ガチャ578回目:龍と太陽

『グオオオオッ!!』

「くっ!」


 複数の龍が顎を開け、こちらを食いちぎろうと襲いかかってくる。時折飛んでくる灼熱の太陽を龍とぶつけさせ、互いに相殺させることで数を減らしていくが、回避のたびに空中を駆け回っていれば、飽和した魔法攻撃の嵐にいずれ逃げ場は無くなっていく。


『グオオッ!!』

『グオオオッ!!』

「ちぃっ!」


 そしてそれはついに訪れた。

 真下や前後左右から、複数の龍と太陽が迫り、俺を飲み込もうとしていた。圧倒的物量と火力の前に、さしもの万能シールドの『金剛外装』と『超防壁』も役に立たない。

 龍に食われれば奴の体内で動きを封じられ、凝縮された風の力で八つ裂きにされ、太陽に飲まれれば奴らの魔力が尽きるまで焼き尽くされるだろう。

 だが、連中の攻撃が一点に集中した今、全相殺を狙うにはまたとない好機だ。


「『鏡花水月』!」


 奴らの攻撃が直撃した次の瞬間、俺は地上に出来上がっていた水溜まりの中にいた。

 そして遙か上空では閃光が走り、大爆発を起こしていた。空気が揺れるなか、さっきまであそこにいたのかなどと感慨深く思っていると、俺の耳が小さな音を拾った。それは乾いた銃声と、重い何かが激突するような音だった。


「……あー。あー……。うん、問題なし。ったく、風の塊が龍の形を取っただけでなんで吠えるんだよ……」


 練習では何度か成功していたが、本番では初めての挑戦だったのでちょっと不安だったんだが……うまく発動してくれて良かった。この前覚えた『スペシャルスキル』『鏡花水月』は、攻撃を受ける直前、もしくは攻撃を受けた瞬間に使用することで効果を発揮する。

 効果は単純明快で、視界に映る一定量の水溜りと位置交換をすることで、瞬間移動を可能にするとんでもスキルだ。ただし、そこに水溜まりがあっても俺の体積分の水分が存在しないと発動はしないし、再使用するには10分のリキャストを要する。もしもの時の緊急回避手段としてはとっておきの最上スキルだ。回避と同時に安全地帯へ離脱もできるとか、流石は金色の『LRレジェンドレア』から出たスキルだな。

 ただまあ、水がないと使えない関係上、元々フィールドに水が存在しなければこっちで用意するしかないというのが問題だった。夏島みたいな暑すぎる場所だとすぐに蒸発するだろうし、寒すぎると凍ってしまう。あと、使用する際は結構意識が持ってかれるので、突然の被弾には処理が追いつかない。なので前回の大精霊戦では使用できなかったりした。


「ショウタさんっ、お怪我はありませんか??」

「旦那様、焦げてたりしていませんの?」

「おう、平気だ」


 オフの日に多少実験していたこともあり、彼女達もスキルの詳細は把握しているが、それでもあんな暴力の塊に晒されては心配になるのも仕方ない。

 俺も使用直後は、興奮でちゃんと無事だったか分からなかったし。


「ご主人様、精霊石を用いた大連戦、お疲れ様でした」

「高位魔法が飛び交う場面、めちゃくちゃヤバかったわよ! あとで皆で観ましょ!」

「ん。すごかった!」


 スキルや魔法を使った釣りだしも確かに有効ではあったのだが、この島に生息する精霊は分布の関係かあまり集まりが良く無かった。

 一度のスキル使用じゃよくて6、7体。少ないと2、3体とかもあった。なので埒が空かないと思った俺は2つの精霊石を同時に取り出してみたのだ。相手は炎と風のハイブリッド種だから、2つ同時ならどうなるだろうという好奇心もあったが、だろうという予感がしたのだ。

 実際、連中は見事に釣られてくれた。だが、相乗効果が良すぎたのか、連中は300メートル先でも平気で感知して、さらにはそこから動かずに超長距離自動砲台に移行する機能もしっかり備わっていた。

 その結果どうなったかといえば、推して知るべしだ。蛇腹剣で攻撃を届かせるにはあまりにも距離がありすぎるし、弓で応戦しようにも戦場では『炎魔法LvMAX』で使えるプロミネンスフレアや、『風魔法Lv9』のドラゴンファングが無数に飛び交い、他にもLv8以上の各種広域殲滅魔法が容赦なく降り注いで来た。

 なので、俺は攻撃を諦め回避に専念し、連中の処理は仲間達に丸投げしたのだ。

 いやー、きつかった。


「アヤネもミスティも、連中の処理ありがとな。エンキやセレンもお疲れ様。間引いてくれたおかげで、こっちもなんとか被弾なく戦えたし、セレンの魔法痕が周辺にいくつもあったから、移動する分の水を確保できたよ」

『ゴゴ』

『~~♪』

「お任せくださいですわっ」

「ん。ちょっと硬かったけど、狙われない以上好き放題できた」


 皆を個別に抱きしめたあと、改めてマップを見る。俺たちを中心にぽっかりとモンスターのいないエリアが形成され、その外周部を青い点が高速で移動していた。

 アイラがまだ頑張ってくれてるみたいだな。今回は魔法を使った回収ができないのと、相手の属性の関係でエンリルとアグニはお休みだ。


『ポポー』

『キュイ』


 することがなくて暇そうにしている2人を順番に撫でていると、アイラが音もなく戻ってきた。


「ただいま戻りました」

「おかえりアイラ。それとお疲れ様」

「はい」


 カーテシーをした彼女は、そのまま魔法の鞄をゴソゴソとし始めた。


「恐らく、こちらが100体討伐報酬かと思われます」


 アイラが取り出したのは、緑と青、2色が混じり合う不思議な宝箱だった。


「『真鑑定』『真理の眼』」


 名称:二季の宝箱

 品格:なし

 種類:宝箱

 説明:春と夏、2つの島を制覇した者だけが得られる特別な宝箱。


「ふぅん……? てか、レアはなくていきなり宝箱か。となるとやっぱり、ここのレアは大精霊だけっぽいな」

「その可能性が高いかと」

「ちなみに今回の連戦、だいぶ長時間精霊石出しっぱなしにしてたけど、何体いたんだ?」

「はい。魔石のドロップ数から換算して、討伐したハイブリッド種は、道中含めて113体です。数は思ったより多くはありませんが、その分激戦でしたからね。ご主人様もお疲れでしょう」

「あれだけ苦労したのにそれだけしかいなかったのか。レベルも……うん、161で止まってら」


 レベル140のモンスターを100体討伐してもこの程度か。まあ『大魔石』じゃ仕方ないのかもしれんが、レアがいない分、この階層ではこれ以上のガチャは厳しそうだな……。


「それじゃ、一旦帰ろうか。んで、今日の探索はおしまい! 皆お疲れ様!」

「「「「「お疲れ様!」」」」」

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