ガチャ499回目:独裁者

「兄さんを狙った理由か。それは確かに気になってはいた。……まあ、ある程度予測はつくけど」

「ねえ。これ、私も聞いていい話なの?」

「まあシルヴィには俺の能力についてはまだ教えられないけど、今回の件は知っておいてもらった方が良いかなって。エスの未来の奥さんなら、身内みたいなもんだし」

「んふっ。それもそうね!」

「ん。シルヴィちょろい」


 さて、まずはどこから話そうか……。


「ああ、そうだ。話す前に、改めて確認しておきたい点があるんだ。その例の、俺が出会った瞬間敵対確定するような奴の話。そいつが連中のボスってことで良いんだよな?」

「そうだよ。実害が出てしまった以上、後回しにしておける理由は無くなったからね。何から説明しようか」

「まず、そいつの名前から教えてくれ」

「ああ。奴の名はレオグランド・R・アレキサンダー。通称『征服王レオ』、またの名を『獅子王レオ』だね」

「征服王に、獅子王ねぇ……。王なんてついてるくらいだ。そいつはホルダーなんだろ? 支配してるのはどういうダンジョンなんだ?」

「以前増強アイテムの産出地について話したと思うけど、そこが奴のホームになっているんだ。兄さんほど自在にダンジョンの設定を操れてはいないものの、元あった環境からかなり改造を施してあるみたいで、奴は好き勝手に増強アイテムを量産しているんだ。使用制限の事故も奴の身内で起きた事なんだけど、そんなデメリットを差し引いても、増強アイテムは誰もが欲しい劇薬だ。そんな物を自在に産出できる権限を一個人が持っている状況は、どれだけ危険か……。兄さんならわかるだろう?」

「ああ。普通の人間が持っても手に余るくらい危険なのに、野心がある奴が持ったら手に負えないだろ」


 日本には『ハートダンジョン』という似たような環境があるけれど、あそこについてはこっちに出発する前に、義母さん達に『黄金の実』の情報と一緒に、管理とその調整をお願いしてきたんだよな。あの人達なら信頼できるし、その辺りは慣れてるだろうから安心して任せられる。

 だが、こっちはその征服王だかが政府や協会に権利を渡さず、自身で管理している訳だ。そうなってくると、そいつの元には莫大な資金の他に、その力にあやかろうと無数のハイエナが山程集まっているって訳だ。あの兄弟もそういう類のもと、集まった賛同者の一部みたいなもんだろうな。

 一瞬見えたあの兄弟のステータスも、レベル300ちょっとの割には異常にステータスが高かったもんなぁ。レベルからくるオーラはうちの彼女達より下なのに、ステータスからくる圧力の気配は上っていう、なんだかチグハグな感じだったのはそれが理由か。


「おかげで、征服王が支配しているダンジョン周辺地域はアイツの独裁領土みたいになっていて、誰もアイツには逆らえないのよ」


 シルヴィが吐き捨てるように言う。

 普通そんなやつは、真っ先に周囲から叩き潰されそうではあるが……。利権やらなんやらで、周りが勝手に守ってくれてんのかな。もしくはそれも計算して周囲を固めてるとか、本人も手に負えないくらい強いとかか。

 他にも潰せない理由があるとすれば……。例えば、そいつでなきゃそのダンジョンを攻略できない何かがあるとか……かな? 俺で言うところの『運』が飛びぬけて高いとか。

 でも通り名的に、そいつの得意分野は『運』というよりも『腕力』とか個人的な強さにありそうではあるよな。なんたって、獅子だし。


「ん。あいつの支配地域は近付きたくない」

「その上、部下も悪辣だけど、アイツ本人もかなりいやらしい価値観というか嗜好をしててね。すっごい貪欲な上に、人の物ほど欲しがるのよ」

「……つまり?」

「他人の所有する物も財産も、恋人やパートナーすら欲しがる欲深い奴なのさ」

「うへぇ」


 なるほど。それでか。

 出会い頭に殺しに行くって話になるのは。


「まあ欲しがるだけなら可愛いもんだが……。エス達の反応を見る限り、実際に奪いに来るんだな?」

「そうさ。それも相手の意志なんてまるで無視するから質が悪い」

「なるほど。……てか、その話はラシャードと違って皆知ってるというか、確度の高い話なんだよな? それだと『裏決闘』は使ってないって事になるのか……?」

「ああ、確かに言われてみればそうだね。奴は、人の物を奪うときは金や暴力も惜しみなく使う上に、Sランクの権限なんかも使って無理やり奪っていくんだよ」


 なるほど。そりゃ反吐が出るほどにゴミ野郎だな。

 てか、Sランクってそんなことできんの? ちらりとうちの彼女達を見たが、皆が首を横に振った。……もしかしてこの国限定の仕様とか、もしくは揉み消しに使ってたりすんのかな? どっちにしろクソだが。


「んじゃそいつは、他人の女なら問答無用で欲しがるのか?」

「いや、対象となるにはまず、奴のお眼鏡に適う必要がある。だから、誰でも良いって訳じゃないみたいだよ。ただ、今まで奴が奪っていった女性達の傾向を見るに、見目の良さは基本として、本人の強さか、もしくは意志の強さがあればあるほど好むみたいだ。だから、兄さんの恋人なら、誰であろうと100%狙われるね」

「ふむ。……じゃあ、ミスティも元々狙われてたりしたのか?」

「ん。公的に迫って来てた。でも、ショウタとの関係は一応まだ非公開。だから、それを公開したら、アレはブチギレると思う」


 なら、彼女達の事が知られてちょっかいを出される以前に、そいつとはもう戦う事になるのは確定事項だった訳か。


「まあ安心しろ。俺はお前を手放すつもりは微塵も無いからな」

「ん。嬉しい」


 甘えてくるミスティをわしゃわしゃする。

 ……いや、待てよ? その条件で考えるなら、この場にもう1人該当者がいるよな?


「ああ、そうか。それでお前、今までシルヴィに手を出さなかったんだろ」

「う゛っ」


 エスは痛いところを突かれたように、思いっきり顔をしかめた。シルヴィは意志の強そうな子ではあるし、そこに『Sランクのエスの女』という付加価値が加われば、征服王からすれば獲物として狙われやすくなる可能性があったわけだ。

 そんな状況だったから今まで煮え切らない反応を返してたんだろうけど、先日ようやく彼女を迎え入れたのは、その征服王とやらと戦う決心がついたというのもあるんだろう。けど、俺が近くにいるからというのも大きそうだな?


「……ああー、はいはい。そういうことね? エスは随分と俺を頼りにしてくれてるんだなー?」

「し、仕方ないじゃないか。それくらい奴は面倒かつ手強い相手なんだ」

「まあ弟に頼られちゃ、お兄ちゃんは頑張らないといけないよな~」

「でも、僕だって戦う覚悟は決めたんだ。だからもう、逃げたりなんてしないよ」

「ああ、期待してるよ」


 ミスティもそうだが、同じSランクでも怖がるって、どんだけ厄介なんだ、そいつは。能力的な相性でもあるのかね……。つーか、最初に付き合ってた2人が別れたのも、が原因だったりしないよな?

 ま、聞きたいことは聞けたし、そろそろ奴らの襲撃目的を伝えようかな。


「ま、そんな性格してるんなら、内外に敵を作りまくってる訳だ。その話が前提とするなら、連中が俺に手を出してきた理由もわかるかな」

「そうなのかい?」

「ん。教えてショウタ」

「単純な話さ。あの兄弟が攻めてきた理由は、『征服王レオ』を打倒して、自分達がその支配者の座を奪い取る為だ。『裏決闘』で俺の全てを奪う事で、結果的にSランク3人分の力が手に入るんだからな」


 まず襲撃が成功すれば、Sランクに上り詰めた正体不明の俺のスキル、もしくはその入手方法が手に入る。次に兄弟分として懐くエスとの人間関係は無理だったとしても、恋人関係にあるミスティが手に入ればどうとでもなると踏んだんだろう。

 エスとミスティの関係は公表されてなくても、俺達を直に見ればその関係は明白だろうしな。


「まあ実際、ミスティが人質に取られたところで、エスなら気付かれずに2人を暗殺する術はあるように思えるがな」

「はは、まあそうだね」

「ん。欲に目が眩んだ奴は視界が狭い」


 あとは、俺は所詮他国の人間だから選ばれたのもあるだろう。

 自国のSランクに手を出せば、後々征服王を倒したとしても、周囲が五月蠅くなるだろうが、俺の見つけた『楔システム』が自国でのみ有効に働くのなら、話は変わってくる。そうなったら、世界の覇権を握ったと言っても過言ではない。第二の暴君の誕生な訳だ。

 俺の立ち位置を奴らに乗っ取られていたらと思うとゾッとする話ではあるが、奴らにはいくつも誤算があった。


「ま、一番の誤算は、俺がスキルなしでも戦えたってとこだろうな」

「ん。ショウタはすごい」

「僕もミスティも、そういう意味ではまだまだ未熟だもんね」

「じゃあ今度、一緒に修行するか?」

「ああ、付き合うよ」

「ん。置いてかれないようがんばる」

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