ガチャ566回目:精霊達の憩い場

 俺達は謎の力でぷかぷかと浮いている精霊達の間をくぐり抜け、例の池が目視できる地点までやってきていた。池の中央からは水が湧き出ているらしく、流れはあるものの、川になってどこかに流れていくわけでもなく、溢れ出している様子もない。

 余剰分の水がどこに消えているのかは謎だが、そんな細かい謎を除けばいたって普通の池だな。うん。


「はわわ、いっぱいいますわ……」

「誘蛾灯に集まる虫みたいにいっぱいねー」

「ん。襲われたらちょっと面倒」

「ですけど、やっぱり魔法やスキルを使わなければ、安全なのは変わりないんですね」

「ん。あとは直接ぶつかるのもよくない。エンキ達を後方で待機させたのはナイス判断」


 だろうと思った。いくら非アクティブでも、機械的な存在でも、生物として見るならぶつかっても無反応とは思えない。例えば温厚な人間でも、誰かに激突されたらそれなりの反感だったり興味を持たれるだろうしな。

 それに、エンキが身体を小さくしたりするのも『砂鉄操作』のスキルを使うことになる。なので、エンキには大きいままで待機してもらうことにしたのだ。


「ミスティ、こいつらの感知について、再確認したいことがある」

「ん。ネタバレ有り? なんでも聞いて」

「コイツらは魔力の消費に反応して敵対するんだよな? なら、魔力の消費しない『鑑定』とかのスキルはどうだ?」

「ん。気付かれない」

「お、やっぱりか! じゃあ一部のアーツやユニーク、あとはスペシャルなんかも、対象外のスキルがいくつかあるな」

「ん。さすがショウタ」

「まあでも、一応念のためということもあるし……。皆、ここまでついて来てもらって悪いけど、エンキ達のところにまで下がっていてくれるか?」

「はいっ、気をつけて下さいね」

「絡まれたら援護はいる?」

「ああ。その時は精霊石を出して、周囲の奴らを釘付けにする。そしたら合図を出すから、手伝ってくれ」

「りょーかい!」

「頑張りますわ!」

「ご主人様、御武運を」

「ん。ショウタ、ファイト」


 下がっていく彼女達を見送り、俺は再び池の方へと振り向く。

 まずは最初の実験だ。大丈夫だとは思うが、ここで襲われたらたまったもんじゃないな。


「『真鑑定』『真理の眼』」


 名称:精霊達の憩い場

 品格:なし

 種別:ダンジョンオブジェクト

 説明:無限に水が沸き続ける水場。

 ★中央の湧水からは、精霊が好む独特の魔力が放たれている。


「うんまあ、予想通りの内容ではあるが……」


 この池の情報は、

 いや、絶対それだけじゃないだろう。最近、『真鑑定』のレベルの問題か、『真理の眼』の問題か、原因は特定できていないががちょこちょことあるんだよな。『真鑑定』はスキルレベルがMAXじゃないし、『真理の眼』も入手時から変わらず無印のままだ。このままじゃ、スキルも力不足なのかもなぁ。

 っと。思考が逸れたな。次の確認を進めよう。


「……ふぅー」


 俺は一度深呼吸を挟み、片目に魔力を集中させる。この時点で反応がないなら、問題はないはず……!


「……『解析の魔眼』!」


 映り込む視界に、数字の世界が加わった。

 精霊達はそれぞれのコアに3万の数字が見えるし、彼らの周囲には『風の鎧Ⅱ』と思われる防御壁が数字となって無造作に飛び交っている。

 そして池の方を見てみれば、その中央からは無数の数字が湧き出ていた。一桁のものもあれば五桁以上の数字もあり、『思考加速』がなければ処理が追いつかないレベルだった。数字の詳細を見ないようにできればマシになるんだろうけど、『解析の魔眼』を通すと無理矢理にでもんだよな……。

 これが本当に全部魔力なのだとしたら、この池の生産魔力はとんでもないことになるぞ。


「ぐっ……!」


 いくら『魔眼適性』を覚えたからといって、こんな大量の数字の嵐が視界に飛び込んでくると、脳への負担は計り知れない。頭痛が鳴り止まないし、早く切り上げなきゃ。

 だが、どうしても調べたいことがあった俺は、引き続き無限に湧き続ける魔力の源泉へと目を向けた。


「ふぅー……」


 そこには、明らかに桁外れの数字を算出し続ける異質な何かがあった。


「これは……。このままもう一度だ。『真鑑定』『真理の眼』」


 名称:風の真核

 品格:なし

 種別:ダンジョンオブジェクト

 説明:風の精霊の発生源たる真なる核。

 ★中に眠る存在が、強力な風の力を欲している。


「……これか! ……はぁ」


 俺はすぐさま魔眼を解除し一息入れる。これで謎は解けた。100体討伐でもなければ、時間経過でもレアが出ない以上、残るレアの出現方法なんて限られている。

 つまりここの階層のレアモンスターは、以前カスミが教えてくれたように、アイテムを捧げることで出現するトリガー式のレアモンスターだということだ。

 そう考えれば100体討伐の報酬に精霊石が出たことも納得できるというものだ。あとはあそこに精霊石を投げ込めば、何かが目覚めるはず。


「んじゃ、次にすべきはっと……『水渡り』」


 アーツのスキルは、言わば技術がスキルに昇華されたものだ。だから、発動するだけなら魔力を消費しないものが結構ある。まあ、魔力を使うことが前提の技術も存在するので、全部が全部というわけじゃないんだが。

 俺は初めてのスキルということもあり、そっと慎重に池へと足を伸ばす。

 水面に足を下ろすと、柔らかくも硬いグニっとした不思議な感触を覚えた。例えるならなんだろうか。……餅かな? 

 そうして水の上を歩きながら、精霊達を避け、池の中心にまでたどり着く。


「どれどれ……」


 湧水の発生源を覗き込むと、そこには緑色の宝石が隠れるように埋まっていた。これが真核か。

 しっかし、今までこれが見つからなかったのは、考えてみれば妙な話だよな。意識の外にあって誰も気付けなかったのか? それとも、視えない類のものか。

 可能性としては後者だろうか。まあ、なんでも良いか。


「よし、行くぞ……!」


 俺は鞄に手を突っ込み、精霊石を取り出す。すると周囲の精霊達が殺気立つが、俺は構わず真核へと押し付けた。

 その結果、精霊石は真核へと吸い込まれ、真核から今まで経験して来たことのない圧力を感じた。


『ドッ!!』


「うおぁ!?」


 突如として真核から大量の水が噴出し、真上にいた俺は間欠泉に打ち上げられたかのように宙を舞った。身体と一緒に視界がぐるぐると回ったが、なんとか姿勢を制御して空中で立て直し、足場を形成して池周辺を観察する。


「うわ、地獄絵図」


 地上では、精霊石では足りないとばかりに周囲の精霊が次々と真核へと吸い込まれていた。緑色の触手を伸ばして捕食する様子は、まるでいつぞやのボススライムのようだな。そして数分もしないうちに池周辺の赤点は完全に消失していた。

 全てを平らげ、消化したそいつは真核を中心に身体を形成し始めた。そして出来上がっていく身体は、風のエネルギー体という点では今までと同様でその全身は半透明であったが、コアが剥き出しになっていた今までの無機質なフォルムではなく、人型の形態を取っていた。

 そして、まるで人間のような姿となったソイツは、じっと俺を見つめていた。


『……■◆■』


 複数の言語が圧縮されたかのような音の塊が耳に届く。奴からは今までにない存在圧を感じるし、謎言語を発している時点で、俺は底知れぬ恐怖を感じていた。


「これは、ヤバイのを目覚めさせちまったか……?」

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