ガチャ533回目:光と闇
「さーて、何が出るかね」
煙の中から現れた異物は、生物らしからぬ動きで煙から生まれ落ちた。それと同時に、とてつもない異臭が周囲に立ち込めた。
「うっ!?」
「ひ、酷い臭い……!」
「鼻がもげますわ……」
その異臭の強さは尋常ではなく、耐性スキルのある俺だけでなく、ポーカーフェイスが得意なアイラですら口元を覆い顔を顰めるレベルであった。アイラは即座にフルフェイスの防護マスクを人数分取り出し、配り始めてくれた。
ほんと準備が良いなこのメイドは。
ありがたく装着させてもらい、ようやくまともに呼吸ができることに俺たちは安堵していると、その異物は最初の産声を上げた。
『ヴォアアアアッ!!』
そいつは全身がドロリと溶け落ちていて、腐り果てていた。元々どんな生物だったのか、原型すら留めていない。
奴はそんな身体をゆっくりと動かし、虚ろな瞳でこちらを睥睨していた。本当に厄介なモンスターが誕生したものだ。
*****
名前:コラプショングリフォン(ユニークボス)
レベル:300
腕力:4500
器用:4500
頑丈:500
俊敏:500
魔力:5000
知力:2000
運:なし
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★【
装備:なし
ドロップ:コラプショングリフォンの頭骨、ランダムボックス
魔煌石:大
*****
原型はとどめていないものの、かろうじてその上半身……特に頭部は、先ほどの『シックネスコンドル』が継承されていることがなんとなく読み取れた。そして名称からして、下半身は獅子のものだろうか? 全身が等しく腐り果て、ほぼ皮と骨のような、ゾンビのような風貌なので自信はないが……。
初めて遭遇するグリフォンが、まさかのゾンビとはな。
「しっかし『ユニークボス』ときたか。しかも、今までダンジョンボスだけが持っていた『魔煌石:大』……!」
「ん。やばい気配がビンビンくる」
「強敵だね、兄さん」
これはあれか?
俺が特殊な倒し方をしたもんだから、引っ張られて現れたか? 多分普通に倒せばまともなグリフォンが見れたのかもしれない。
「死肉喰らい相手に、火葬は親和性が高かったかなぁ」
なんて冗談を言っていると、奴は翼を大きく広げた。また飛び上がるのかと危惧したが、その翼にはほとんど肉も羽根も残っておらず、骨が丸見えのみすぼらしい物だった。
これでは飛べそうにない。何をする気だ?
『ヴォアアッ!』
奴は全身から嫌な気配のする黒い霧を発生させ、羽ばたきと一緒に周辺にばら撒き始めた。
「うわっ!?」
「な、なにこれ!」
「皆様、回避を!」
アイラとアヤネ、それからエスとエンリルは回避することに成功したようだが、残りのメンバーは全員黒い霧に纏わりつかれてしまった。
俺の周囲にも黒い霧が纏わりついているが、今の所ダメージを受けている感覚はないし、状態異常を受けてもいない。『金剛外装』と『超防壁』も健在だ。
これは一体、どういう効果があるんだ……?
「皆、無事か!」
「は、はい。大丈夫です!」
「視界は悪いし身体は重いけど、平気よ! 防壁2種は破られていないわ」
空に浮かぶことで回避した2人が心配そうに声をかけてくれる。
「皆、大丈夫かい? 地面を這うように広がっていたから、空に飛んでしまえば受けないようだね」
『ポー』
「ひとまずその霧は残留し続けるみたいだし、僕達はこのまま空から応戦するよ」
『ポポ!』
「ああ、頼む!」
そして混乱から復帰できていない俺たちを嘲笑うかのように、『コラプショングリフォン』は四足歩行のまま駆け出し突撃を仕掛けて来た。
『ヴォアアッ!!』
「エンキ、頼む!」
『ゴゴ!』
一律3200ステータスという、普段ならそこらのレアモンスター程度なら軽く捻れる強さを持つエンキでも、『腕力』と『器用』が共に4000なんて強さを持つ相手には、流石に分が悪いように見えた。
対して『頑丈』はたったの500しかないため、良い攻撃が入ればそれだけで相手の身体はボロボロと崩れ落ちるが、高レベルの再生スキルの二重効果でその傷もすぐ無かったことになる。
そんな相手でも辛うじて戦いについていけるのは、エンキに持たせた『金剛外装Ⅲ』と『怪力乱神Ⅱ』のおかげだろう。これがなかったら流石にやばかったな。
キメラといいコイツといい、このダンジョンのレアは回復能力の高いタフなモンスターが多いのか?
エンキが奴の注意を引いている間に、他のメンバーは黒い霧に包まれながらも奴を取り囲み、攻撃を開始した。俺も今のうちに、この霧の正体を見破らなきゃな。
「『真鑑定』『真理の眼』『解析の魔眼』」
名称:瘴気の檻
品格:不明
種類:エクススキル
魔力:576/600
説明:瘴気の檻に囚われた対象に以下のデバフを掛ける。
・負荷重力2倍。
・被物理ダメージ1.5倍。
・闇属性被ダメージ3倍。
・弱体耐性に関する装備、スキル効果無効。
★時間経過及び、聖なる力が宿ったアイテムやスキルでのみ解除が可能
「全員、奴の口元には絶対に近付くな! 指輪の効果が無効化されてる!」
注意喚起を簡潔に促し、この状態の打開方法を考える。
まず時間経過だが、『解析の魔眼』でみたところ恐らく1秒につき1魔力が減って行ってるところから見て、『瘴気の檻』は10分間続くスキルと見た。だが、10分耐えてもその後にまた使って来たら意味ないし、被弾増加もそうだが弱体効果に掛かりやすい状態というのは、前線がたやすく崩壊してしまうリスクが常にあるという事でもある。
今は弱体効果に対してほとんど効かないエンキが頑張ってくれてるが、いつまで持つかもわからない以上、耐え忍ぶのはナンセンスだ。
「……使ってみるか、『聖魔法』」
今まで汚れを掃除することくらいにしか出番が無かった魔法だが、この瘴気こそ、正に汚れの塊みたいなもんだろう。今使わずしていつ使うってんだ。
現状使える魔法はLv1から使える『浄化』と、Lv2で使えるようになった範囲『浄化』だけだが……。今の俺には効果を倍増させる『魔導の叡智Ⅳ』と『万象の刻印』、それから意味はないかもしれないが『天使の祝福』もある。
……うん、なんとかなる気がして来た。俺は戦場に広がる全ての黒い霧を消し去るイメージを持って、魔法を行使した。
「ピュリフィケーション!」
俺を中心に強い光が戦場に広がり、黒い霧諸共『コラプショングリフォン』を巻き込み、閃光が全てを飲み込んだ。
『ヴォアアアアッ!!?!?』
閃光は黒い霧どころか、奴から放たれていた異臭や、付着していた肉片すら吹き飛ばしたらしく、そこには骨だけになった『コラプショングリフォン』が苦しそうにもがいていた。
どうやら効果は抜群だったようだ。
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