ガチャ584回目:悪夢の第五層

 第五層へやって来た俺達は、まず周囲の状況を見まわした。全体的に牧歌的な雰囲気の場所で、植生的にも気候的にも、春島に近い雰囲気だった。

 特別遠くに浮島があるわけでもなければ、悪魔城が建っているわけでもない。至って普通のフィールドを前に、正直拍子抜けしていた。


「いかにもなステージが来るかと思って身構えてたんだが……。普通だな」

「ん。この世のものとは思えない存在が待ってると思ってた?」


 だが、気を抜いているのは俺くらいの物で、彼女達は全員緊張した面持ちをしていた。俺とは違って、彼女達は事前に聞いてるんだろうけど……。警戒するほどの何かがここにはあるのか?


「まあな。悪魔でも出てくるかと警戒してた」

「ん。流石にデーモンはいない。でも、悪夢のようなモンスターが出る」

「へぇ……」


 悪夢ね。

 Sランクの冒険者であり、遠距離アタッカーとしては最強格のミスティの口から、悪夢なんて単語が出るとはな。どんな奴がいるんだか、めちゃくちゃ気になるが……。それはまた今度で良いだろう。

 マップを開けば、すぐにエスの場所が見つかった。少し距離はあるが、何かと戦闘しているような動きをしているな。流石にマップデータがないから、どのくらいの数と戦っているかは分からないが、その動きから複数体いるのは確実だろう。あと、どうやらこの階層には、俺達以外には誰もいないようだった。第四層にあったようなキャンプが、エスの物以外、一切無かった。

 なら、お行儀良くする必要はないか。


「おーいエスー! 来たぞー!」


 エスがいる方向に向かって叫ぶ。普通は聞こえないだろうが、エスなら問題ないだろう。マップに映ったエスが、ピクリと反応する。カメラに向かって手を振ったりしないのは戦闘中だからかな?


「……いや、それだけじゃない。そんなにやばい相手なのか?」


 そこらの雑魚相手なら、エスなら余裕を持って手を振ってきそうだが、真面目に戦い続ける必要がある相手……? しかも通常モンスターだろ??

 想像つかないんだが……。


「ん。実際面倒な相手。ほら、ショウタの声に反応して、連中が姿を見せた」


 ミスティの指し示した先には、アメーバっぽい身体を持った軟体生物が4体。奴らはお行儀よく横一列に並んでこちらを見ていた。いや、実際そいつらに目玉なんてないし、なんなら顔すらない相手だが、なぜかしっかりとこちらを見ていることが理解できた。

 じっと見ているとこちらのSAN値が削られそうな感覚を受けるし、なんだアレは。くねくねか何かか??


「ミスティ、あの気持ち悪い奴らは……」

「ん。あれがこの階層のモンスター」

「近付いてこない理由は、ここが安全地帯だから?」

「ん、そう。でもあんまり見てると、心が壊れるから良くない」


 そう言ってミスティは視線を外した。うちの彼女達も同様で、一部の子は鳥肌が立ってしまったようで、腕を擦っている。

 目算で、彼我の距離は100メートルほどか。俺はまだ耐えられるが、『真鑑定』の距離限界である50メートルよりも先にいるためその詳細は視れなかった。


「あれが悪夢か。確かに、こんだけ離れてるのに、見てるだけでこれならだいぶ気味が悪いが、あれくらいなら視線を合わせなければ、どうとでもなるんじゃないか?」

「ん。あんなの序の口。接近すれば、本当の悪夢が始まる」

「……んん? 離れて戦えばいいなら、ミスティの主戦場になるんじゃないか?」

「それは不可能。……ショウタも、これを機に視てきたらいい。ただし、絶対に20メートル以内には近付かないで。何も知らずに挑むのは死人が出る」

「死人って。俺はそう簡単には――」

「違う。死ぬのは彼女達。ショウタは多分死ねない」

「……分かった」


 何も知らずに近付くと、近付いた俺ではなく、彼女達が危険な目に合う……? まるで意味がわからないが、ここは素直に従おう。ネタバレを嫌がって俺が危険な目に遭うならまだしも、彼女達に危険が及ぶのは看過できない。

 とりあえず、20メートルまで近付かなければ問題ない以上、『真鑑定』が届く位置まで進めば……。


『ゾワッ!』


 足を踏み出した瞬間、得体の知れない恐怖が俺を襲った。途端に、俺の足取りが重くなり、動けなくなる。

 この感覚は、なんだ? 俺は、何を見逃してる……!?


「……そうだ、ミスティ」

「ん。何?」

なのか?」

「!?」


 ミスティは何かを思い出したかのように、奴らのいる場所を凝視し始めた。続けて、安全圏であるはずのこの周辺一帯も同様に見回す。


「……違う。奴ら、距離を取ってる。多分、『真鑑定』の射程距離まで近付くと急接近してかも」

「なるほど。……かなり、狡賢い連中みたいだな」

「ん。流石ショウタ、よく気付いた」

「俺の嫌な予感は、今の所的中率100%だからな」


 しかし、情報を抜き取る、ねえ。


「なら、ゆっくり動くなんて悠長な真似、してらんないよな。……フルブースト!」


 そこから俺は『神速』を使い、50メートルの射程圏内に入った瞬間に情報を覗き視る。そして得た情報を『思考加速』で記憶し、連中が動き出すよりも早くその場から跳躍して、超高度にまで飛び上がった。そして勢いを殺したのち、『空間魔法』と『虚空歩』を使ってゆっくりと彼女達の元へと降りて行った。

 最初から40メートルくらいの高さにまで登って、そこから連中を見下ろしてじっくりと『真鑑定』を仕掛けるという手もあったが、見た目にそぐわずとんでもない跳躍力を秘めてる可能性も否定できなかったからな。連中の反応速度を超えるやり方でやってみたのだ。

 地上まで戻ってくると、ミスティがサムズアップしてくれる。


「ん。ショウタ、徹底してる」

「まあ、安全に行くならこのくらいはね」

「ん。でもそれくらい警戒はした方が良い。それで、一瞬だったみたいだけど、ステータスは見れた? 私やエスじゃ、奴らが持っているスキルは見えないから」

「ああ。……とんでもない化け物だったよ」


*****

名前:シェイプシフター

レベル:120

腕力:1500

器用:1500

頑丈:1500

俊敏:1500

魔力:1500

知力:1500

運:なし


エクススキル】物理無効、魔法無効、観察Ⅴ、シェイプシフトⅢ、深淵の恐怖Ⅴ


装備:なし

ドロップ:虚像のキャンディ

魔石:大

*****


「まさかの完全無効とはな。あれは確かに、どうしようもない」


 それに加えて、シェイプシフターという名前に、『シェイプシフトⅢ』だと? 俺の予想が正しければ、確かにただの雑魚敵なんて思わずに、1体1体慎重に相手をする必要がありそうだな。

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