ガチャ555回目:未来の報酬

 俺は義母さん達に、『696ダンジョン』の第一層から第三層を完全攻略した事。食料系のフィーバータイムを巻き起こした事。そして特産品を優先的に日本に回してもらうよう、交渉中であること。最後に、『テイム』の発見と『幻想ファンタズマ』武器の獲得を説明した。


『アマチ君ったら、嬉しいことしてくれるじゃない』

『ええ、本当に。アマチさんには、帰ってきたらたっぷりご褒美をあげなくては』


 サクヤお義母さんが妖艶に微笑みウィンクを投げてくる。とっても魅力的なお誘いだけど、100レベル以下の状態で出会ったら絶対脳が溶ける自信がある。っていうか、通話越しなのに既に今のでクラッと来たぞ。

 今の俺はガチャを回して88に落ちていて、アヤネのモグラ捕獲に付き合ったことで90には上がったが、それでも100未満だ。直接ですらないのにこんな状態じゃ、現実で会ったらどうなることやら。

 こりゃ、帰還する際は、本気でレベルの調整は怠らないようにしなきゃだな……。


「あー、はは。期待してますね」


 とりあえず、フラつきそうな頭を何とか覚醒させて、曖昧に答えた。


『でも、そちらの支部長さんは暗い顔ね? もしかして、優先的に日本に流す事が難しいのかしら』

『あら、本当ですね。今までたくさんアマチさんに感謝しておいて、それくらいの事も許可できないのでしょうか』


 ここ数日間の支部長のリアクションについては知らないはずなのに、まるで見て来たかのように話すんだな……。流石サクヤお義母さん。情報通というかなんというか。


「いえ、私はそのようなつもりはありません。ですが、ダンジョンで得られる資源はその国の物。そう考える者も多いのも事実です。そちらの国でもそうでしょう?」

『ええ、そうね。そこは認めるけれど、その資源の産出量も、質そのものも向上させた張本人に対して、なにも返せませんじゃ済まないわよ』

『そうねぇ。……どうしてくれようかしら』

「わ、私は彼の働きに見合う対価として、その希望には当然応えるつもりです。ですが、彼の活躍を直接知らない者や、数字しか見ない連中からすれば、降って湧いた幸運としか考えないでしょう。ですので、説得のためにもお時間を頂ければと……!」


 俺としてはすぐにでも日本に資源が回ってくるものかと思ってたけど、そういう訳にもいかないらしい。色々としがらみがあるみたいで、はいそうですかとはいかないようだ。

 けど、その答えに義母さん達は納得できないようで、さっきからずーっと支部長を詰めているのだ。これが中間管理職ってやつか……。


『時間、ねえ? いつまでかかるのかしら』

『ふふ。では、アマチさんがダンジョン攻略を終えるまでに決めて頂けるのでしたら、こちらとしては構いませんよ?』

「そ、それは……!」


 支部長達が俺に視線を移す……。内2人は期待を込めた目で。そしてもう1人はすがるような目で。いや、そんな目で見られても困るんですけど。


「まあ、明日から最大で数日は休みを入れる予定ですけど。それでもまあ……1週間以内にはなんとか?」

「たった1週間……!?」

『あら、相変わらずねアマチ君』

『ふふ、凄いわアマチさん。期待しているわね』

「いや、しかし今までのペースで考えれば……」


 三者三様の反応を見せてくれる。しっかし、この場には支部長が3人。いや、アキも含めたら4人もいるし、支部長呼びはややこしいな。この人の名前は最初に挨拶した時に言ってたような気がする……。確か、ベンさんだっけ。

 俺の義兄弟となるエスの彼女のおじさんという立ち位置で、ぶっちゃけほぼ他人だけど……。うんまあ、これからはベンおじさんで良いか。


「くっ、どうしたものか……」


 そのベンおじさんは、ギャングのボスみたいな風格をしているのに、2人の義母さんに反論できない様子だった。まあ、深く考えるまでもなく、今の状況は負い目しかないもんなぁ。

 ここのダンジョンは、アメリカ大陸の中心に近い位置にある。そんなダンジョンの今後起こりうる氾濫をほとんど鎮静化させ、更には特産品を爆発的に増加させた俺に恩義を感じてくれているんだろう。国の政治的にも、このダンジョンが今後永久に沈静化してしまえば、リソースを他に割けるし、得られる物は多いはずだ。

 俺の頼みを立場的にも人情的にも無下にはできないだろうし、これくらいの事なら快く支払ってくれそうではある。

 が、それとは別にゴチャゴチャ横槍を入れてくる連中ってのはどこの世界にもいる訳で、ベンおじさんはそこを警戒してるのかもな。例えば、俺の希望するように報酬が支払われたとしても、義母さん達が望むほどの量が回されないとか、そういうの。

 そんなことをして、バレれば今後の関係に亀裂が入りそうだけど、そういう連中って後先の計算がどっかズレてたりする事が多いみたいだしなぁ。

 ガバガバな考えで、そのくらい仕出かしても大丈夫とか考えてる様子が目に浮かぶ。

 そいつらも『征服王』の派閥の人間とかだったらやりやすいんだけどなぁ。


「ん。もしショウタに正当な報酬が支払われなかったりしたら、私とエスは、日本に亡命する」

「!?」

「お、そうなのか?」

「ん。ショウタを蔑ろにするようなところに未練はない。エスもきっとそう言う」

「なら、私も一緒に行くわ。エスがいない国に未練はないもの!」

「!!?」

『私は構わないわよ。おじい様に良い土産話ができるわ』

『ふふ、そうですね。我が国の官僚たちも諸手を上げて喜ぶことでしょう』

「くっ……!」


 ベンおじさんが今までにないくらい顔を青ざめさせた。

 まあ、シルヴィの事は滅茶苦茶可愛がってるし、コレは効くだろうなぁ……。それに、後先の計算がまるでできない馬鹿でも、Sランク冒険者2人の永久離脱は、そう簡単に埋められる物ではないし、国力の低下にもつながる。

 馬鹿な真似を仕出かすのを思いとどまらせるには、その脅しは十分効果的だ。

 まあ、ミスティはこの場の駆け引きのためじゃなくて、本気で言ってくれてることくらい、ちゃんと分かってるが。


『それで支部長さん、どうされるのかしら?』

「馬鹿な事を言う連中は、1週間以内に全員黙らせる。だからどうか、移籍だけはやめてほしい」

『期待しているわ』

「ん。腕の見せ所」


 義母さん達を交えた今後の件については、そうやって決着がついたのだった。


「なるほど。これならば、他の事も色々と呑ませやすくなりそうですね」


 アイラが不敵な笑みを浮かべていた。

 あんまり搾り取りすぎるなよー……?

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