ガチャ590回目:それぞれの休暇

 ダンジョン攻略中の俺にしては珍しい三連休を満喫し、俺達は各々で羽を伸ばすことにした。

 この三日間、休むだけじゃなくて今後のためにもグングニルの修練をするべきかどうかで悩んだりもしたのだが、せっかくの休暇なのだからと彼女達だけでなくエスにも止められたので、俺はひたすらに休むことにした。

 まあ、あんな危険な存在、ダンジョンの外で振り回そうものなら、色んなものをぶっ壊しかねないもんな。それにダンジョン内で試そうにも、今や『696ダンジョン』は第一層から第三層まで大いに賑わっているし、そんな中でグングニルを振り回してうっかり明後日の方向に飛んで行ってしまったら、目も当てられないことになる。

 第四層は島を突き抜ける事故が起きれば、またしても長時間寝たきりになるし、本番前に第五層に入るのは良くないだろう。それに、仮にシェイプシフター連中に当たったとて『物理無効』持ちじゃあな……。

 まあワンチャン、グングニルならスキルの壁も突破してくれそうな気がしないでもないが……。


「皆さんこんにちは。マキですっ」

「アキだよー」

「今日は新しい仲間を紹介したいと思います」

「とーっても可愛いから、覚悟しててねー」


 休暇中、アキとマキの2人はというと、新しく仲間になったモル君とアグニの紹介をしていた。

 その紹介というのは、誰か個人宛にメッセージを送るとかではなく、動画投稿サイトを使っての拡散だった。俺も詳しくは知らなかったが、なんでも結構前からやってるらしく、言い出しっぺはサクヤお義母さんらしい。俺たちの事を広い層に知ってもらうことで、冒険者に対するネガティブな感情を減らすことを目的としているらしい。

 エンキ達の人形化の話も、この動画を始めた直後には、多数の企業から連絡があったとかなんとか。まあここに来た時、『鑑定』で名前を観られて敵に利用されそうになったことはあるけど、正直名前くらいならSランクチームのメンバーならどこからでも漏れるだろうしな。それすら調べてなかったあの2人がダメダメだったんだろう。

 そういやあいつら、どうなったんだろうか。スキルは全部剥奪されて、残ったのはレベルとステータスだけ。丈夫な身体はあるだろうから、実験系の施設では大歓迎されてそうだな。


「この子は炎属性のアグニちゃん。ショウタさんが作り上げ、家族となった大切なゴーレムですっ」

『キュイッ!』


 カメラに向かってアグニがぺこりと頭を下げる。


「そして……」

「皆も知ってると思うけど、『696ダンジョン』の第三層で『テイム』が発見されたわ。モンスタードロップの宝箱からの、さらに抽選での入手経路だから安価で手に入るには時間がかかるかもしれないけど、もうちょっと待っててねー」

「そんな『テイム』で初めて仲間に加わったのがこの、モル君ですっ!」

『キュキュ!』


 モル君もノリノリで万歳をしてアピールをしていた。

 アレは録画なのかと思いきや、実際に生放送をしているらしかった。最初は動画投稿が主だったようだけど、数をこなして慣れてきたところで、サクヤお義母さんから放送のオファーがあったらしい。

 ぶっちゃけ休日の日は、俺のいないところで彼女達が何をしているかとか、まったく把握していなかったけど、まさかあんな事をしてるなんてな。

 まあ仕事でやらされてる感を感じたら止めてたかもだけど、2人は全然楽しそうだった。水を差すのもなんだし、俺は大人しくカメラに映らない特等席で、彼女達の頑張りを観戦することにした。


 そうして放送終了後、すぐにアグニとモル君の人形化が決定したのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 休みの日には他にもイベントが目白押しだった。

 まずオークションには、俺たちの集めたスキルの山の一部がアメリカのオークションに並び、元の価格の20%オフの状態で各スキルが数百個ずつ出品され全て完売したり、一般の冒険者が入手した『テイム』の第一陣が出品されたりもした。最初の1個目の扱いをどうするかでベンおじさんや義母さん達が話してたけど、最初の数個はアメリカ側で優先して構わないらしい。量産が始まったあたりで、日本にも流してくれれば良いんだとか。

 義母さん達は優しいなぁ。


 そしてもう1つの大きなイベントは、カスミ達と連絡ができたことだ。


『うわー、お兄ちゃんだー!』

『兄上、壮健そうで何よりです』

『お兄さん、先輩達の放送見たよー! 帰ったらその子達、ボクにもモフらせてねー!』

『お兄様。メッセージでも伝えたけど、指輪もありがとね☆』

『お兄様が送ってくださった大量のスキルは、必ず役立てて見せます!』

『不思議ですわ。お兄様の背後に、後光が見えますわ……!』

『もう、イリーナったらいくらなんでもお兄様のこと神格化しすぎよー☆』

『そうなのでしょうか?』


 ビデオ通話越しに見た皆の表情からは、大きな事故もなく元気にやっている事が如実に伝わってきた。だけど、俺のいない生活は思ったよりも寂しかったらしく、早く会いたいと言ってくれた。

 特に性癖を塗り替えられたイリーナとレンカは大変だったらしい。なんでもちょっと前まではお互いに一緒にいられれば満足だったのに、物足りなさを感じるようになったとかなんとか。手を出した以上、ここは俺がしっかり責任を取らなきゃだよな。

 そして顔を見た以上、俺も彼女達に直接会いたくなってしまった。『696ダンジョン』を早めに片付ける理由がまたできてしまったなぁ。


『それでねお兄ちゃん、聞いて聞いて!』


 どうやら彼女達も、ただ俺の帰りを待っているだけじゃなく、最寄りのダンジョンの『完全攻略』を目指しているらしい。そしてこの短期間で、既に第一層から第四層までの『鍵の欠片』を手にしたそうだ。なんでもイズミ曰く――。


『鍵が完成した暁には、お兄様に捧げるわねっ☆』


 らしい。

 正直言って、このサプライズは滅茶苦茶嬉しいものだった。何故なら、ホルダー同士が巡り会うことも稀だが、更には鍵の譲渡というイベントが起きるなんて、普通は起きえないからだ。ホルダーであるというメリットを捨てるなんて、普通の人間ならしないだろうからな。

 その辺は、例え俺の『運』がどんなによくても、そんな機会は無いだろうと諦めてたくらいなんだ。


「ちなみにそのダンジョン、何階層まであるんだ?」

『6階層だよ。だからあと2つってところだねっ』

「土産話は楽しみにしてるが、ボスはどのダンジョンでだって強敵だ。勝てそうに無かったら、無理せずちゃんと撤退するんだぞ」

『うんっ』


 そうして別れを惜しみつつも通話を切った。

 しっかしイズミもホルダー間近かぁ。今までは考えないようにしてたが、本格的に鍵の譲渡が有効か、このダンジョンをクリアした時に『ダンジョンコア』に聞いてみるかな!

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