ガチャ586回目:ひとまずの帰還

 そうして散発的にやってくる偽物のエスや、今までこの階層を訪れたであろう冒険者の姿を模した紛い物を討伐すること数十分。

 その間に、ミスティから新たに聞いたシェイプシフターの能力について、情報をまとめてみたところ以下のようになった。


・変身前は絶対無敵。エスの『魔技スキル』でも倒せない

・変身後は、変身前の能力を全て失う。

・変身は観察した対象が20メートル以内に接近して初めて実行される。変身は観察対象に依存するため、複数人で遭遇した場合1人が突出しても全てのシェイプシフターが変身する訳ではない。

・変身をすると、シェイプシフターと変身対象の立ち位置が

・観察対象がテントに隠れるなどで、一定時間観察から逃れると、別の対象を観察し始める。

・変身した対象の記憶、知識、スキルを全てコピーする。対象が喋ると会話能力もコピーし、対象が偽装スキルを持っていなければ全ステータス1500の偽物が誕生する。連中に仲間意識が無いのか、『統率』スキル持ちをコピーされても増加しない。

・コピーした対象に恋人や家族がいた場合、その記憶をフル活用して搦手で襲ってくる。

・変身時、スキルは『通常ノーマル』から『幻想ファンタズマ』までなんでもコピーするが、武具はコピーされても見た目だけであり、武具が備える特殊能力まではコピーされない。

・『武技スキル』と『魔技スキル』はコピーされず、目の前で使用してみせてもコピーされない。

・変身前、変身後ともに、安全地帯の壁は越えられないが、遠距離攻撃はしてくるため油断は禁物。


 こんなところか。聞いてるだけで頭が痛くなってくるな。そう思っていると、マップに反応があった。ようやく本物のエスが空を飛んでやってきたのだ。

 一応確認したが、マップではちゃんと青点表示されていたので、歓迎の意を示すため両手を広げた。


「よぉ、エス。数日ぶりだな」

「ようこそ兄さん。このダンジョンの本当の地獄へ。……流石兄さんだ。この階層の真実を知っても、折れてはいないようだね」

「お前は信じてくれてたんだな。まあ、だからといってミスティの反応が冷たいわけじゃないが」


 エスと拳を突き合わせ、反対の手でミスティの頭をポンポンする。


「常識的に言えば、僕の考えは一般的じゃないし、ミスティの考えこそ普通だと思う。それくらいこの階層は、今までの階層と比べて人類に対する憎悪が詰まってる。それに僕の場合、兄さんを信じていると言うよりも、僕に無い物を持ってる兄さんに期待している部分が大きいかな」

「ああ……。エス、無いもんな。『運』」

「本当にね」


 エスと笑い合った後は、改めて現在の状況を伝えた。


「ここに来たということは、もしやと思ったけど、本当に第四層でもスタンピードを止めてくれたのか。流石兄さんだ」

「エスの方は、調子はどうだ。この階層、しばらく放置しても問題なさそうか?」

「ああ。最終的にスタンピードが起きる場合、奴らの群れの数が変化するんだ。今の所最大数は4で、最低数は2だ。これがもし、最大数7、最低数6になれば、いよいよ危険水準になる。僕がここに到着した時は、最大数が6にまで膨れ上がっていたからね。だから今は、1週間分くらいの余裕はあるんじゃないかな」

「そっか。じゃあ準備が整い次第、ここの攻略を開始する。だから一度、ここで帰るぞ。こんな所にいつまでもいたら、気が滅入る」

「そうだね。そうしようか」


 そうして俺達は、エスと一緒に地上へと戻るのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 地上に戻った俺達は、案の定街の人達に大歓迎されつつ、協会へと戻る。そこでもやっぱり無数の感謝を受けた。どうやら、第四層で狩りをしていた冒険者達が、先に帰還をしてあの通知を持って帰ってくれたんだろう。

 だが、感謝の言葉を送ってきてくれる中で、が出てくると、場の空気が一変した。期待の感情を向ける者もいれば、諦めの感情を向ける者もいたのだ。

 俺の快進撃がここで止まるかどうか、誰もが測りきれていない様子だった。

 俺は、いつも通り何ともないように振る舞い、いつものホテルへと向かうのだった。


「お兄さん、それからエスも、改めてお疲れ様! 無事に帰ってきてくれて本当に嬉しいわ!」

「第四層にあるのは4つの季節島と中央の拠点島だけだとばかり思っていたが、まさか2つの島が隠されていたとは。それも、この国でも発見例が稀有な『雷鳴魔法』と『氷結魔法』の発見。討伐難易度も高く、ドロップ頻度も低いだろうが、それでもこのダンジョンで強力なスキルが出土してくれるのは本当にありがたい。重ねて礼を言わせてくれ」


 ベンおじさんとシルヴィが頭を下げる。てか、あの魔法、発見報告があったのか。さすがアメリカ。日本とは違うよなぁ。


「それと……例の最終層の話だ。他の者達も口にはしなかったが、同じことを考えているはずだ。君の攻略スタンスはエス達から聞いていたから、私も第五層については今まで触れずにきたが……。君も知っただろう、あの階層の恐ろしさが。それでも、攻略はできると思うかね?」

「無責任なことを言うつもりはないですけど、ただまあ、今のところ絶対に無理とは思えないですね。なんなら、第四層の完全攻略の方が無理ゲーってもんですよ」


 俺は3人に、裏ボス的存在が第四層には眠っていること。それはダンジョン制圧には関係ないこと。俺がとりあえずで挑んで、一日まともに攻略活動できないくらい疲弊したことを告げた。

 流石にあの大精霊の詳細を触れて回るのはよくないからな。


「なるほど、そんな相手もいたのか」

「……兄さん、支部長には隠さなくていいよ。それに、彼のスキルを見ればどんな相手が出てきたのか想像がつくよ」

『ポ?』


 エスが色んな感情を抑えた表情でエンリルを撫でた。そういえばエンリル、『鑑定偽装』とかそういうのがないから、筒抜けだったな。


「今から急いで妨害やら偽装やら取っても、手遅れだろうな」

「そうだね。この状態で少なくとも数日は第四層で過ごしたんだろう? なら、今更じゃないかな」

『ポポー』

「ならそこは開き直るか。てか、もうちょっとショックを受けるかと思ったんだが、意外とダメージ無さそうだな?」

「まあ、兄さんなら何か引き起こすんじゃないかと思ってはいただけだよ」


 そうして支部長とシルヴィが改めてエンリルの状態を視て驚愕し、更に大精霊戦の映像を見て椅子から転げ落ちるくらいのリアクションを見せてくれるのだった。


「まあそういうわけなんで、第四層の完全攻略に比べれば、第五層の平定は比べるまでもないというのが正直なところですね。一筋縄ではいかないとは思いますけど、コピーされても1500程度のステータスが数体並ぶ程度なら、さほど問題はないと思います。20体や30体との同時戦闘ならヤバいですけど」

「本当に心強いな、君は。だが、無理はしないでくれ。あそこのモンスターは、その能力値の高さだけが問題ではないのだから」

「肝に銘じますよ」

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