ガチャ509回目:霧の怪物

「コイツがレアか」

『ゴアアア!』


 腹の底に響くような重低音の叫び。ビリビリと来るこの感覚、恐らくスタン系の技だろうか。俺は当然として、彼女達も指輪の効果で全員防ぐことができたようだ。

 出現と同時に叫ぶことでスタンさせ、その隙を襲い掛かる魂胆だったのかもしれないが、誰にも効果が無い事を悟ったのか相手もすぐに飛び掛かって来たりせず、唸り声を上げている。

 今の内に確認するか。


*****

名前:レッドミストタイガー

レベル:135

腕力:1400

器用:1450

頑丈:1220

俊敏:1400

魔力:3000

知力:500

運:なし


ブーストスキル】超防壁Ⅲ、剛力Ⅲ、怪力Ⅲ、阿修羅Ⅱ、俊足Ⅲ、迅速Ⅲ、瞬迅Ⅱ、力溜めⅡ

パッシブスキル】硬化Ⅲ、水耐性Lv2、物理耐性Ⅲ、魔法耐性Ⅲ

PBパッシブブーストスキル】破壊の叡智Ⅱ、魔導の叡智Ⅱ

アーツスキル】隠形Ⅲ、生体感知Ⅲ

マジックスキル】風魔法Lv3、風塵操作Lv3、魔力回復Lv3

スペシャルスキル】ミストミラージュ

★【エクススキル】虎咆、霧化


装備:なし

ドロップ:レッドミストの毛皮、レッドミストの牙

魔石:特大

*****


 現れたのは、赤い毛皮の巨大な虎だった。まだ第二層でしかないのにレベルも高いし、ただのレアにしては強すぎる。これも、スタンピード直前かつ、『幻想ファンタズマ』スキルを2つも排出してしまった弊害だろうか。

 レアでこの調子なら、レアⅡは一体どうなっちまうんだか。煙もまだ、俺の後ろに着いてきてるし。


「兄さん、大丈夫そうかい?」

「とりあえずやってみるよ」


 スキル構成は今までのレッド2種に近いものがあるが、真新しいスキルがあるし、『エクススキル』にも気になるものもある。とりあえず……一発入れるか!


「おらっ!」

『ゴアッ!?』


 奴もそれなりに強敵らしく、こちらの動き出しに気付いて回避しようと動いた。こっちもちょっと踏み込みが足りなかったようで、顔面を狙ったはずが前足を斬り裂く程度に留まった。

 生物としては足が負傷しただけでもだいぶ致命傷のはずだが、奴はすぐに立て直し攻撃を仕掛けてくる。


『ゴアッ! ゴアアッ!』

「ふんっ! せいっ! ……ん?」


 奴の繰り出す力強い爪を防ぎ、弾く。それを繰り返していると、1つの違和感に気付いた。俺が付けたはずの傷が、何処にも見当たらないのだ。


「あれ、回復した?」


 確かに斬り裂いたはずだが、どこにもその痕は見当たらない。回復系のスキルも魔法も無かったはずだが……。今度はもう少し、強めに行くか。


「……せいっ!」


『斬ッ!』


 懐に踏み込み両前足を両断する。

 これで奴もまともに動けは……。


『ゴアァ!』

「なにっ!?」


『ガィン!』


 奴の気配が増したと思った次の瞬間、体重を乗せた踏みつけ攻撃をしてきた。咄嗟に剣で防ぐ。油断をしていた訳ではないが、俺はその行動に目を見開いた。そこには、今しがた斬り飛ばしたはずの前足があったのだ。

 奴はスキルを使えば押し潰せると思ったのか、そのまま抑えつけてくる。だが、そこは大した問題じゃない。

 俺は事態の把握に努める為、圧し潰しに耐えながら先ほど両断したはずの前足を探して周囲の確認をする。しかし、それらしいものは見つからない。


「まさかこれは、『スペシャルスキル』の『ミストミラージュ』の効果か?」


 俺は、霧の中で幻影でも見せられてるって言うのか……? 確かに斬った感触はあったはずだが、それすら幻だったと?

 だがこののしかかりも、今までの攻撃も、間違いなく本物だったし気配もある。まさか実は『気配偽装』を持っていて、更には『真理の眼』を欺くようなスキルを持っているとは考えづらいしな。

 なら今度は、その全身を斬り刻んでやる!


 力任せに潰そうとするする奴の力を利用し、柔術で受け流す。

 すると、隙だらけの横腹が目の前にやって来た。


「『無刃剣』!」

『ゴアアッ!?』


 強靭な奴の身体がバラバラに斬り裂かれ、煙になって分解される様散り散りになって消えていく。


「……」


 だが、レベルアップ通知も無ければ、嫌な気配も消えなかった。

 いつもなら戦闘終了とみるや飛び込んでくる彼女達も、俺が警戒を解かない事に気付いたのか、近付いてこようとはしなかった。

 静まり返る森の中、不意に背後から不自然に空気が動くのを感じた。


「……そこか!」


『ガキンッ!』


『ゴァ!?』

「それが『霧化』か。文字通り、初見殺しな技だな」


 確実なレベルアップ通知と『真理の眼』によるスキル看破。更には振り切った『運』。これらの能力がある俺だからこそ気付けたが、どれもない一般の冒険者なら、普通やられちまうだろ、こんなの。

 この階層に来てからというもの、カメはまだ優しいやつだったが、トレントもこの虎も、完全に殺しに来てるよな。

 しかし参ったな。どれだけ斬ろうと粉微塵にしようと、いくらでも再生しては『霧化』して、死を回避しては不意打ちを仕掛けてくる。中々に厄介な奴だな……。


『ゴアアッ!』

「うーん。どうしたもんかなぁ……」


 相変わらずの物理一辺倒な攻撃を、既に見切っている俺は考えながら受け流す。そう言えばこいつ、魔法を覚えてるくせに全然使ってこないよな。距離を置いたら使ってくるんだろうか?

 けど、さっき『霧化』してたときも、裏周りはして来たが魔法を使ってくる様子はなかった。『魔力回復』のスキルがあるから、使おうと思えば使えるはずだが……。それでも使ってこないのには理由があるのか? 近接戦闘中は使わないだけ? それとも、使があるのか……?


「……ああ、なるほど。そういうことか!」

『ゴァッ!?』


 俺は奴の爪を大きく弾き飛ばし、腹に蹴りを入れ吹き飛ばす。

 器用に受け身を取り奴は起き上がるが、距離を置いてもなお、奴は魔法を使ってくる様子はなかった。ならもう、決まりだな。

 奴の『ミストミラージュ』と『霧化』には莫大な量の魔力が持っていかれるんだろう。だから、そんな事に大事な魔力を割り当てるわけにはいかない訳だ。謎も解けてすっきりしたところで、俺はトドメを刺すことにした。あとはその方法だが……。


「ダメージ無効に、死すら回避するチートじみたその能力。恐らく、霧の中限定のスキルなんじゃないか? っつーわけで、アヤネ、エス、エンリル。ここら一帯の霧を吹き飛ばしてくれ!」

「はいですわ!」

「任されたよ」

『ポポポ!』


 三者三様の手段で風を起こし、『レッドミストタイガー』の周囲20メートル以内に存在する霧は全て上空へと吹き上げられた。


『ゴアッ!?』

「これでもう『霧化』はできないんじゃないか?」

『ゴ、ゴア……!』


 慌てて霧のある場所へと逃げ出す奴だったが、そのスピードは止まって見えた。


「今度こそトドメだ。『無刃剣』!!」


【レベルアップ】

【レベルが120から166に上昇しました】


 よし、これでギリギリだがガチャが回せるな。だけど、すぐにでもレアⅡが始まるかもしれないし、それまでは皆に守ってもらおうかな。

 そう思った矢先、俺の視界の端で虎の死骸が弾け飛び、3つ目の煙の塊が発生した。あまり、時間の猶予は無さそうだな。

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