ガチャ553回目:アヤネのお願い

「それじゃ、兄さん達。僕は行くね」

「おう。また今度な!」


 そう言ってエスは片手を上げ、緑色の大地に向かって飛んで行った。そうやって彼を見送った俺達は、あらためて周囲の浮き島を観察した。

 まず、四方に浮かぶ大地はそれぞれ特徴的な地面の色をしていて、まず俺達が現れた瞬間の向きを起点とした場合、正面には白い大地の浮き島があり、続いて右手には先程エスが飛んで行った緑の大地。左手には赤い大地があり、後ろには青い大地が広がっていた。

 今まではずっと『3』の数値に関連するギミックやらなんやらが出現していたが、ここに来て『4』でくるとはな。まあ、ここの発見済みワープゲートが2。未発見も2と聞いていたから、予想はついていたけども。

 にしてもこの配色に加えて、この島の位置関係からして、まるで……。


「ミスティ。もしかしなくてもこの階層は、四季島か?」

「ん。流石ショウタ」

「じゃあエスが向かったのは春島か。……いや待てよ?」


 ここまで来たら属性も関わって来そうだよな。まず『元素魔法』として括られている属性には4つの顔がある。それを無理やり季節に合わせるとしたら……。


「春島は風、夏島は炎、秋島は土、冬島は水属性か?」

「ん。大正解! 初見でそこまで当てられるなんて、本当にショウタはすごい」

「そうか? こんなにわかりやすいと、逆に疑っちまうぞ。にしてもそうか、ここは4属性の四季島か……」


 となるとやっぱり、モンスターもそれぞれの属性で攻めてくるんだろうな。なんだそりゃ、滅茶苦茶楽しそうじゃないか。

 気にはなるし、楽しみすぎて消費していた体力が、活力によって漲り始めている。でもそれは俺だけの話だし、彼女達は皆お疲れだ。俺自身、活力で誤魔化さないと体力は限界ギリギリだし、今日は帰ろうかな。

 ……にしても。


「ミスティ。この階層、冒険者チームが少ないな?」


 おそらく今いるこの初期島がキャンプ地点も兼ねてるんだろうけど、テントの数や、野営の痕跡らしきものを全て合わせても、片手で数えられる程度しかない。

 第三層まではそれなりの数がいたのに、グッと減ったな。


「ん。純粋にここまで辿り着けるチームが少ないのと、ここで狩りができるチームは本当に一握りだし、物理偏向のチームだと相性が悪い」

「狩りしやすい編成が限定されてるから、少なくなるのも仕方がないってことか」

「ん」


 物理が効きにくい相手。しかも、この感じで考えれば4属性の島全てがそういうことなんだろうな。

 ああー、めっちゃ気になる……!


「興味は尽きないが、流石に引き上げよう」


 そう宣言した時、いつもは元気よく手を挙げるアヤネが、おずおずと手を挙げた。


「あの、旦那様。お願いがあるのですわ……!」

「ん。どうした?」


 アヤネからお願いだなんて珍しい。


「先ほどの『テイム』のスキル、使わせて欲しいのですわ」

「なんだ、そんな事か。良いぞー、スキルの元はいっぱいあるんだしな」


 数え切れないくらいには。


「アヤネがわざわざ『テイム』のスキルを使ってみたい相手って、どんなやつなんだ?」

「それが、第三層のモグラさんなのですわ……」

「あー、あいつか。……あれ、てことは」

「はい。ですのでお願いというのは、もう1つありまして……。旦那様のマップに備わったワープ機能で、先程のゴール地点まで飛んでいただけませんこと?」

「なるほど」


 申し訳なさそうにしていたのはソコか。まあ滅多に使わないとはいえ、36時間制限のある機能を使わせて欲しいっていうのは、アヤネからしたら申し訳なく思うわけか。

 まあでも、別に回数制限があるわけでもなし、今日から最低1日。下手したら数日休暇を満喫するんだ。これくらいどうってことない。


「良いぞ」

「ありがとうございますわ!」

「にしても、アヤネが欲しがるなんて本当に珍しいな。そんなに気に入ったのか?」

「はいですわ。お目目がクリっとしてて、とってもキュートでしたわ」

「そっかー」


 さっきまで散々ボコボコにして来たのに、その辺の忌避感はまるで無さそうだな。

 そしてモグラをペットにするのは彼女達も賛成らしく、きゃあきゃあと賑やかだ。まあ皆が喜ぶのならなんでも良いか。


「そんじゃ、第三層にワープするか」


 帰りはそのまま第四層へのワープゲートを使うなり、時間をオーバーするなら『三種の紋章』のいずれかを使って、どこかの階層の入り口に移動してから脱出すれば良い。

 そうして俺を中心に5メートル以内に密着し合ってマップ機能を使って移動をした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「……『テイム』!」


 アヤネがモグラに手を伸ばしてスキルを唱えた。何度か試してみて分かったことだが、『テイム』の発動条件は非常に簡単で、相手を弱らせる必要もなければ直接触れる必要もない。ただ近付いて、相手が自分を見ている状態で『テイム』と唱えるだけだ。

 ただ、成功率自体そこまで高いものでもないようで、アヤネは現在失敗10連続目だ。ステータスによって成功率に差が出るとは記載があったが、総ステータスで考えればアヤネの方が上のはずなんだがなぁ。基礎成功率が低めなのかな?

 失敗したモンスターはテイムが効きにくくなるという情報に従い、そいつらはアヤネが責任を持って間引き続けていた。

 そうしてテイムを繰り返す事数十分、ついに成功したのか、モンスターとアヤネが同時に輝き、光が消えた時にはモグラからの敵意がはっきりと消え失せていた。


「せ、成功ですの?」

『キュキュッ!』


 モグラは前足を挙げて、まるで人間の子供のようにはしゃぎながらアヤネへと飛びついた。


『キュキュ!』

「か、可愛いですわ……!」

『キュキュ?』

「ねね、あたしも触って良いかな?」

「アヤネちゃん、私も抱っこしてあげたいですっ」

『キュキュー!』


 モグラはたちまち人気者になったようだ。

 ちょっとジェラシー感じちゃうけど、ペットになったモンスターか。どんな風になるんだろ。


*****

名前:スモールスピアモール(テイム済)

レベル:95

腕力:1200

器用:900

頑丈:650

俊敏:800

魔力:800

知力:400

運:なし


アーツスキル】穴掘りLv2

マジックスキル】土魔法Lv4、砂塵操作Lv2、土の鎧


装備:なし

魔石:中

*****


 おー。名前が既に物語ってるが、ドロップも表記自体無くなるんだな。まあ有っても必要ない項目だし、無用なトラブルを起こさないためにも無いほうがいいに決まってる。

 しっかし、モンスターのペット化かぁ。……エサって何食うんだろ。ミミズか?

 あと今更だけど、二足歩行で歩くモグラって、カワウソとかマーモットとか、別物に見えてくるよな。

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