ガチャ506回目:紅葉地帯

 煙は謎だが、考えていても答えは出そうにない。


「……とりあえず、もう1回100匹狩るか」


 以前にもあったように、2匹のレアを同時に討伐するタイプで、有効時間が限りなく大きいタイプと判断した俺は、早速行動に移す事にした。これで変化が無いようなら、また別の事を試してみれば良い。


「時間に猶予が無いかもしれないから、エンキ達4人は左手の方向に進んで30匹ほど討伐してきてくれ」

『ゴ!』

『ポポ!』

『~~♪』

『プル?』

「ああ、ドロップは食べて良いけど、ナマだぞ?」

『プル……プルプル』


 ちゃんと焼いたほうが美味しい事をイリスは知ってるからな。我慢するらしい。ラシャードから奪った魔法の鞄をセレンに渡しておく。


 名称:異次元のポシェット

 品格:≪遺産≫レガシー

 アイテムレベル:40

 説明:異次元の空間にアイテムを収納する魔法の鞄。アイテムレベルに応じて収納量と時間遅延が増減する。


 アイラが最初から持っていた手提げ鞄よりアイテムレベルが2低い上に、ポシェットは口が小さいから巨大な物は入れられないが、小型のアイテムなら入れられるだろう。卵や肉、魔石くらいなら問題はないはずだ。


「エスとミスティは、右手方向に向かってトカゲを殲滅してくれ。数は40くらいでいい。エンキ達も、目標数の討伐が終わったら、来た道を戻って極力戦闘は避けてくれ。それからエスとエンリルには『視界共有』でマップをリンクさせるから、狩りの参考にしてくれ」

「任されたよ」

「ん。行ってきます」


 エスに狩りをさせるのは初めてだが、これできちんとエスに渡したバングルが機能しているかどうかも確認できるはずだ。


「そんじゃ、残りはついてきてくれ。アイラはアイテム回収、マキはマップを常時開いて、あいつらが狩った数を数えていてくれるか」

「畏まりました」

「はいっ、任せてください!」

「ショウタ君、あたしはー?」

「……特にないかも」

「えー」

「では、進行方向にある宝箱を回収するなどどうですの?」

「お、良いわね。それで良いでしょ、ショウタ君」

「ああ、それで良いよ。変な場所に置いてあったらあとで教えてね」


 そうして俺達は各々チームになって行動を開始した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ショウタさん。エンキチーム32体討伐。エスチーム40体討伐確認しました」

「ご主人様、こちらも今ので23体目です」

「2チームとも、現状帰路にモンスターの出現兆候はありません」

「よし、ならこのまま狩る。あと5体だな」


 マップは基本的に俺の視界内ならどこにでも出現させられるという仕様があり、エンリルのマップ埋めでも活用しているんだが、今回はそれを3視点だ。

 3視点それぞれが別々の意思を持って戦闘を行う光景は初めこそ混乱したものの、慣れてしまえばなんのその。エスもすぐに対応して見せたし、エンリルは負担を抑えるために動き回ったりせず、エンキの肩に掴まり司令塔役をこなしていた。


 そして合計100体目の討伐に成功すると、思惑通り『レッドロックタートル』が現れ、それを討伐。


【レベルアップ】

【レベルが114から116に上昇しました】


 そしてカメの全身から煙が溢れ出し……。


「む」


 塊になるでもなく、1個目の煙に融合するでもなくすぐに消え失せた。


「……違ったか」

「消えちゃいましたね」

「消えてしまったんですの?」

「ショウタ君、次はどうしよっか」

「そうだな……。今の現象からして2体以上のレアを条件に次が沸く線は消え失せたな」

「そのようですね。3体以上を必要とするのであれば、そのまま付随する煙が増えるはずですから」

「もしくは、1個目に吸収されたりな。でも、どちらでもなく消えた。そして1個目の煙は残り続けているとなると……」


 考察を続けていると、分かれていた2チームが合流した。


『ゴ!』

「ただいま兄さん。共有した視界で見てたけど、失敗だったみたいだね」

「ああ。だからこのまま、紅葉地帯に移動する。そこで100体狩りを実行しよう」

「ん。わかった」


 そうして進み続けた俺たちは、紅葉地帯へと突入した。前後左右見渡す限りの朱色に染まる世界に、思わずため息が漏れる。

 こんな綺麗な場所、『ハートダンジョン』にあったら絶対人気のスポットになっただろうなぁ。でもここは、モンスターが出るし、その上スタンピード直前の赤色モンスターが蔓延る場所だ。とても安全に楽しめる場所じゃあない。

 どうにかして『ハートダンジョン』に逆輸入できないものかと考えに耽っていると、第一モンスターに遭遇した。


「……ん?」


 いや、当初それは風景の一部だと思ってしまった。それくらい自然にそこにいて、マップで見なければ見過ごしていたかもしれないくらい、その場に溶け込んでいた。


*****

名前:レッドサップリング

レベル:40

腕力:420

器用:480

頑丈:250

俊敏:20

魔力:500

知力:500

運:なし


パッシブスキル】再生Lv1

アーツスキル】隠形、吸血Lv1

マジックスキル】土魔法Lv1

★【エクススキル】擬態、風景同化


装備:なし

ドロップ:メイプルポテト、メイプルスイートポテト

魔石:中

*****


 そこにあったのは全長1メートルほどの小さな若木だった。このサイズでも生い茂る葉っぱは見事に紅葉で、低木なのに葉っぱが赤いから、最初はそういう植物なのかと思ったが……。『真鑑定』で視れてしまった以上、これはモンスターでいいのだろう。


「こんなん、普通見逃すって」


 『初心者ダンジョン』第五層に現れたハイドハンターよりも、見つけにくいモンスターか。多分エクススキルの『擬態』と『風景同化』が原因だろうな。

 俺が気付いた事により、彼女達もマップと照らし合わせて目の前の存在がモンスターであることに気が付いたようだ。


「……え? もしかして、アレですの!?」

「うわ、ほんとだ。モンスターじゃん」

「景色に見惚れていたら、襲われてしまいそうですね」

「初見では、私でも見逃してしまいそうでした」

「アイラですらギリギリなら、割とやばいな。エス、階層解放直後とか、やばかったんじゃない?」

「ああ。当時は枝や蔓に絡まれて逆さ吊りにされる冒険者が続出したそうだよ。ただ、やつが捕えられる人間は1体に付き1人が限度だから、複数人で行動していればさほど問題は無かったよ」


 魔法だけじゃなくて、枝での攻撃もしてくるのか。でも、それっぽい事に使える『鞭術』のスキルが無いから、そこまで脅威ではないのかな?


「なるほどな。ミスティは、ケルベロスの試験の時はアレとも戦ったのか?」

「ん。擬態して隠れてるのを探す名目の試練を受けさせられた。凄く苦労した」

「マップもなしによく頑張ったなぁ」

「ん。もっと褒めて」

「ちなみにその修行ってのは、どれくらい続いたんだ?」

「ん。……たぶん、3日くらい」


 うわ、割と長いな。

 ミスティは思い付きで第一層でバナナをお供えしただけなのに、第二層に似たような特殊フィールドにいきなり飛ばされて、強制的にサバイバルをさせられたんだよな。そんな事に巻き込まれるとは予想してなかっただろうから、何の準備もできてなかっただろう。

 食料に関しては肉も野菜も出るみたいだが、そのまま食うわけにもいかないだろうし……。


「なあ、食事とかはどうしてたんだ? 食材はあっても全部ナマだろ?」

「ん。ケルベロスで生成した弾は、使用したらしばらく消えるけど、それまでは存在してる。だから、火薬を抜いてそれを火種にしたら、焚火ができた。あとは焼いて食べるだけ。なんとかなった」

「すごいなミスティは」

「んふ」


 素直に感心して、沢山撫でる。俺の番が終われば、彼女達からも撫で繰り回されていた。

 さて、こんなに近くで雑談していても襲ってこないという事は、こいつもハイドアタックするタイプか。スキルも美味しいし、じゃんじゃん狩って行くかね!

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