお構いなく割られるだろうし……」
「それって確か、偽物の僕が落としたスキルだっけ」
「ん。本物そっくりの攻撃手段を有した、シェイプシフターなんかじゃ絶対に真似できない強力な存在だった。あのまま放っておいたら、最強スキルまで使われてた」
「僕以外の存在がアレを使うところを見てみたくもあるけど、魔力依存の攻撃を無限の魔力持ちが使ったらどうなるかなんて、言うまでもないだろうね。というか、僕の攻撃系『魔技スキル』はほとんど魔力依存だし、映像を見る限り普通のブレイクアローですら即死級の技にまで昇華していたはずさ」
アレってのは、大精霊が持っていたエスが持つ『魔技スキル』の中で、一番強いと噂の『極閃』か。2人とも最強と思ってる技だろうし、名前からしても強力無比な、文字通り必殺技なんだろうな。俺も見てみたくはあるが、それは死と同義だろう。本当にあの時は、短期決戦で仕留められて良かった。
つーか、やっぱりあのブレイクアローも魔力依存で威力が変化する技だったのかよ。どうりでとんでもない硬度を有した『天翼の兜』が半壊するわ、俺の異常な頑丈ステータスを完全無視するわけだ。
本当にヤバい奴だったんだな。あの偽物。
「で、『結界破壊Ⅲ』になにか思うところがあったのか?」
「ああ、そうだったね。兄さんからもそのスキルの概要は聞いたけど、強力な反面使用条件もだいぶ厳しいものがあったんじゃなかったかな?」
「……ああ、そうか! 消費魔力が1800もあるんだった。それを思うと、連中は俺に変身しても使えないのか。『魔力』1500しかないし」
「そうなるね。兄さんが持つスキル『魔力の叡智』の効果で、消費が1割カットされても、1640も必要になる。強力なレベルMAX魔法も、同じく『知力』不足で使えないはずさ。だから、コピー自体はとんでもなく厄介に思えるけど、強力なスキルであればあるほど、使用制限という別の問題に阻害されるんだ」
「なるほど」
「ん。けどバリエーション豊かなショウタがコピーされると、遠近なんでもいける万能モンスターが誕生する。だから倒すなら速攻が良いんだけど、やっぱり外装が邪魔」
「それはなんというか、すまん。けど外装は、消費は100に抑えられているけど再使用のためのリキャストが30秒もある。だからミスティが攻撃を当て続ければ、倒せないことは無いんじゃないかな」
「ん。その線でやってみる。模擬戦のリベンジ」
ミスティが燃えている。あの時は楽しそうだったし、根には持ってないだろうけど、悔しかったのかな?
「あとは状態異常の強制付与ができる魔眼系統だが……」
「そっちは心配いらない。奴らはなぜか魔眼系のスキルが使えないんだ。なぜかは知らないけどね」
「ほーん?」
スキルとして確定してるのに、スキルだけでは発動できない……? 謎だが、今は置いておこうか。
「んじゃ次にミスティのコピーはどうなるんだ? ケルベロスもコピーされるのか?」
「ん。前にも言ったけど、連中の模倣は武器にまで適用はされない。せいぜい、見た目と武器の種別くらい。だから二丁拳銃を持っていても、私やショウタの専用弾みたいな性能はしてない」
「そうなのか」
「けど、出現する銃は奴らの身体の一部みたいなものだから、再装填の方法も特殊。全部撃ち切っても、3秒経過でフルマガジンになる」
「意味が分からんな」
「ん。意味不明」
けど、その程度ならまあ安心か。
ただ、ステータス依存の銃弾になるだろうから、当たったら痛いじゃ済まなさそうだけど。……まあミスティの弾丸より遅いのなら、弾くのも簡単かもな。
「じゃあやっぱり、問題は俺のスキルか。大精霊の件もあるから、連中が全てのスキルを変身直後から十全に使いこなせるかは別として、やられたら厄介なスキルを挙げて行こう。んで、それぞれが使われた場合の対抗策を決めていこうか」
「OKだ。じゃあ兄さんのスキル、上から順番に確認していこうか」
「ん。ショウタの無尽蔵に増えるスキル、ついに見直す時が来た」
「はは。ちなみにこの作戦も、変身されたら筒抜けなんだよな?」
「そうだね。けど、何もしないよりはマシさ」
「それもそうか」
そうしてその作戦会議は白熱し、昼過ぎから始めたのに、気付けば太陽は沈み、夜も更けていたのだった。
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