ガチャ568回目:大精霊の正体

「ショウタさん!」

「旦那様ー!」


 アイテムを回収して寝転がっていると、マキとアヤネが全力ダッシュで飛び込んで来た。


「うぐぇっ」


 良いところに入った。でも2人は気付いていないようで、いつも以上に強く抱きついたまま離れない。


「ほら、俺は大丈夫だって。疲れてるけどピンピンしてるから」

「「……っ」」


 駄目だこりゃ、全然聞いてくれない。

 仕方ないのでそのまま2人を宥めていると、他のメンバーもやって来た。その顔には、心配と安堵の表情が張り付いている。


「ショウタ君、本当に平気?」

「ん。心配した」

「ああ、大丈夫。めちゃ疲れただけ」

「ひとまず、ここを離れましょう。レアを倒したことでしばらくは湧かないはずですが、イレギュラーはどこにでもありますので」

「……大丈夫な気はするが、そうだな。一度戻るか」

「エンキ、ご主人様を」

『ゴゴ!』


 そうしてまともに動けない俺は、第四層入り口の噴水広場へと運ばれるのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 アイラによってテキパキと家が設置されていき、防具類を脱がされた俺はベッドへと寝かされた。そうする事でようやくマキとアヤネも落ち着きを取り戻してくれたようで、目は赤いが離れてくれた。


「ふぅー……」


 まだ、疲れは取れない。

 これだけ疲労が長引くとなると、グングニルをまともに扱えるようになるには、一体どれだけのステータスが要求されるんだ? もしくは、根幹スキルの何かが足りていないのか?

 てか、まだ帰って来る様子もないし。ロストしたか……? 考えることは色々とあるが、疲労がマジでヤバい。ここなら安全だし、一眠りするか。

 そうと決めた後は、意識を手放すのは早かった。俺の意識は、微睡の中へと落ちていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふぁー……」


 目を覚ました俺は、大きく欠伸をして伸びをする。さきほどまでの疲労感はどこへやら。

 身体はすっかり元気を取り戻していた。……いや、まだ微妙に気怠いかもしれない。ちょっと自分の身体の状態に自信がないな。


「ん、おはよう」

「おはようショウタ君」


 ミスティとアキが、俺を挟み込むように添い寝してくれていた。


「俺、どんくらい寝てた?」

「んー。3時間くらいかな」

「ぐっすりだった。でもさっきよりは元気そう。安心した」


 起き上がると、ベッドのそばにはしょんぼり顔のマキとアヤネがいた。目が合うと、安堵と同時に申し訳なさそうな顔をしていたので、まとめて抱きしめる。


「そんな顔するなって。ヘイト取ってない状態で治療したことを反省してるんだろうけど、咄嗟にそれが必要だと判断するくらい酷い状態だったんだろ?」

「ショウタさんっ……」

「そうですわ。わたくし達は、反省はしますが、同じことがあればまた同じ行動を取りますわ!」


 現場を乱してでも俺の治療を最優先にするというのは本来なら叱るべきところではあるんだがな……。他の皆も咎める様子がないってことは、そういうことなんだろう。一応聞いておくか。

 

「なあ。俺、どれだけ酷いダメージを受けていたんだ?」

「私が説明致しましょう」

「よろしくアイラ」

「まず、不可視の攻撃によりご主人様の片耳が消し飛びました。その周辺の肉もかなり削がれていたようで、遠目でしたが骨も見えていたかと。幸い、アドレナリンと『痛覚耐性』によって戦闘の継続はできそうでしたが、治療を施さなければいつ倒れるかも不明でした。結局ご主人様が倒れてしまえば、遅かれ早かれ前線は崩壊しますので、お嬢様達の行動は咎めるほどのものではないと判断します」

「……そうか」


 激しい痛みはあったし、視界の半分は血まみれだったけど、俺としては経験したことのない痛みだったからどの程度の怪我かわからなかった。けどまさか、そんなレベルの大怪我だったとは。

 思わず耳をつまんでみるが、今は無事に存在している。治療が的確だったおかげだな。

 今までまともに血を流してないから、そんな状態になったら慌てるのも仕方ないし、その状態が続くことで俺のパフォーマンスがどれだけ落ちるかも予想がつかない。うん、仕方ない仕方ない。


「あ、そういえば。俺がケガしたってことは、身に着けてた防具は……」

「はい。こちらになります」


 アイラから手渡されたのは、『ハートダンジョン』のボス、『天の騎士・クピド』からドロップさせた天翼シリーズの兜だった。確かに横半分がごっそりと無くなっていて、頭頂部の方にまでヒビが広がっている。

 こんなことになってたなんて、まるで気付かなかったな……。


「どうしよ、これ」

「性能としてはこれ以上の物は存在しませんし、素材は異なりますが一旦は魔鉄で補強して、見た目はそれっぽく整えるしかないかと。代わりの物はこちらでも探しておきますが、セット効果もありますし、なんとか修理しておきたいですね」

「……だな」


 冒険者なんてやってると、武具の補修はよくある話らしいし、なんなら彼らの休む理由のほとんどは身体の休養と武具のメンテナンスがあるんだとか。今まで俺はろくにダメージを負ってこなかったから、そういうのとは無縁だったんだよなぁ。

 ……魔鉄で誤魔化すくらいならすぐにできるし、後で直しとくか。


「さて、気を取り直して今日の活動だけど……。お腹すいたからご飯食べながら考えよっか」

「はいっ」

「まったく、仕方ないわねー」

「安心したら、ぺこぺこになりましたわ」

「ん。ご飯」

「お食事の用意はできております」


 そうしていつも以上にのんびりイチャイチャしながら食事を摂り、一息入れた俺達はこの後どうするかを決めることにした。


「まず、今回出てきたエスそっくりのレアモンスターだけど、皆はほとんど見れなかったと思うから改めて伝えるね」


 先ほどの怪物のステータスとスキルについて説明し、アイラにはそれをホワイトボードに記載してもらう。


「これを見て皆思うところがあるだろうけど、まずは俺の疑問から解消しておきたい。ミスティ、何か言うことある?」

「ん。ステータスは違うけど、スキル構成の一部はエスと一緒」


 やはりか。


「一緒なのは、『風』の存在と『エクススキル』か?」

「ん、そう。『極閃』『デッドエンド』『ゼファー』『ワールドカッター』『ブレイクアロー』。どれも、エスが『風』を使って開発したオリジナルの攻撃手段。その中でも特段、殺傷力の高いものがチョイスされてる」

「なるほどな……。つまりあの大精霊は、『風』の所有者のパフォーマンスを一部再現した存在というわけか」


 となると、他の3島でも同様の存在がいて、現在のスキル保有者のコピー体と戦わされることになるかもしれないわけだ。

 エスが身近で戦っているのを見たことがあるおかげで、『風』については事前情報がいくつかあった。にもかかわらず、あれほど苦戦したんだ。なら、他の3属性は一体どれだけ大変なんだ……。


「ちなみに、あの指差してギュンって感じの技って、さっきの技リストのどれにあたる?」

「ん。『ブレイクアロー』。この技リストの中で


 あれで一番弱いのか……。


「じゃあ本気になる前になんとか倒せたってところか……。『ワールドカッター』は確か、クピド戦で翼を両断してた技だよな」

「ん。ちなみに技の並び順は強い順になってるみたい」

「なるほど……」


 『ワールドカッター』ですら使われたらやばかっただろうに、それですら下から2番目だと……?

 奴が本気を出さなかったのは遊んでいたからというより、新しい身体にからって感じだった。何せ、エスという別の生物の身体を借りた形になってたんだ。身体を慣らすには、まず何事もからするものだしな。

 調整が済む前にグングニルで吹き飛ばせたから何とかなっただけで、いつもの様に様子見しながら戦っていたら確実に負けていただろう。

 一番弱い技ですらあんなだったんだ。こりゃ、今からすぐにでも再戦できたとして、十中八九負けそうだな……。


「そういえばアイラ、俺の回収したドロップは確認した?」

「はい。念の為ご主人様をエンキに運ばせている際、見落としがないか私の方でも確認をしましたが、そこにあるのが全てでした」

「その言い分だと、やっぱり『風』は無かったか」

「はい、残念ながら」


 まあ、ここでドロップしたら『幻想ファンタズマ』のというルールが歪むもんな。

 少し残念ではあるが、出るわけないか。

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