ガチャ587回目:キャンディ
ベンおじさんは俺の言葉に一旦は満足してくれたようで、頷いて部屋を出ていった。それを見送ったシルヴィは、彼の姿が見えなくなるのと同時にエスに飛びついた。
「エスー! 無事でよかったわ!」
「ああ、ただいまシルヴィ」
「エスが第五層に挑む度、生きた心地がしないわ……」
「心配かけてすまない。でも、それももうすぐ終わるさ。きっと兄さんがなんとかしてくれるよ」
「任せとけ、と言いたいところだが、お前も手伝えよ」
「分かってるさ。ただ……第五層では、義姉さん達は拠点に篭っていて欲しい。奴らの変身対象になったら、兄さんの剣が鈍るし、何より兄さんの手によって自分が斬られる光景なんてみたくないだろう?」
彼女達は目を合わせ、しばらくして頷きあった。そしてマキが代表として口を開く。
「……この階層の話を聞いてから、この事をずっと考えてきました。ですがやっぱり、私達はショウタさんの足枷になりたくありません。ですので、拠点でショウタさんの帰りを待っていますね」
「ああ。その時はめいいっぱい甘やかしてくれ」
「はいっ」
「全力で甘やかすわよっ!」
「その時はわたくし達から離れられないようにして差し上げますわ!」
「私としてはご主人様に斬られる自分を見てみたくもありましたが……」
うちのメイドがなんか言い出したぞ。
「アイラさん?」
「自重するって言ったわよね?」
「アイラ、ハウスですわ!」
「冗談です。ご主人様の心を必要以上に傷付けるつもりはありません」
あの感じ、2割ほどは本気で言ってたろ。まあ良いか。大人しくしてくれるならそれで。
「じゃあ本番の話はこれくらいにして、成果の話をしようか」
「わぁ、楽しみね!」
「ああ。兄さんの事だ、魔法スキルがさぞかし大量にあるんだろう」
「期待してるところ悪いが、その前に1つ確認だ。アイラ、第五層でのドロップって、結局あったのか?」
「はい。スキルは1つも落ちていませんでしたが、魔石とキャンディだけは落ちていました。取りに行くのは躊躇われましたが、エンリルが風の力で引き寄せてくれました」
『ポポ!』
エンリルが得意げに胸を張った。
よしよし、よくやってくれたぞー。
「魔石が4つに、キャンディが8つか」
キャンディといっても、棒付きの物じゃなくて飴玉なのか。こうみると、魔石と大差なくて混同しちゃいそうだな。
「スキルは全部コピー品だし、元のスキルは『
「ああ、そうだよ」
「不思議だったんだよな。今まではいくら俺の『運』があるとはいえ、食糧ざっくざくの良いダンジョンにしか思えなかったし、第四層の精霊種も、多少渋くても魔法系統スキルは有能だ。落ちれば一攫千金も狙える代物だから、渋いなんて言葉は似合わないなって、ずっと思ってた」
だが、本当になんとかしたい第五層が、こんなゲロマズだとはな。苦労して倒しても、スキルが一個も出ないんじゃ、ただでさえメンタル削られるのにやる気が削げるだろ。
しかも、出たところで変なキャンディ1個じゃあな……。
「ちなみにこのキャンディも、ドロップ率は非常に悪い。というかゼロに近い。リストにこそあれど、ドロップを見た人間はいないんじゃないかな?」
「私もないわ。もちろん、協会に持ち込まれた記録もね」
「マジで?」
でもそうか。シェイプシフターとは死闘を演じることになる訳だから、『運』持ちをわざわざトドメ用に前に出すこともないだろうしな。それにスキルという高額アイテムが出ない以上、そもそも『運』持ちを連れてくるメリットがないって話になる。一応『運』持ちが高性能なスキルを持っていなかった場合に、弱い変身対象を増やすための囮くらいにはなれるかもだが……。
本当にそれだけだ。
「んで、そんな希少なドロップアイテムは、どんな効果なのかね。『真鑑定』『真理の眼』」
名称:虚像のキャンディ
品格:≪遺産≫レガシー
種類:食材
説明:シェイプシフターの能力が備わった不思議なキャンディ。舐めている間、思い描いた相手の姿に変身することができる。相手への理解が深いほど体格や声質などが完璧に再現される。甘い。
★ステータス、スキル、記憶、知識はコピーできない。
★変身相手は人間のみ。
★口内からキャンディが無くなると解除される。
「おお。面白いじゃん」
「ん。トランスフォームとはまた違ったアイテム」
「使い捨てなのはあれだけど、色々と試してみたくなるね」
「あんな敵から出るとは思えないくらい、パーティーグッズですわ」
「ほんとよね」
「しかしこれは、世に出回ると良くない物ではありますよね?」
「そうだね。兄さんくらいしかまともに手にする事ができないのは唯一の救いかな」
アイラとエスはこのアイテムの危険性について話し合っている。まあ言いたい気持ちはわかる。時間制限はあるだろうけど、使いこなせれば人の目を完璧に欺ける変身薬だもんな。
ま、それは置いといて、とりあえず試してみるか。俺はキャンディを手に取り、まずは変身する相手を考える。思い描く相手は詳しければ詳しいほど高度な変身ができるとなれば、うちの彼女達が一番いいだろう。では誰に変身するべきか。
「?」
真っ先に目が合った彼女にするか。俺は目を閉じ、キャンディを口に放り込む。甘い味わいが口の中いっぱいに広がると同時に、想像した女性の輪郭が物質化して、まるで自分に纏わりつくような、妙な感覚を覚えた。その感覚に身を任せていると、周りの世界が音を立てて変化して行ったのを感じた。
「うわ……。装備まで丸コピじゃん」
「す、すごいですわー!」
「ショウタさん、気分はどうですか?」
「ん。すごい。質感も本物。ぷにぷに」
ミスティが俺の頬をツンツンしてくる。ミスティに抗議の目を送るが、いつも見下ろしていたミスティの顔が、少し高い位置にあるな。そう思って俺は自分の身体を見回し、変化を実感した。
「お嬢様が2人……。なんだか不思議な気分です」
「成功したのかな? 皆でっかく感じる」
「しっかりアヤネちゃんの声ですっ」
「はわわ、わたくしが目の前にいますわ」
「すごいわねー。服の中はどうなってるのかしら?」
「ちょっ!?」
アキがいきなり俺の服を、いや、アヤネの服か? ええい、ややこしい! ともかくスカートの中へと頭を突っ込んできた。息がくすぐったい!
「ちょっと姉さん、なにしてるの!?」
「おー、下着も完璧じゃない。さすがショウタ君ね!」
「それ、褒めてんの?」
「それに、ちゃんと付いてないわね!」
「あうぅ、変な気分ですわ」
「アキ様、悪乗りもほどほどに」
アイラの手によりアキが引き剥がされる。
……助かった。
「ん。それにしても、アヤネが2人もいるの、ほんとに不思議。でも、片方はちゃんとショウタだってわかるから、安心」
「んむぐっ」
「むぎゅっ」
今度はミスティが、俺とアヤネ、2人をまとめて抱きしめてくる。アキの時もそうだったけど、こっちは体格で負けてるせいか、なんだか逆らえない雰囲気を感じるな。普段されるがままのアヤネはこんな感じなのだろうか。
にしても、効果は舐めてる間とあったが、口の中のキャンディの残量を見るに、効果時間は大体5分くらいといったところか。んで、噛み砕いたり吐き出したりすれば強制終了ってところかな。
……うん、中々面白いアイテムじゃないか。カスミ達のおみやげにありかもな。
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