ガチャ543回目:隠されていたもの
「おらっ、これを見ろ!」
『グァッ!?』
俺がプライドブレイカーを懐から取り出すと、『エスケープ バード』はそれを見た瞬間に固まり、その場でホバリングしたまま動かなくなってしまった。
専門家としてのプライドが砕け散ってしまったのだろうか。原理は不明だが、プライドという名前がなくても効果はあるようだな。
『グァ……』
なんだか可哀想なくらいに自信を喪失したそいつは、完全に敵意を無くしてしまい、そのままゆっくりと俺がいる『空間魔法』の足場に乗り込んできた。
『ポポ!?』
「エンリル、大丈夫だ」
『ポー』
『グァグァ』
奴は毛繕いをするような感じでモゾモゾすると、どこからともなく何かを取り出し、嘴に咥えていた。
それは光そのものであり、『リザードマン オッドボール』の時と全く同じだった。俺はそれに手を伸ばすと、光は俺の中へと入り込み、『エスケープ バード』は意気消沈したまま消えていってしまった。
【封印の鍵:タイプBを入手しました】
「なんだか本当に申し訳なくなってしまうな」
『ポー』
「まあそう言ってても仕方ないか。皆のところに戻ろう」
『ポポ!』
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいまー」
「「「「「おかえりなさい!」」」」」
彼女たちと順番にハグしていると、不意にお腹が鳴った。そういえばもうお昼時か。
「悪いなエス。一時休憩だ」
「ああ、構わないよ。むしろ、昼食を摂るにはちょっと遅いまであるよね」
言われて確認したら、時刻は13時頃だった。ちょっと『エスケープ バード』に時間をかけ過ぎてしまったか。
マップを開けば、洞窟のワープゲートが閉まるまで、あと3時間ほど。……これは、ギリギリになるかもしれないな。
◇◇◇◇◇◇◇◇
昼食後、俺たちは例の石碑が集まっている頂上へとやって来ていた。というか、昼食を摂っていたのはその石碑の真ん前ではあったのだが。
「んで、これが例の残った石碑か」
そこにはエスが言っていた通りの碑文が刻まれていた。そこに掘られた文字は、一見何の文字か理解できなかったが、凝視してみると頭の中に文字が浮かんできた。
『昏き中に輪は眠る』
「ふむ。未知の言語なのに、母国語で頭の中で再生される以外に、おかしなところは何もないな」
「そうねー。今の所、この謎言語の解析くらいしかできる事はないわね」
「こんな不思議な文字、日本のダンジョンでは見かけませんでしたね」
2人は参考までにとパシャパシャとカメラに収めている。
「つーかエス、この碑文を写真で見せようとして来てたけど、もしかしてコレって写真でも勝手に文字が浮かんでくるのか?」
「そうだよ。不思議だよね」
「へぇ、面白いな。まあそれを考えるのは後にしてだ」
俺は周囲の様子を確認した。すると、元々石碑があったであろう残骸が2箇所あり、残存する石碑を含めて3つの石碑が、この頂上の中心を囲むように配置されているのが分かった。
この意味深な配置、絶対ここに入り口があるだろ。とりあえず俺はその残骸の1つにおもむろに近付き、動かせないか確認をしてみる。
「……くっついてるな」
当然こんなことは俺以外の誰だって試しただろうし、改めて俺がやってみても変化はまるで起きなかった。というか、瓦礫は細かな物から大きい者まで様々だが、その全て地面にひっついているらしく、俺の力を持ってしても持ち上げることすらできなかった。
「なあエス、ここにあった碑文はどんな内容だったんだ?」
「ここの碑文は確か……『巣の中に輪は眠る』だったかな」
「巣? っていうと、プライド連中の巣か?」
「ああ、この山の裏手に、プライドコンドル達の巨大な巣跡があってね。今の所モンスターは1体も現れないんだけど、この階層が出現した当初は連中が溢れかえっていたらしいよ」
「今もぬけの殻なのは、もしかしてそこでワープゲートが発見されて、誰かが使ったからか?」
「そうかもしれないね」
となると、プライドコンドル関係の何かが、ここに必要になるのかもしれない。俺の中にある『封印の鍵:タイプB』が無反応である以上、考えられるのは――。
「やっぱこれだろ」
俺は武器庫からプライドブレイカーを取り出し、石碑の跡地に突き立ててみた。
だが、反応らしきものはない。
「……ダメか?」
しばらくそうしていると、突然石碑の残骸が動き始め、1ヶ所に集まり始めた。
『ズズズズズズ……』
「おっ、動いた」
そして残骸は1つの台座へと変化した。それはどうみてもプライドブレイカーを収める為の台座だった。
「とりあえず入れてみよ」
台座にプライドブレイカーを収めると、カチリと音が鳴り、地面に沈んでいく。そうして見守っていると、台座は完全に沈みきり、残骸があった場所には何も残らなかった。
「あ、これ、回収できないパターンか……? まあ良いか、もう1つもチェックだな。アイラ、英雄の証」
「こちらに」
証も同じようにもう1つの残骸に近付けると、こちらでも台座が出現した。
「エス、ちなみにだがこっちの碑文はどんな内容だったんだ?」
「こっちもそのままさ。『石輪の中に輪は眠る』」
「なるほど、そのまんまだな」
そして台座に証を収めると、こちらも地中へと沈み込んでいく。そして――。
『ガコンッ!』
残っていた碑文が横にスライドして行き、そこから階段が現れるのだった。
「隠し階段が出現したか。んで、このタイミングでマップの方にも階段の情報が追記されたか」
この感じから見るに、マップのチート機能を使っても、
なかなか面白いギミックじゃないか。
「まさか、散々調べられてきたこの場所に、秘密が隠されていたなんて……」
「ん、驚き。そしてそれを一発で見抜いたショウタもすごい」
「さすが旦那様ですわー!」
「ほらショウタ君、元気出して。槍と証はまた取ればいいのよ」
「そうです。ショウタさんは凄い発見をしたんですから、胸を張ってくださいっ」
アキとマキに言われて改めて気付いたが、2つのアイテムを喪った事を俺はそれなりに引きずっていたらしい。気にしないようにしてたら階段が出たので意識が逸れてしまったが、やっぱりショックだったんだなぁ。面白い効果だったしな。
まあでも、アキの言う通り、欲しいならまた取ればいいんだし、気にし過ぎも良くないな。
「……そうだな。今はこの発見を喜ぼう」
「おや、ご主人様。立ち直られましたか?」
「なんだよ、凹んでてほしかったか?」
「おぎゃるかと思いまして準備を――」
「しなくていい」
まったく。
それじゃ、改めて未知の地中を探索だ!
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