ガチャ582回目:大波と隕石

 エンキを中心に陣形を組んで戦い続けること数十分。そろそろ魔法のラッシュにも慣れてきたかと感じた頃、すぐそばで内臓を揺さぶるような重低音が響いた。


『ズドンッ!』


 振り返ると、そこには長い砲身を持つ銃器を構え、地面に寝そべったミスティの姿があった。

 その武器は、銃に関しては聞きかじった知識しかない俺でも知っていそうな、有名なものだった。そう、俗にスナイパーライフルと呼ばれるものだ。


『ズドンッ!』


 再び銃声が鳴り響く。

 その威力は凄まじく、敵対するかしないかギリギリの相手。距離にして300メートル以上先にいる精霊のコアを軽々と貫いたのだ。

 各種耐性や属性鎧なんて知ったことかと言わんばかりの高威力の前に、精霊達は一撃で煙へと変わっていく。

 数こそこなせないが、硬い装甲を持つ相手を確実に倒せるという意味では、ミスティのやり方が一番効率がいいかもしれないな。


「すごいなミスティ!」

「ん。1キロ先でも行けるから、このくらい余裕」


 あれも作成者によって弾の威力に変化が生じるんだろうか?

 今のでも十分オーバーキルだけど、俺が作ったらどうなるんだ?


 ……敵がどうこう以前に、射手であるミスティが反動で吹っ飛ぶかもしれんな。


「ショウタ君、追加の小隕石プチメテオが4つ来るわよー!」

「おう。迎え撃つぞアグニ、5倍マジックミサイル!」

『キュイイッ!』


 4つのマジックミサイルが小隕石プチメテオの中心を穿ち、粉々に砕く。

 続けてアグニの口から超高温の火炎ブレスが噴き上がり、大小様々な破片を炭化させ、無害なものへと変えて行った。

 炎を吐き終わると、アグニは可愛らしくゲップをした。


『ケプッ』

「アグニ、ナイスー」

『キュイキュイ!』


 彼の小さなお手手とハイタッチをする。

 2種の精霊石をエンキに預けている関係でフリーに動き回れるので、俺は主にエンキに対する高威力の土属性魔法の無効化に回っていた。

 といっても、エンキの足元から発生する竜巻型の魔法には無力だし、水属性の魔法は俺では対処のしようがない。せめて水属性の攻撃がもう少し小型だったのなら、外装を使ってのボディ受けができたんだが……。まあそこは、専門家に任せよう。


「次、エンキから見て左右から大津波タイダルウェイブ!」

『プル!』

『~~♪』


 イリスとセレンは左右に分かれ、触手を伸ばす。そして全く同質量の大津波タイダルウェイブを放ち、向かってくる魔法と相殺させた。

 見ただけで相手の魔法に合わせるなんて芸当、普通ならめちゃくちゃ難しいはずなのに、彼らにとっては毎日のように『水魔法』を操ってるからかな。これくらいの調整は朝飯前のようだ。


「「チェインボルテッカー!!」」


 そしてミスティ並みとまではいかないが、今回のアタッカー枠として、アヤネとマキのコンビも討伐に大きく貢献していた。発射された電撃は直進し、目標となる精霊に激突するとその場で拡散。範囲内にいる敵全てを感電させ煙に変えた。連鎖的に電撃が広がる魔法なんだが、集団戦には特に効果的だな。

 『雷鳴魔法』の中で、アヤネが使用できるLv9やMAX魔法は確かに強力な魔法ではあるのだが、どうにも発動後は周辺一帯を帯電させてしまう効果があるらしいので、控えてもらっていた。

 高威力の魔法効果がしばらく残り続けるとなると、アイラがアイテム回収に動けないし、なんならドロップアイテムも壊れるかもしれないからな。

 ……そういえば、スキルオーブの耐久力実験なんてしたことなかったが、耐久力もそうだが壊れたらどんな反応を見せるのだろうか? そう考えるとちょっと気になってきたぞ……。うん、こんなにあるんだし、いつか試してみてもいいかもな。


 そんなこんなで殲滅は続き、気付けばエンキが走り回っても、精霊石に反応する精霊がいない状態にまでなってしまった。ミスティが離れた敵も次々煙に変えてくれたおかげだな。

 大体島を2周はしたと思うんだが、これくらいで良いかな。


「ご主人様、今回の討伐数は240体です」

「お、結構やれたな」

「前回と違って、遊ばせてる人員が少なかったから、その分狩り速度も向上した感じよね」

「あー……。アキ、今回は報告ありがとな」


 今回アキは、攻撃役でも防御役でもなく、報告係という役目を果たしてくれていた。


「ううん、気にしないで。あたしなんて普段から物理攻撃一辺倒だから、相性はどうしても出てくるわよ。前に出たって、ショウタ君みたいにスキルもなしに数回の応酬で確殺できるわけでもないしね。役割分担よ役割分担」

「それでもありがとな。相性の良い敵の時は期待してるよ」

「にしし。任せなさいっ」


 アキを中心にイチャイチャしていると、アイラが割って入ってきた。


「ご主人様、続きは帰ってからにしましょう。まずはこちらをお納めください」


 そう言って彼女は2つの宝箱を取り出した。それは、赤と白の2色が混ざり合った不思議な宝箱で、向こうで見たのと同質な存在であることがわかった。

 しかし……。


「流石に、2個も要らないよな?」

「そうですね。紋章の欠片が余ったところで、どうすることもできません。最悪、魔石に変換するくらいしか使い道がありませんね」

「だよなー」


 6島目と7島目は、あのワープゲートが永久に続くのなら、今後誰にでも訪れるチャンスはある。となると、この宝箱も100体さえ連続討伐さえできれば、誰にだってゲットできるチャンスがあるわけだ。

 となれば、五層への片道切符を俺以外の誰にでも手にできる可能性があるとも言える。そう考えると、他の階層に比べればだいぶ緩い条件になったよな。なら、今後のために余った方は協会に渡しちゃうのも手か……?

 まあその辺はおいおい考えるとして、まずはこいつを開けちまおう。


「よっと」


 パカっと両方開ければ、そこにあったのはやはり銀のネックレスで、先っぽには赤と白、2色の宝石があしらわれていた。


 名称:未完の紋章【Ⅳ】

 品格:≪伝説≫レジェンダリー

 種類:アーティファクト

 説明:未完成の紋章。組み合わせると効果を発揮する。


 性能は一緒と。んじゃ、これを前回のと重ねれば……。


 名称:四霊の紋章【Ⅳ】

 品格:≪伝説≫レジェンダリー

 種類:アーティファクト

 説明:隠された二属性の特殊精霊を撃滅した者に贈られる特別報酬。696ダンジョンで使用する事で、使用者を含めた周囲10メートル以内の人間全てを696ダンジョンの第五階層へ移動させる。何度でも使用可能。トリガーアイテムとしても使用可能。


【特殊条件を満たしました】

【スタンピード進行が一時的にロックされます】


 お、良かった。条件を満たしてくれたか。

 これで、はっきりしたな。大精霊ルートは完全に寄り道ルートだと。

 あいつらとは、こっちが万全になるまでは決して挑むまい。俺は心の中で、改めてそう誓った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る