ガチャ545回目:新技

 煙が膨れ上がって行く傍ら、エス達の猛攻で敵はどんどんアイテムに変わっていった。ああ、宝箱が山積みになっていく。


「あれを後で開けなきゃならんのか……」


 『スキル圧縮』は宝箱には無力というか、そもそもカテゴリー違いだ。この後のことを考えると、今からもう戦々恐々というか、億劫すぎてヤバい。


「ふふ。ショウタさん、明日はお休みしましょうか」

「そうですわ。今日だけで強敵との連戦ですし、通常モンスターでさえあのレベルですもの。ここのレアⅡもきっと強敵ですし、休むべきですわ!」

「……そうだな。明日は休もう。そう思うと頑張れる気がする」


 ダンジョンでの疲労よりも、宝箱の開封作業の方が疲れるというのも変な話ではあるが、俺ってダンジョン攻略のような楽しいことなら疲れ知らずだけど、気分の乗らないことになると急に疲労に倍率アップが乗るんだよな。

 まあ、うちの彼女達は皆そんなこと分かりきってるだろうから、休みを提案してくれてるんだろうけど。

 問題は……宝箱が数百で済めば良い方。ということだな。


「旦那様、元気出してくださいですわ」

「帰ったらまた膝枕してあげますからね」

「……ああ、頑張るよ」


 考えれば考えるほど沼に沈んでいく感覚があるな。こういう時は切り替えるに限るが、なんでこういう時ほど出現に時間掛かるんだよ。

 モグラのレア、早く出てこい!


「それに、ショウタさんは宝箱の中身を確定させるだけで良いと思います」

「そうですわっ。開けたり中のアイテムを取り出したりとかは、わたくし達でもできますわっ」

「……それもそうか」


 そう思えば、ちょっとは気が楽になるな。

 そうして俺の願いが通じたのか、膨れ上がり続けていた煙はようやく膨張が止まり、中から巨大なモンスターが生まれ落ちた。


*****

名前:ビッグランスモール

レベル:175

腕力:2000

器用:1800

頑丈:1350

俊敏:1800

魔力:1600

知力:600

運:なし


ブーストスキル】超防壁Ⅲ、剛力Ⅳ、怪力Ⅳ、阿修羅Ⅲ、俊足Ⅳ、迅速Ⅳ、瞬迅Ⅲ、鉄壁Ⅳ、城壁Ⅳ、金剛体Ⅲ

パッシブスキル】身体超強化Lv5、硬化Ⅳ、土耐性LvMAX、物理耐性Ⅲ、貫通耐性Lv2

アーツスキル】暗視Ⅲ、衝撃Ⅱ、鎧通しⅡ、震天動地Ⅲ、穴掘りLvMAX

マジックスキル】土魔法LvMAX、砂塵操作LvMAX、土の鎧Ⅲ


装備:なし

ドロップ:ビッグランスモールの槍爪、ミネラルスターワーム、ランダムボックス

魔石:極大

*****


 出現したのは両手が槍というか、ドリルみたいになってる二足歩行の巨大モグラだった。顔つきもサイズもまあまあ可愛かったスモールが、大人になったような顔をしてた。

 下手したらおっさんかもしれないが。


『ギュギュウ!』

「声も野太い」

「これはこれでアリですわね」

「ふふ、そうですね。野に放つには危険すぎるステータスですが」


 彼女たちは変わらず、ペット目線で見続けている。2人も決して舐めてるわけじゃないし、こいつもレア基準で考えれば今までで最上位だ。

 けど、強いは強いが、それだけだもんな。

 爪ドリルも面白いが、『初心者ダンジョン』の方で角ドリルを体験しちゃったしなぁ。

 新鮮味が薄い。


『ギュギィ!』

「おっと」


 ドリルを構えてボクシングのような要領でジャブを放ってくる。ドリルな分、1発1発の威力は高いだろうし、あんな先端じゃあ剣で受け流すことはできても鍔迫り合いは不可能。

 倒すだけなら問題はないが、この後のことを考えると複数匹コイツが出てくる可能性があるんだよな。合間にガチャを回した方がお得ではあるが、同時討伐がレアⅡへの進化の条件である場合もある以上、チャンスを逃したくはない。

 となれば、彼女達に注意が行かないよう適度に敵対心を稼ぎながら回避の修行でもするかな。



◇◇◇◇◇◇◇◇



『ギュギュゥ……!』

「なんだ、もうバテたのか? まだスレスレ回避の修行は始まったばかりだ。緊張感を得るために外装無しでやってるんだから、ほら頑張れ頑張れ」

『ギュゥ!!』

「兄さん、お待たせ。押し寄せてくる雑魚の殲滅は、ひとまず終わったよ」

『ギュウ!』

『ギュギュ!』


 エスが2体の『ビッグランスモール』の攻撃を涼しい顔で回避しながら、こちらへと歩いて来た。

 あー、これは風の動きを読んで回避してるのかな? 初見だと後ろに目がついているのかと思ってしまうくらいエグい回避力してるけど、タネが分かっても凄いことしてることに変わりはないよな。


「ん。連れてきた」

『ギュ……!』

『ギュウッ……!』


 ミスティは両足の腱と両手を撃ち抜き、ほとんど無力化して動けない状態の2体を連れて来た。それを運んでるのはセレンとイリスだ。こっちはこっちで無力化としてはこの上なく最上の方法ではあるが、なんか拷問してるみたいでエグいな。

 早く始末してやんなきゃな。


「ん、ショウタ。エスの3体も無力化しとく?」

「あー……そうだな。できるだけ同時に倒したいし、一列に並べてくれるか?」

「ん、おっけー」

『プルル!』

『~~♪』


 そうして乾いた銃声が洞窟内に木霊し、見事に5体のレアモンスターが死ぬに死ねない状態で一列に並ばされた。なんともアレな光景である。


「それでどうするんだい? ほぼ同時にということなら、僕なら何とかできそうだけど」

「いや、ここは俺がどうにかしたい。エスみたいな範囲殲滅力の高い攻撃手段は乏しいのは問題だから、こういうのは何とかできるようにしたいとは常々思ってたからな」

「そう言うって事は何か考えがあるんだね。けど、ぶっつけ本番みたいだけど……。ま、兄さんなら大丈夫か」

「ん。謎の信頼感」

「はは、当の俺は行けるかどうか、五分五分って感じなんだけど」


 エスが『風』の力を使っての攻撃方法は例外として、基本的に高火力・高殲滅力の必殺技っていうのは、武技スキルがほとんどだ。その為、複数のスキルを組み合わせた攻撃よりも、似たような発動手順で武技スキルに昇華させたモノの方が高火力だし、高い応用力まで持ってる。

 なぜならスキルっていうのは、この世界にダンジョンが出現したこの後に世界に定着した、一種のアシスト機能のようなものだからだ。スキルなしとスキルあり、どちらも同じ技を発動させても、前者と後者では絶対的な違いがある。それは、前者は全ての行動を意識して動かす必要があるが、後者は自動的に発動する機能に身を任せる事ができるのだ。武技スキルは、それの攻撃系のアシストが付いたと思えばわかりやすいか。

 その為武技スキルを持つ者は、スキル発動による効果を最低保証としたうえで、そこに好きにアレンジが加えられる訳だ。強いに決まってる。

 さっき俺が『グランドグリフォン』相手に縦横無尽に斬り続けたアレも、現状手持ちにある速度系のスキルを組み合わせてなんとか形にした必殺技だったが、総合的な火力で見れば『無刃剣』には劣るものだ。だからアレをちゃんとした武技スキルとして世界に認めさせる事ができれば、スキルによる行動アシスト効果も合わさりもっと強くできるんだろうが……。それはまた今度だな。


「『紅蓮剣』」


 蛇腹剣に炎を纏わせ、八相の構えで集中する。


「……ふぅー」


 このダンジョンに来て、俺はインスピレーションがめちゃくちゃ刺激された。ミスティと手合わせしたり、間近でエスやミスティの戦い方を目撃したり、やたらと強いレアモンスターと連戦する日々。

 ネタのストックは他にもあるにはあるが、あっちは自傷技に近いからな。この後レアⅡがある事を思えばあまり選択したくはない。

 そして今まで、思いつくままにやってみて、派生させた武技スキルは4つ。

 『無刃剣』の二刀流版『双連・無刃剣』。

 『閃撃』の威力強化版『閃撃・剛]。

 『紅蓮剣』の遠距離版『飛剣・鳳凰』。

 『紫電の矢』の威力強化版『雷鳴の矢』。


 そして今回狙うのは、個別の派生技ではない。

 2つの派生技の、同時発動だ。


「フルブースト。……焼き尽くせ、『閃撃・灰燼』!!」


『斬ッ!!』


 巨大化した火の鳥が、直線状にいた全ての『ビッグランスモール』を真っ二つに引き裂きながら、骨の髄まで焼き尽くしたのだった。


【レベルアップ】

【レベルが161から258に上昇しました】 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る