ガチャ585回目:唯一の道筋

「皆はアレの存在について、事前にもう聞かされてたんだよね?」

「はい。ですが、『エクススキル』の詳細までは分かりませんので、ご主人様の情報こそが一番大事です。何が見えましたか?」

「ああ。『物理無効』『魔法無効』『観察Ⅴ』『シェイプシフトⅢ』『深淵の恐怖Ⅴ』の5つだな」


 俺からの情報を聞いて、皆納得したかのような反応を見せた。この様子だと、『シェイプシフト』をした後の話も聞いていそうだな。


「ん。それにしても、エスは耐性スキルてんこ盛りだと思ってたみたいだけど、やっぱり無効スキルだったんだ。エスに勝った」

「なんだよ。賭けてたのか」

「ん。あの状態のあいつらを倒せたことはないけど、攻撃すれば怯むから」

「あー。怯む以上は無効じゃないんじゃないかって、エスは思ったわけか」

「ん。そう」


 でもまあ、ダメージを無効にするだけで、衝撃は受け流せないパターンの可能性があるよな、それ。まあ、今は試す気も起きないが。

 あの連中、作戦失敗したにもかかわらずまだこっちを観察してるようだけど、俺はもう付き合う気もないからな。見る気も起きない。

 そう思っていると彼女たちが何かに気付いた。


「ショウタさん、あそこにいるのって」

「エス君じゃない?」

「手を振ってますわー」


 彼女たちが指し示した先には、エスが森の木々を抜けてこちらへと走ってきている様子が目に入った。


「……?」


 俺はその姿に、底知れぬ違和感を感じた。

 違和感の正体を探してエスやその周辺を見渡すが、なんとも言えない感覚だけが返ってくる。思わず握ってしまった剣の柄へと目を向けると、そこには違和感の答えが映っていた。

 確かに、マップではエスがあちらの方向にいることを指し示している。だが――。


『ズドンッ!』


 その事実に気付いた矢先、エスの頭部に大穴が空いた。

 ぐらりと倒れ込むエスを目撃し、女性陣から悲鳴が上がるが、俺は驚愕よりも先に安堵していた。ぽっかりと空いた穴からは、血液や脳漿ではなく、煙が漏れ出たからだ。


「……なるほど、こりゃ恐ろしいな。悪夢というのも頷ける」

「……え? えっ!? 今の、に、偽物だったんですの!?」

「うわ、やば。事前に聞いてたけど、それでも信じらんない」

「遠目ですけど、質感は本物に見えます。けど、血が……出てないんですね」

「本当に、危険な階層のようですね」


『ガシャッ』


 ミスティはライフルに次弾を装填する。


「ん。この階層は、実力以上に精神力が必要になる。大丈夫と思ってても、仲間と同じ姿、同じ動作、同じ声で喋る相手を殺すことに、ほとんどの人は耐えられなくなる」

「待て。あいつら、喋るのか!?」

「ん。コピーしてくる個体に喋っているところを見られれば、舌と喉の使い方を理解されて真似される」


 だからエスはあの時、反応らしい反応を返さなかったのか。だが、俺の声にピクリと動いてしまったせいで、エスと戦っていた個体がこっちへやって来たんだな。

 ……知らなかったとはいえ、完全に俺のやらかしじゃないか。だが反省するのは後だ。今はミスティから聞きたいことが山ほどある。


「なあミスティ。第五層のスタンピードって、1度起きたんだよな?」

「……ん。あの時は、本当に地獄を見せられた。それはちょうど、エスが『風』を手にしてから1ヵ月ちょっと経過した頃。当時は新階層の出現タイミングということもあって、第四層までは常に賑わっていたから階層スタンピードの心配はなかった。けど、第四層のワープゲート発見には時間がかかったし、春島の石碑が消失してからも、しばらくの間第五層の情報が持って帰られることは無かった。たぶん、第五層に辿り着いてしまった冒険者が、様子見で連中とエンカウントした結果、全滅したからだと思う」


 一切の情報もなく、いきなりモンスターが自分達の姿に変貌したら誰もが驚くし、その瞬間声をあげてしまうだろう。そうしたら次の瞬間から、奴らは我が物顔で味方だとアピールし、あのステータスで暴れ始める。混乱したチームは一気に瓦解するはずだ……。

 本当に、いやらしいモンスターだ。


「でも冒険者は皆勇気ある人ばかりじゃない。中には慎重な人だったり、逃げる事ができた人もいる。そんな人たちの情報が持ち帰られて、初めて連中の恐ろしさが水面下に広がり始めて来たころ、アレは起きた」

「階層スタンピードだな」

「ん。当時は持ち帰られた情報の精査に時間を掛けていた事もあって、まだ全ての冒険者に第五層のモンスター情報は通達されてなかった。その結果、悲劇が起きた」

「……容易に想像がつくよ」

「ん。けど、悲劇は長くは続かなかった。明らかに不釣り合いなステータスと、モンスターと一緒になって私達を攻撃する姿に、ようやくその正体が判明し、伝達された。そしてそこで、新しい情報も得られた。連中は1度変身すると2度と元の姿に戻ることはできないし、再度変身することもできなくなる」

「ほう」


 つまり、同じ個体ならそれ以上の混乱は引き起こせないということか。ダメージを与えたら変身が解けるとかそういうこともなく、完全に一方通行というか、使い捨てのスキルなわけだ。


「それで、ちょっと疑問だったんだが、ミスティはどうやってアレを偽物だと思ったんだ? 見分ける方法とかあるのか?」

「ん。実は、確証はなかった」

「え、マジで? 見分け方が存在しないのか!?」

「一応あるにはある。奴らは変身する時相手の記憶や感情、知識もスキルも全てコピーして置き換える。だから無効化スキルも、その時全部消えるみたい。けど、ステータスだけはコピーされずに元のまま。だから『鑑定』系統でみた時、あのオール1500のステータスが見えたら、間違いなく偽物」

「おお」


 ……って、待てよ。記憶も知識もスキルも、何もかもコピーするだと?

 となれば、奴らが大量に集まって、そいつらが全員俺をコピーしたら、どうなるんだ?


「けどそれでも、確証は得られない時もある。奴らが変身した対象が偽装スキルを持っていた場合、誤魔化されたりもする。だから最終的には勘と、相手頼りになる。本物のエスなら、正面からの私の攻撃を防ぐ手段があるから」

「ん? けど、スキルは全部コピーされるなら、奴らも防いでくるんじゃないのか?」

「あくまでもコピーできるのは通常スキルだけ。『武技スキル』と独自開発した『魔技スキル』はコピーされない。だから奴らは、エスをコピーしても空を飛べないし、エスなら自前のステータスで避けることだってできる」

「なるほど。そこは朗報だけど、ただの『鑑定』じゃ相手の『武技スキル』までは見れないからな。だから結局、偽装スキル持ちの相手はぶっ飛ばして判断するしかない訳だ」

「ん。そう」


 マジかよ。本当に絶望しかないじゃないか。

 ……だけど。まだ、突破口はある。


「そんなミスティに朗報だ。確実に見分ける方法を見つけた」

「ん、やっぱり。ショウタ、さっきエスの偽物を倒した時、確信してた感じがあった。教えて」

「ああ。連中、どんなに見た目を誤魔化せても、『アトラスの縮図』は誤魔化せないようだ。接近してきた奴らは赤点だったし、本物のエスの青点はまだあっちに存在している。そして今まで、マップから消えるスキルが存在している事はあっても、スキルまでは存在しなかった。俺達もそんなスキルは持ってないし、エスもミスティも、そんなスキルないだろ?」

「ん。ない! これは本当に朗報。正直、この階層に関してはほとんど諦めてた。ショウタ達の仲が良いほど、この階層では危険が伴う。けど、ショウタのおかげで希望が持てた」

「ああ。なんとかしてやるさ」


 だからミスティは、第四層が攻略終わった時に、ダンジョン攻略は全部終ったかのような感情を見せたんだな。今までの俺を見てきても、この階層は攻略できないんじゃないかと、まだどこかで諦めてたんだ。

 だが、そんな事にはさせない。こんな悪趣味な階層、さっさと潰してやる。

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