ガチャ591回目:はじめてのおつかい
休暇を満喫した俺達は、再び第五層へと足を踏み入れていた。数日間誰も第五層に立ち寄らなかった影響かは分からないが、キャンプ地点周辺にはモンスターの影は一つも無かった。
このチャンスを活かしてアイラは即座に行動を開始。平らな場所に家を設置して、全員が中へと入って行く。そして……。
「おーい!」
数百メートル先にいる奴らにも届くように叫び、じっと待った。すると、森のあちこちから奴らが顔をだし、こちらの様子を伺いながらにじり寄ってきた。そして境界線付近へ辿り着くとピタッとその動きを止めのだ。
見る者を深淵へと引き摺り込み、底知れぬ恐怖を味わわせる人ならざる者。俺たちを囲むシェイプシフターは、15体いるようだ。団体の数は4、5、6の3つ。
この数なら、まだ少しスタンピードまでの猶予はありそうだ。
「よし、モル君。頼んだぞ」
『キュ!』
「『視界共有』」
モル君はゆっくりと前へと進み、逆に俺は家の中へと入っていく。ねっとりと絡み付くように飛んできていた視線は、家の中に入ると同時に消失した。
もしもの時にすぐ駆けつけられるよう、玄関口にはエンリルとイリスがスタンバイし、窓際にはエンキとセレンが待機し、その時を待っていた。ただまあ、エンキは家に入るために小型サイズで居ることを強いられている。なのでどうしても初動に遅れてしまうため、この配置していた。
ちなみにアグニは、戦力的には言うほど弱くはないのだが、それでもオール1600とオール1500の差しか無いのだ。なので、囲まれるとあまりよくはないので、今回は彼女達とここでお留守番である。
『キュイー……』
「そんな声出すなって。日本に戻ったら、すぐに新しいコアを用意してやるからな」
『キュイキュイ!』
戯れてくるアグニを抱きながら、視点をモル君に集中させる。彼我の距離は、モル君の視点があまりにも低いため、目算もどこまで正確かは分からないが、大体30メートルほどだろうか。そろそろ奴らの変身射程に入るわけだが、どうなる事やら……。
『キュ……キュキュ!』
気合い十分といった様子のモル君が、ズンズンと距離を詰める。
「……ふむ」
もうすでに10メートルくらいの距離まで詰めていたが、それでも奴らは反応しなかった。これはセーフなのか?
ひとまず、隣にいるエスに『視界共有』をかけ、判断を仰ぐ。
「そうだね。本来この距離まで詰めたら確実に変身しているはずだよ。奴らもモル君のことは認識してるはずだけど……。本当にモンスターには変身できないのかもね」
「ふーむ。じゃあ、そうだな……」
俺はスケッチブックを取り出し、視界を共有しているモル君に指示を出す。
『一発殴って』
『キュ!? キュキュ……』
飼い主であるアヤネの指示じゃないから駄目かな? と思ったが、どうやらやってくれるらしい。そういえば、休みの間もアヤネが何も言わなくても他の子達の言うことはしっかり聴いてたよな。
指揮系統的に誰が上かハッキリ理解しているのだろうか。
『キュキュー!』
モル君が飛び掛かり、その鋭利な爪でシェイプシフターの身体を切り裂いた。
しかし、『物理無効』の前にはダメージなんて通るはずもなく、モル君の攻撃では傷一つつかなかったようだ。
『キュ……』
普通なら、いくら温厚なやつでも攻撃されればブチギレるはずだが……。
『……』
『キュ?』
一応モル君の事は視てるはずだし、認識もしてるはずだが……。反応しないな。
「よし、次。エンキとセレン、行ってこい」
『ゴ!』
『♪』
エンキは外へと出ると5メートルの魔鉄の巨人となり、セレンは複数の触手を操りいくつもの水の槍を生成。
エンキはその槍を一本ずつ掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返し、モル君の周囲にいるシェイプシフターを吹き飛ばす。
『キュキュー!』
逃げるように駆けてくるモル君と入れ替わるように、エンキとセレンが前に出るが……。
『……』
『ゴゴ?』
『♪』
これでも反応なしか。
なら、あのキャンディと同じで、こいつらは人間じゃないと変身できないって事だな。
「エンリル、イリスもGO」
『ポポ!』
『プルーン』
『キュー!』
エンリルとイリスと入れ違いで拠点に戻ってきたモル君は、まっすぐアヤネの所に駆けて行き、そのまま胸へと飛び込んだ。
『キュキュゥ』
「よしよしですわ。頑張りましたわね」
『キュー』
「モル君、俺からもありがとな。怖かったろうに、よくやってくれた」
『キュゥ……』
怖かったという感情がぼんやりと伝わってくる気がした。別に俺はまだ『テイム』を取得してないんだけどな。アヤネと繋がりがあるからか、それともモル君がわかりやすいだけなのか。
まあそれはさておき、共有者が居なくなったので外の様子が分からなくなってしまった。けれど戦闘音は聞こえてこないし、睨み合いが続いてるだけだろう。
「エス、ミスティ。俺達も行くか」
「ああ、行こう兄さん」
「ん。頑張ろう」
「ショウタさん、お気を付けて」
「ファイトですわ!」
『キュキュ』
「キツくなったらいつでも戻ってきて良いんだからね!」
『キュイキュイ!』
「ミスティ様。私たちの代わりにカメラ役、お願いしますね」
「ん。任された」
皆とハグし合い、気合を入れた俺達は、本格的に第五層の戦いに赴くのだった。
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