ガチャ504回目:第二層の出現当初

 付近のめぼしい位置にいるレッドロックリザードを殲滅し終えると、ドロップ品の卵や肉を囲って、女性陣が吟味していた。


「卵、大きいですわね」

「ん。リザードのスクランブルエッグはホテルのレストランでも出てた。美味しかった」

「そういえば、大きいのがあったわね。あれがそっか」

「こんな巨大卵を使うとなると、色々とやってみたくなりますね」

「はい。調理の幅が広がります」


 楽しそうで何よりだ。

 にしてもこいつら、一応レッドなんだよな?


「エス。こいつらの卵もそうだが、肉には当たり外れはないのか? 今の所見る限りは、ただひたすらにデカいだけの卵と、普通のトカゲの肉だけど」

「ああ。ハズレアイテムがあるのは第一層だけさ。第二層以降にはそういうのはないんだよ」

「そうなのか。それなら安心……。ていうか、バナナに続いて卵と肉となると、食材ばっかだよな。階層スタンピードの件を除けば、割と食料には困らないダンジョンだったりする?」

「そうだね。ダンジョンがこの町に出現した当初や、2年目に第二層が発見された当時は、住人の誰もが歓迎していたし、ありがたく思えていたよ。だけど、肉も卵も足が速いから、取りすぎるとダメにしてしまうってことで、狩る速度を抑えることにしたんだ。当時はこの地域にいる冒険者達の平均レベルも低かったというのもあって、第二層よりも第一層に重きを置く事にしたんだ。サル連中のレベルも、なぜか上がってしまったからね。そしてそれは、

「……ああ」


 本来のダンジョンが引き起こすスタンピードは、一部の階層で狩りをしていなかったとしてもそこまで大きな問題にはならない。ダンジョン全体の飽和エネルギーが、一定値を超えなければ問題ないのだと、当時の人達も睨んでいたし、実際にそうだったからだ。

 だけどここは、階層ごとにスタンピードの設定がある特異ダンジョン。第二層を半ば放置したことで、階層スタンピードが起きてしまったんだろう。


「あの時は、皆何が起きたか分からず混乱していたな」

「だろうな」

「でも、ケルベロスを手に入れたばかりのミスティが大活躍して、その時はどうにかなったんだ」

「ん。大活躍」

「当時はミスティが冒険者になりたてということもあって、事でこうなったんじゃないかって非難されることもあった。ただ、でもあった事から、ダンジョンが増えた事で階層が増えたんじゃないかって意見もあって、当時は半々だったかな」

「でも、今は皆から慕われてる感じするよな」


 模擬戦の時は、シルヴィから眠り姫なんて呼び名が出てたし、観客からも応援されていた。嫌われたままなら、ああはならない。


「ああ。あの時は階層スタンピードというのがどういうものか、誰も把握できていなくてね。第一回スタンピード事件を乗り越えた街の住人は、今度は第一層を疎かにして第二層を重点的に狩ってたんだ。そうしたらいつのまにか緑が黄色になり、黄色が赤になって……。第二層に集中していた冒険者達は大慌てさ。気付いたら、背後でスタンピードが起きているんだからね」

「黄色になった時点で、第二層の連中を呼び戻せなかったのか?」

「階層の問題で黒柱を設置しても電波は飛ばせなかったし、タイミングの悪い事にその時の第一層での移動方法は切り株式だったんだ。温和な緑から急変した黄色の姿に、誰もが恐れをなして森の中に入れなかったんだよ」

「あぁ……。あの緑の大人しさに慣れると、黄色の攻撃性はビビるだろうなぁ」

「そして赤になれば、殺意の塊だ。主力の冒険者はほとんどが第二層で、もう誰も手出しができない状態になっていた。そしてダンジョンの外では、第二層のスタンピードを受けて急遽壁を設置されている最中で、まだまだ未完成。そんなところに赤いサルが雪崩れ込んできた」


 食材談義をしていた女性陣もいつの間にか話に聞き入っていて、エスの次の言葉を待っていた。


「だけど、その時のスタンピードで、被害は出なかったんだ。たまたまオフの日で羽を伸ばしていたミスティが、その場に居合わせたんだ」

「ん。大活躍」

「その活躍をもって、ミスティを貶める声は激減。その後もミスティは活躍し続け、今に至るという訳さ」

「「「「「おおー」」」」」


 思わず皆で拍手すると、ミスティは鼻高々といった様子でふんぞり返るが、すぐにへにょる。


「ん。でも私が見つけちゃったせいなのは、ほんとう。だから、少しでも頑張らないと」

「ミスティは偉いな」

「ん。偉い?」

「おう、腐らずにちゃんと頑張れて偉い偉い」


 ミスティの頭を撫で回す。


「ん。……ショウタに褒められると、嬉しい」

「話が脱線しちゃったけど、このダンジョンのおかげでこの街の食糧事情は、とても豊かだよ。色々とトラブルは絶えないけどね」

「なるほどね。よくわかったよ」

『ポポー!』


 そうして話し込んでいる内に、エンリルが戻って来た。どうやら、お使いは終わったようだ。


「おかえりエンリル。トラブルは無かったか?」

『ポー。ポポ』


 どうやら霧地帯に関しては、流石に上空にまでは霧が広がっていなかったらしい。特に問題もなく、マップ埋めは完了したようだ。

 マップを開き、それを全員が覗き見る。


「ん。宝箱、いっぱいみえる。楽しい」

「そうだね。それにしても、この階層はこんなに隠されていたのか……」

「えっと……52個ですわね!」

「沢山あるわねー。まあ、全部森だから、その分配置も多いのかしらね」

「『初心者ダンジョン』の第三層も、こんな感じでしたね」

「ご主人様、如何されますか?」

「いやー……別にいらないかな? どうせポーションとかでしょ」


 今まで道中の宝箱から良い物が出た記憶がないしな。


「ん。流石ショウタ。目先の誘惑に惑わされない」

「まあでも兄さんの言う通り、兄さんが欲しがるようなものが出たって話は聞かないかな」

「じゃ、スルーで。100匹狩りをする中で目に入ったら、その時だけ取ろう。……あ、そうだ」


 適当にマップの赤点をタップしていくと、レッドロックリザードは、この第二層の手前に広がる緑の森にのみ生息しているようだ。

 左手の紅葉の森と、右手の霧の森にいる赤点は反応しない。となると、この階層は最低でも3種類はモンスターがいそうだな。

 それがレッド、イエロー、グリーンと続くのか……? ちょっと大変じゃないか……?

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