ガチャ522回目:気まずい再会
次の日、俺たちは第二層に来ていた。第二層で得た宝箱の味が忘れられなかったためだ。他の冒険者には悪いが、安全を取り戻している訳だし報酬として根こそぎいただいていこうと思う。どうせその内復活するだろうしな。……どれくらいかかるかは知らないけど。
ちなみに、第一層も第二層も、いまだに階層スタンピードは進行していないらしく、どちらも緑の初期レベル状態だった。一体これは、どれくらい保つんだろうか?
『初心者ダンジョン』の時のフィーバータイムは1ヶ月続いたが、あれはダンジョン側からの通知もあってハッキリと期限がわかっていた。今回はその通知もないままに一時的なものではあるが、そもそもの仕様として、もしも既にその期限が切れていたとしても、モンスターを狩り続けてさえいれば初期レベルから変動はしなくなるんだよな。
だから結局、今が実は機能が停止しているのか、それとも狩りが順調すぎて再稼働するためのエネルギーが溜まっていないだけなのか、判断が付かないのだ。
まあ、なんにせよ動いていないのは朗報であることに変わりはないのだが。
「これで集め終わったかな」
緑の森、霧の森、紅葉の森の順で回り、紅葉地帯にある巨大紅葉の下に俺たちは集まっていた。この順路になったのは、霧地帯は常に『生体感知』持ちのミストハンターの存在を気にしないといけないためで、移動できないサップリングがいるこのエリアは安全に雑談ができるからだ。
それに、どうやらこの巨大紅葉の下は次層へのゲートが出る場所だからか、モンスターが出現しないと言うのも大きい。あいにく今は第三層へのゲートは出ていないようだが、俺たちなら問題はない。
「ん。大量。今開けちゃう?」
「そうだな……。アイラ、全部で何個あったんだ?」
「はい。緑の森で8個、霧の森で23個、紅葉の森で11個でした。全部で42個ですね」
「んじゃ、21個ずつで行こうか」
そうして開封し、先日同様、複製の実が3×
21個と、ポーション21個だった。これだけあれば十分だろう。
「そんじゃ、第三層に行こうか」
「出発ですわー!」
「ん。ゴーゴー」
マップで周囲に他の人間がいないことを確認し、『三種の紋章【Ⅱ】』を使用して第三層へと移動した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここが第三層か。第二層と違って見通しは良いが……また見事に山だな」
これまでフィールドに山が生成されていたのは過去に2回。『初心者ダンジョン』第三層と、『ハートダンジョン』第三層だ。第三層は山が出て来やすいとかそういう傾向があったりするのかね?
「んー……?」
「ダンジョンによるかと」
「そうですね。全部が全部ではないですけど、山が出やすい傾向にはあるようです」
「え? あっ、山の話ね!」
「何の話ですのー?」
「ん。何の話?」
俺の思考を読んで最速で答えを出したのはアイラとマキ。次点でなんとなく察したのはアキ。そして気付けなかったのはアヤネとミスティという結果になった。
まあ競ってるわけではないんだが、2人は話についていけなくてちょっと悔しそうだった。
「第三層は山が多いのかなーって思っただけだよ」
「ふわぁ、そこは知らなかったですわ」
「ん。私も詳しくない」
「あ、ごめんなさいショウタさん。そう言う意味ですと少し訂正させて頂きます」
「ん? というと?」
「第三層に山が多いのではなく、中間層に山が多い。というのが、ダンジョン知識としては正しいです」
「あー……。なるほどね?」
確かに、俺が全階層順番に攻略してる中で、3層目に山があるのは5階層目が最深部となってるダンジョンだけだな。マキの言う通りなら、10階層ダンジョンなら5,6層目あたりに山が出て来やすいと。そういうことなんだな。
「ありがとうマキ。勉強になるよ」
「お役に立てて良かったです」
そして山と言えば、『初心者ダンジョン』はユニークボスの『カムイ』がいたし、『ハートダンジョン』ではボスエリアの入口があった。そう言う風に考えると、ここにも何かドデカイ秘密が隠されていたりするんだろうか。
そうして雑談をしつつ周囲を見れば、この階層も入り口付近は冒険者の溜まり場になっているようで、今まで以上に練度の高そうな人達がキャンプをしていた。
正直このクラスの練度の集団を、俺は今まで見たことはなかったからちょっと新鮮ではあった。彼らも俺がどういう存在なのかは認知しているのか、遠巻きに見てくることはあれど新参を警戒するような剣呑な雰囲気は感じなかった。
「それじゃ、早速マップを……うん?」
マップを開くと、そこには未探索の真っ暗になっている部分に、味方を意味する青い点が1つだけ、ポツンと存在していた。
これが誰なのかは言うまでもないのだが、なぜこんな所に??
とりあえずその青点をタップしてみると、昨日別れたはずのエスが表示され、カメラ目線でこちらに手を振っていた。
「おま、何やってんだよ……」
そう俺が呟くと、少し遅れてエスは申し訳なさそうな顔をした。恐らくこいつは『風』の能力を使って、こっちの音声をリアルタイムで拾ってるんだろう。タイムラグはそのせいだな。
俺たちはここに来たばかりだってのに、既にこっちに『風』の通り道を作ってるって事は、この時間に来ることを予想して事前に網を張ってやがったな。
まあ第二層で寄り道して来たから、もしかしたら1時間くらい前からスタンバってたのかもしれんが。
「エス、たぶん知ってるゲートが開いてなくて、仕方なく待ちぼうけの状態になってると思う」
ミスティがそう言うと、エスが遅れてうんうんと頷いた。一方的な会話だが、通じてるようで何よりだ。こんな使い方、他の誰にも真似できないだろうな。
「で、エスがいるのはマップの位置関係的に、山の頂上付近かな? そこから動かないってことは、エスの把握してる移動方法はそこに出現するはず、と」
「ん。そう。発見されてるのは2種類で、変化時間の流れから見て未発見は多分1つ。エスは昨日からその未発見のに捕まってるみたい」
「なんつー不運な」
「ん。エスは割と運がない」
「ちなみにエスの『運』っていくつ?」
「5」
「そりゃ低い。初期の俺の次に低い」
「ん。私は8」
「ミスティはそれなりだな」
「ん。それなり」
『運』ってダンジョン探索以外でも、割と露骨に私生活とかにも影響が出るからなぁ。そんなに低いなら過去からの積み重ねで色々と不幸を経験してそうだ。てかそんなに低いなら、ちょっとでも割り振れば良いのに。
「ん。エスは『風』の制約で、特定のステータスにしか割り振れない。だから、『風』取得以降は好きに割り振れてない」
「そうなのか。それじゃあこの先も苦労しそうだな」
「ん。実際苦労してる」
マップに映るエスが悲しげに頷いた。てか、ずーっとそこから動かないけど、エスの『運』を考えれば、その知ってるゲートが開通するのも、ずっと先になる可能性すらありそうだよな。
「エス、気まずいかもしれんがこっちに合流しないか? 俺といた方が次層への移動も簡単に済むかもしれんぞ」
それを聞いたエスは少し思い悩んだ末、その場から飛び上がる動きを見せた。そして青の点が爆速で移動を開始し、1分もしない内に直接視える位置まで飛んできて、俺たちと合流したのだった。
相変わらず、マップ蹂躙能力というか、ダンジョン内での移動速度は断トツだな。
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