ガチャ507回目:紅葉の怪物

 俺はレッドサップリングにおもむろに近づいて行くと、彼我の距離3メートルほどで発する気配に変化が生じた。

 擬態するのは確かに上手いが、殺気を抑えるのは苦手らしいな。ハイドハンターは『気配遮断』を持っていたが、こっちはそれがないんだもんなぁ。

 この先、どっちも得意な通常モンスターとかも現れるのかもしれないから気を付けないとな。俺らにはマップがあるけど、それすら隠れてくるスキルも存在してるし。


「おっ」


 距離を1メートルにまで詰めるとようやく相手は動き出し、その枝とツルを動かし絡め取ろうと動き始めた。その動きは自然の植物からは逸脱しておらず、風に揺られた時と同じような演技力で、事前に気付いていなければ騙されるほどだった。

 まあ、問題があるとすればから違和感がヤバイことくらいだが。


『斬ッ!』


 こちらに枝やツルが伸びてくるよりも先に、若木の幹を両断にする。それで終わりなのかと思ったが、斬り離した上部分も下部分も煙に変わるでもなくジタバタもがいていた。幹の細さの割には、第一層の木々よりもちょっと硬い辺りが『頑丈』の機能がきちんと働いてるなぁと感心はしたが……。これ、木っていうより、木の姿形をした直立するムカデか何かか?

 そう思ってしばらく待ってみると、斬り離した上部分はしっかり煙となって消え、下半分は残り続けた。ドロップもないことから、多分下半分が本体なんだろう。どの辺を斬れば倒せるのかと、切り口から段々と下に向かって千切りにしていくと、地面スレスレの所を切断したところでようやく撃破となったようで、大量のポテトをドロップしていった。


「おー。大量大量」


 赤色のジャガイモに、赤色のサツマイモがそれぞれ3つずつ。スキルオーブが4つに魔石が1つ。うん、美味いな。

 まあスキル詳細なんかの確認は最後に回すとして……。


「なあエス、こいつら、根っこが本体なのか?」

「そうだね、根っこというより、地面の中にポテトが埋まっていてね。それが本体なのさ」

「若木というより、ジャガイモから芽が出てそれが木のようになってる感じか」


 となると、次に倒すときは邪魔な上部分を斬ってから引きずり出せば……。


「ちなみにだけど、引っこ抜くのはやめた方が良い。魔法を使って大暴れするからね」

「おっと」


 そういえば、こいつ魔法を覚えてたよな。

 千切りにしてる最中は使ってこなかったが、発動条件が地中にいない時だってんなら理解はできる。なら、上半分を斬り飛ばしてから幹の真下にあるであろうポテトを貫くか、最初からそこを攻撃するかの2択だな。ま、どっちもやってみて楽な方でやればいいか。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 結局両方試してみたところ、奴は本体であるポテト部分を直接攻撃しても、しばらくもがいて暴れる習性があるようだった。

 そのため、安全のためにも一度上半分を切り落としてから、本体を攻撃することとなった。まあ、アイテム回収はいつもの如くアイラなので、本体を貫いて勝手にくたばるまでに次へと仕掛けに行った方が効率的ではあったのだが、今回はモンスターがある程度まとまって出現しているため、皆にも手伝いをお願いしていた。

 そんな中でアイラとエンリルの2人がアイテム回収に勤しんでくれているので、手間を増やすのは申し訳ないし、そこまで急がずとも、全員ほぼ数回の攻撃で仕留めてくれているので、殲滅速度で言えばかなり高い方だった。


「ショウタさん、こっちで出ましたよ!」

「ああ、今行く!」


 煙を知覚できるアキとマキを左右に広げていたことで、レアの出現もすぐに確認することができた。


*****

名前:レッドメイプルトレント

レベル:110

腕力:1000

器用:1000

頑丈:1200

俊敏:50

魔力:1000

知力:1000

運:なし


ブーストスキル】超防壁Ⅲ、剛力Ⅲ、怪力Ⅲ、阿修羅Ⅱ、鉄壁Ⅲ、城壁Ⅲ、金剛体Ⅱ

パッシブスキル】再生Lv4、鞭術Lv8

PBパッシブブーストスキル】破壊の叡智Ⅱ、魔導の叡智Ⅱ

アーツスキル】隠形Ⅲ、吸血Lv3

マジックスキル】土魔法Lv3、砂塵操作Lv3、魔力回復Lv3

★【エクススキル】擬態、風景同化、根絶支配


装備:なし

ドロップ:プレミアムメイプルポテト、プレミアムメイプルスイートポテト

魔石:特大

*****


「今度は順当に進化したタイプか」

「ん。懐かしい相手」

「ミスティは戦ったことあるのか? ……っと!」


 『レッドメイプルトレント』は俺を認識すると、無数の枝やツルを鞭に見立てて攻撃を開始した。迫り来る無数の攻撃を、俺は剣で迎え撃ったり時折回避を織り交ぜながら、会話を続ける。


「ん。ケルベロスの試練の時に戦わされた。あの時得たドロップはポテト1個ずつだったけど、すごく美味しかった思い出」

「ミスティの話してくれたモンスターはこいつの事だったのか。初めて見たよ」

「その時ミスティのレベルはいくつだったんだ?」

「ん。40とちょっと。でも戦っていた相手は正確にはコイツじゃなくて、緑色のコイツ。強化前だったのもあって、レベルも70くらいだった」

「それでも30近く格上の相手じゃないか。よく倒せたな」

「ん。この子のおかげ」


 ちらりとミスティを見ると、ケルベロスを撫でていた。

 まあ、俺も結構『レベルガチャ』を得た直後は、格上とばっか戦ってた気がするな。それもこれも、スキルのおかげでなんとか乗り越えられてきた。ミスティの場合は、『幻想ファンタズマ』武器であるケルベロスの高威力銃に助けられてきたんだろうな。


「でも、試練の途中って事はEXのスキルは無かったんだろ? 苦労したんじゃないか?」

「ん。遠距離に徹すると、魔法だけじゃなくて妙な技を使ってくるから、大変だった」

「へぇ……」


 それって、エクススキルの『根絶支配』って奴の事か? 今は近接戦だからそういったことはしてくる様子はないようだ。枝やツルはどんなに切り落としても『再生』スキルの影響か、すぐに再生してきてこの攻防は無限に続きそうではある。

 こういう、四方八方から攻撃が飛んでくるのは修行に良さそうではあるが、ちょっと攻撃が軽すぎるし、手数もそんなに多いわけでもなさそうだ。ある程度見れて満足したし、ちょっと距離を置いて見るか。


「こんくらいかな?」


 10メートルほど離れると、奴はビッグストーンボールや、砂塵を放って来た。何度かそれを斬り捨て、目眩ましっぽいそれらの技を捌き終えると、奴は忽然と姿を消していた。


「お?」


 あんな巨大なモンスターを見失うなんてことはあり得ない。隠れるにしても周囲の樹に擬態するくらいしか想像できないが、今まで無かった樹が現れてる訳でもない上に、マップにも映らない。

 本当にどこに……あ。


「そこか」


 頭上からにじり寄って来ていた奴の触手を斬り捨てると、真横に生えていた紅葉の樹が動き始めた。その樹は奴との戦闘以前からそこにあったはずだ。

 となると『根絶支配』は、根っこを通して他の木に乗り移るようなスキルってことかな?


「中々面白い技を披露してくるじゃないか」


 その後、再び近接戦に切り替えた俺は、『紅蓮剣』で全ての枝やツルを焼き払い、奴の全身を燃やし尽くした。


【レベルアップ】

【レベルが114から120に上昇しました】


 これで2匹目。さて、煙はどうかな……。

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