第十六章 696幻想ダンジョン 中編

ガチャ521回目:忘れてたアイテム

「それじゃ兄さん、先に行ってるね。ミスティ、皆の案内は任せたよ」

「ん。おっけー」


 そんな軽い挨拶で、エスは今朝の明るい内に出発して行った。今日は第二層の疲れもあって攻略はお休みということになったのだが、エスはどうやら疲れてはいないらしい。まあメインで戦ったのはほとんど俺ではあるが、他の面々だって俺に色々と連れ回されて、多少の疲れは見せてるのにな。アイラは涼しい顔だが。

 そんなエスに第三層直通パスを渡そうかと思ったが、それは止められてしまった。なんでも、第一層と第二層程度なら、多少詰まっても本気を出せば数分で移動できるらしい。

 まあ、あいつが全速力で飛ばせばダンジョンのフィールドなんて一瞬で移動できるだろうからな。ほんと便利だな、『風』の能力は。


「ん。エスは疲れ知らず。どうやってるのか知らないけど、『風』の力で疲労を急速回復したり、睡眠による休息も最大限に効果を発揮させたりしてるみたい。しかも最近は、ショウタから貰った例のお布団で回復力がパワーアップしてる感じ」


 などと、見送ったミスティが言っていた。

 そんなんでよく身体を……。いや、回復するんだったか。この場合は精神の方かな? よく壊れないな。

 俺は朝の光景を思い出しながらぼそりと呟いた。


「エスって、俺なんかよりよっぽどダン畜な気がするんだよなぁ……」

「ご主人様も人のことは言えませんよ」


 聞こえていたのか、アイラはそう言ってにこりと微笑み、他の面々も頷いていた。


「うーん、でもさ。最近の俺ってちょっと前までと比べたら、そんなにダンジョンに対して集中できてないというか、割と頻繁に休んでる気がするんだよな。まあその分強敵も多いし、疲労を感じるイベントも多いからかもだが」


 そう言うと、彼女達は互いに視線を交わした。そして何とも言えない様な空気を発する。

 んん?

 

「そ、それはともかくショウタ君っ」

「なに?」

「結局今日はどこにも行かずに、お部屋でのんびりする事になった訳じゃない?」

「そうだなー」


 せっかくの休みではあるが、俺たちはどこかに出かけると言うこともなく、昔絵本で見た王様のような構図で自堕落な生活を体現していた。

 マキは恒例の膝枕で俺を癒してくれているし、アヤネはいつもの如く抱き枕。どこで覚えたのか触手を使ってマッサージをしてくれるセレンとイリス。そしてアキやアイラもあの手この手で甲斐甲斐しくお世話をしてくれている。ほんと最高の婚約者達だよ。

 ……まあ、ミスティはまたしても『ルフの羽毛布団』を被ってカタツムリのような状態になってスピスピと寝息を立てているが、近くには居てくれているだけ十分だ。


「……絶景だなぁ」


 あとは、俺の心を癒すためか、全員が水着を着てくれている。さっき布団をめくってみたら、ミスティも水着を着てくれていた。まあ、布団から出て来てくれないので、よーく見ることはできなかったが。

 そんな感じでゆるーい雰囲気の中雑談をしていると、昨日までのダンジョン攻略で得た素材の話にシフトして行った。

 

「それでね、マキとアイラさんとも話し合ってたんだけど、昨日や一昨日は色々と大変だったしバタバタしてたこともあって、いくつかアイテムの確認作業ができてなかったでしょ」

「そうだっけ?」

「ゴリラの香油とか、キメラの遺伝子データとかね。食材系は毒はないことは確認できたし、素材系統もそういうのは専門家に流しちゃえば良いけど、最初の2つは扱いが分かんないのよ」

「あー。なるほどね」


 香油は女性陣は気になるだろうし、遺伝子データは色々と不穏だもんな。そりゃ下手なもんをオークションに流すわけにも行かないし、扱いにも困るか。


「ですのでご主人様、お休みのところ申し訳ありませんが、確認していただけますか?」

「まあ見るだけならすぐだし、良いよ」


 そんじゃ、寝転びながら見ますかね。まずは香油だ。


「『真鑑定』『真理の眼』」


 名称:緑色に輝く香油

 品格:≪最高≫エピック

 種類:消費アイテム

 説明:振りかけると人型生物及び人型モンスターを惹きつけるフェロモンを発生させる。

 ★緑の色素を身体に持つ者、もしくは緑色の服や装備を身に付けていると効果上昇。

 ★好意を持つ相手には効果が倍増する。


「あー……。はい、危険物ー」


 黄金香に近い何かを感じるぞ。んで、他の赤と黄色も、色に関する効果の文面が変わるくらいで違いはなかった。


「つまり、この緑はミスティ向きで、黄色はアキとアヤネとアイラ、んで赤色はマキが近いのかな」


 髪色的に。


「フェロモンかー。ショウタ君に使ったところで、もうメロメロだし……関係ないわよね?」


 アキも言ってて恥ずかしくなったのか、言葉尻が弱かった。


「まあメロメロなのは否定しないが、こんな一時的なオフの日に使うもんでもないよな」

「そうですね。使うにしても、完全休暇の……それも日本に帰国した後が望ましいかと。ここは向こうほど安全ではありませんし」

「ん。ほどほどな緊張感、大事」


 いつの間に起きたのか、ミスティが眠そうな目でこっちを見ていた。とりあえず撫でておこう。


「んにゅ……」


 撫でていると、気持ち良さそうな声をあげまた寝息を立て始めた。相変わらず家では小動物してるなぁミスティは。

 んじゃ次は、キメラのか。こいつは透明なカプセルに入った液体が本体のようで、研究施設にあるような標本なんかじゃなくて安心ではあったんだが、どうにも気味が悪かった。


「『真鑑定』『真理の眼』」


 名称:キメラの遺伝子情報

 品格:≪遺産≫レガシー

 種類:魔科学素材

 説明:キメラαを形造るための遺伝子配合表が記された不完全な遺伝子データ。完成させるには何かが足りない。


「『魔科学素材』とか初めて見るな」


 しかも『真理の眼』を使った追加情報が何も出ないのが、また不気味だった。


「なんだか怖いですわ」

「とりあえず、世に出しちゃダメなやつね」

「封印確定ですね。もしくは、エネルギーに変換しちゃいますか?」

「……いや、αとある以上、連作だと思うし、念の為キープで」

「畏まりました」


 そんじゃ、改めて休日を堪能するか。

 そうして再びぐーたら生活を送るのだった。

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