ガチャ551回目:神器

「……ふぅー」


 俺は『プリズムの宝箱』を前に深呼吸をしていた。今までは宝箱の開封に、さほどプレッシャーを感じたことはなかったけど、今回ばかりは流石にな。エスやミスティが『幻想ファンタズマ』を排出した実績のある箱と同じ物なのだ。ここから何を手にしたとしても、世界が変わるのは避けようがないだろう。


「……よし、行くか!」


 俺は覚悟を決め、宝箱に手を触れる。そして選択肢が現れた。


【神器】

【スキル】


「……うっわ」


 さっきも選択肢に悩まされたばかりだってのに、まさかまた悩まされることになるとは。いやまあ、こうなるだろうことは読めてたけども。


「そもそも『神器』ってなんだよ」

「ん。わかんない」

「ケルベロスのような10種武器とも違うね」

「ここに並ばされるスキルも、絶対ただのスキルじゃないわよね」

「はわわ、どっちも気になりますわー」

「ショウタさん、ファイトですっ」

「ご主人様がどちらを選んでも、私達は尊重します」


 相変わらずアイラは愛情を隠そうともしない。多分これは、今日ずっと続きそうだな。

 ……仕方ない。覚悟を決めるか。


「……スキルは気になるし、『幻想ファンタズマ』スキルの可能性も否めないが、『神器』という新ジャンルの方が気になって仕方ないからな。俺はこっちを選ぶ」


 皆が頷くのを見届け、俺は『神器』を選択した。そして『プリズムの宝箱』を開けると、相変わらず暗闇が広がっている。

 俺はそこにそっと腕を突っ込み、『神器』を探り寄せた。


「……あった」


 棒状の何かを掴み、引き上げると、そこには神秘的に輝く白銀の槍が現れた。


 名称:神槍・グングニル【神器】

 品格:≪幻想≫ファンタズマ

 種別:神器【槍】

 武器レベル:88

 説明:神話に登場する神器武装を具現化したもの。十全に使い熟すには持ち主にも相応の素養が求められる。絶大な力を授ける反面、非常に重い。機能の一部が封印されている。

 神器スキル【勝利の誓い】:戦闘中30000の魔力を消費することで発動。戦いの中で発生するランダム要素の全てが発動者の有利に働く。

 ★投げても必ず持ち主の元に戻ってくる。


「うっわぁ……。ぐっ!?」


 宝箱から『グングニル』の全てを取り出した瞬間、思わず槍を取りこぼしそうになった。

 な、なんだこの重さは。説明文を見て覚悟をしたが、想像以上だ。

 明らかに見た目以上の質量をしているぞ!?


「ショウタさん、大丈夫ですかっ?」

「それ、危ない武器じゃないわよね!?」

「あ、ああ。それは大丈夫」


 念の為彼女達から距離を置いてから、俺はゆっくりと槍を回転させ、刃を下にする。そして重力に任せて地面に突き立てた。


『ピシッ!』


 こいつの重さのせいか、それともこの槍の能力か。地面にまっすぐ落としただけだというのに、足元には蜘蛛の巣状の亀裂が走った。


「どんな威力してんだよ……」


 とにかく、俺は彼女達に入手した武器の詳細を全て語った。


「神話の武器!? すごいじゃない!」

「それならこの破壊力も納得ですね」

「ご主人様。実は私達の『鑑定』は弾かれてしまったので、こちらの武器は名前すら見えなかったのです」

「そうなのか」


 でも見た感じ、『真鑑定』なら大体は見えてるな。まあ神器スキルとやらと、投げても戻ってくる説明文は『真理の眼』がないと見えないけども。


「旦那様、旦那様。これは、そんなに重たいんですの?」

「ああ。下手するとアキやアイラですら持ち上げられないかもしれないってレベルだ」

「はわわ、凄いですわっ」


 試しに2人にやってもらったが、地面に突き刺さった『グングニル』はびくともしなかった。


「ひょえー。ヤバいわこれ」

「説明文に重いと書かれるだけはありますね」

「ん。ショウタ」

「ん?」


 ミスティは両手を挙げ、ハイタッチをして来た。


「『ファンタズマウェポン』、おめでと!」

「ああ、ありがとな」

「兄さん、これ、僕も試してみて良いかい?」

「おう。良いけど、腰を痛めるなよ」

「はは、気をつけるさ。こういう地面に突き立てられた聖遺物を抜き取るのって、憧れがあったんだよね」

「あー。まあ言いたいことはわかるぞ」


 地面に突き刺さった聖剣ではないけど、今の『グングニル』は似たような状態だよなぁ。

 突き立てたのは俺だけど。


「……ふんっ!」


 気合いを入れたエスは、見事に聖槍を抜き放った。そして苦労しつつも回転させたり構えたりしている。


「流石エス。まだ余裕がありそうだな」

「はは、僕の場合『風』で重さを軽減しながら振るってるんだけどね。それでもこの槍の重さは桁違いだ。ほとんど軽減できないよ」


 見てみれば、エスの腕がプルプル震えてる。やっぱりエスでもコレは重いかー。

 そんな事を考えながら『グングニル』を受け取り、慎重に『武器保管庫』へ収納する。これでもうこの重さからはおさらばだな。でも、取り出すときに毎回この重さを体験する事になると思うと、ちと面倒だな。

 もういっそのこと、コレをダンベル代わりに筋トレするか?


「強いことははっきりと分かるけど、使いこなすのが大変そうね」

「また練習が必要ですね」

「こんなに大変そうなのに、投げるなんて至難の業ですわ!」

「ブーストスキルを使えば余裕そうですが、普段使いをするなら修行は必須ですね」

「ん。明日から休暇? それとも修行?」

「いやいや、ちゃんと休むよ。この後開封作業が待ってるんだからな……」

「あ、そうだ兄さん。これで第三層は完全攻略だけど、1つ気になってることがあるんだ」

「どうした?」

「雑魚モンスターが落とした宝箱の中身は、何だったのかなって」

「ああー」


 今まで未発見だった新種のモンスターが落とす宝箱だもんな。そりゃ気にはなるか。エスはこれから第五層で討伐をするんだから、集中できるように協力してやらないとな。


「アイラ」

「はい。2個ですね」


 アイラが取り出したのは、モグラ達が落とした『銀の宝箱』だ。木、鉄と続いて下から3番目のレア度を持つ宝箱で、その1つ上は割とお馴染みの『金の宝箱』である。

 こんな良いレア度の宝箱がほいほい発掘できちゃうんだから、このダンジョンもやばいよなー。まあ、腐っても宝箱だから、素のドロップ率次第ではあるんだけども。


「んじゃ、開封っと」


【アイテム】

【スキル】


「ほーん、じゃあまずアイテムだな。……!?」


 ぱかりと開けると、俺は目を疑った。宝箱の中には、ぎっしりと土が詰まっていたのだ。


「つ、土!?」

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