ガチャ494回目:光なき世界

 2人は、スキルを使えない状況に焦っている様子だった。

 今までは相手が混乱している内に畳みかけ、有無を言わさず戦いを持ち掛ける事で、相手に賭けをさせる前に押し通してきたんだろうが……。


「俺が今までどれだけ死線を潜り抜けて来たと思ってる。お前らの戦略なんて、端から危険とすら思ってないんだよ」

「てめえ……!」

「アニキ、スキルもなしにどうやって勝てば……」

「狼狽えるなスウェン! 俺らにはまだこれがあるだろうが!」


 そう言ってラシャードは懐から毒々しい色合いの矢を取り出した。

 それが何かは視れないので詳細はわからないが、耐性スキルもない今、あれをまともに受けるのはよろしくないだろうな。


「おお、それなら!」

「スキルが封じられてもアイテムは健在なんだ。今まで蓄えて奪ってきたアイテムがあれば負けはねえ! 食らえや『ニュービー』!」


 ラシャードは弓を番え、毒々しい矢を放つ。その動きはお世辞にも上手いとはいえず、精細さに欠けたものと言えた。だが、ステータスがある分狙いはしっかりとしており、真っ直ぐにこちらへと飛来してくる。

 その軌道は俺の心臓を狙っていたが――。


【エネルギー値 +18000】


 軌道さえ読めれば、ただの弓矢なんてなんのその。俺は『魔石変換器』で待ち構え、飲み込ませた。奴らの手元に攻撃に使えるアイテムがあるように、俺の手元にだってアイテムはあるわけだ。魂だけの世界のはずなのに、武器やアイテムがあるのはなんかおかしな感じもするが、まあスキルが作り出した別空間だし、そういうこともあるのだろう。

 そして俺が持つアイテムの中で、現状使えるのはこれくらいしかないのもまた事実。攻撃系のアイテムなんて、必要がないから今まで持とうと思った事すらなかったよなぁ。

 しっかし、1発18000か。すげーポイントだな。


「緑バナナで言うと9本分じゃん」


 いや待てよ?

 そう考えると少ないかもしれないな?


「てめえ! な、なにをしやがった!?」

「なに。珍しそうなアイテムだし、それを斬り捨てるのも勿体ないだろ? んで、避けて破損させるのもアレな話だ。だから、エネルギーに変えさせてもらったよ」

「意味わかんねえこと言いやがって……!」

「それなら、これでも食らいやがれ!」


 最初のスキル有りの攻撃で力の差を分からされた影響か、連中はそれからというもの、近接戦闘は挑まずに、色んな種類の攻撃アイテムを仕掛けて来た。弓や銃、爆弾やナイフ、果てには呪われてそうな禍々しい物や、よくわからない見た目のアイテムまで。

 その全てが悉く『魔石変換器』に飲み込まれ、ポイントへと変わって行く。驚いたのは、明らかに『魔石変換器』の口よりも大きなアイテムでさえ、俺が『吸い込め!』と念じた物はきちんと吸い込んでエネルギーに変えてくれたことだった。

 ガチャ産のBRアイテムだし、直感的にイケるんじゃないかと思ったんだけど、上手くいって良かった。

 最後の方には投げつけるアイテムが無くなって来たのか、攻撃用とは思えないアイテムまで投げつけて来たので、良さそうなものはキャッチした上で懐にしまい込んだが。流石に、さっきの天秤とかを吸い込むのは気が引けたからな。

 他にもいくつかくすねる事ができたし、俺としては大満足だな。


「おーい、もう終わりかぁ?」


 肩で息をする兄弟に向かって俺はゆっくりと近付く。

 やっぱ、スキルに頼ってばかりじゃ駄目だよな。普段から意識して戦いに備えていたお陰で、俺もスキル無しの状態でもバランスを崩すことなく戦えた。アイラが行う数々の修業も、結果が出てくると文句も言えないよなぁ。

 まあ、楽しい修行ならともかく、マジモンの苦行も中にはあったから、いくら糧になるとしても再戦は願い下げだが。


「ちくしょう、なんでこんな事に……!」

「ヒィィ! こ、殺さないで……!」


 『決闘』は相手が死ぬまで続くんだ。だから『裏決闘』も似たようなもんなんだろ。


「諦めろ」

「ううぅ……」

 

 ここで、抜け道があったのなら奴らは喋ったんだろうけど、この様子を見ると本当に相手が死ぬまで続くのは事実みたいだな。

 しっかしまぁ『裏決闘』が、一方的に相手のモノを奪うような強引なスキルじゃなくて本当に助かった。もしこれが平等性の欠片もなく、一方的にスキルを封じられた状態で戦いを強要されていたとしたら、流石の俺でも苦戦しただろうし。

 まあそうなったとしてもやられる気はまるで無いがな。

 だって『統率』が無くても、俺の『頑丈』は18000もあるんだから。そんなボス顔負けのステータス相手に、こいつらの攻撃がまともに通るとは思えん。


「じゃあこうしようか。今回の計画について、どういう経緯でどういう意図があって実行したのか、素直にゲロってくれるなら……。後遺症が残らないように対処してやる」


 うちの家族に手を出すと言ってきた時は本気でムカついたが、こいつらはこれから、今まで溜め込んできた全てのスキルが奪われるんだ。そんなの、死刑よりも重い罰になるだろう。そうなればきっと、今まで奪ってきた者達から容赦のない報復を受けるだろうからな。それが本当の罰になるだろうし、その後の事は俺は知ったこっちゃない。

 俺が『裏決闘』について詳しそうな雰囲気から何かを察したのか、連中はここを出られると思ったらしい。

 ポツポツと今回の計画を喋り始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「以上だ……」

「そうか」


 連中の話を聞いていて、気になった点があった。

 どうやら『幻想ファンタズマ』持ち相手に襲い掛かるのは初めての試みらしく、本当に奪えるのかは分からないという話だった。ソレを奪いに来たくせに随分とお粗末な話ではあるが、連中のトップがホルダーであることを思えば、配下の連中も『幻想ファンタズマ』は各種1個ずつしか存在できないことを知ってるはず。

 だから、例え『裏決闘』でスキルを奪えなかったとしても、殺す前にスキルの獲得手段さえ脅して吐かせておけば、あとは持ち主を殺す事で再入手できると踏んだようだった。まあ、それをしたところで『レベルガチャ』の再入手が常人にできるかと言うと、甚だ疑問ではあるが。

 ……一応試してみるか。


『ゴトッ』


 イメージすれば、目の前に『レベルガチャ』の筐体が出現した。

 まだこいつらとの勝負がついていないにも関わらず俺の前に現れたという事は、賭けの対象には選ばれなかったという事だろう。まあ『裏決闘』は『伝説レジェンダリー』だもんな。そりゃそうか。

 その結果に満足し、筐体を収納していると、沈黙に耐えられなかったのかスウェンが口を開く。


「これで教えられることは全部話した! だから、俺達を現世に帰してくれ!」

「本当にお前らのボスの事は話せないのか?」

「何度も言ってるだろう! 誓約書のせいで、少しでも話せば命に関わるんだよ!」


 やっぱり駄目か。こいつらの目的は全て聞き出せたが、ピラミッドの頂点に君臨するボスの事を喋らせることはできなかった。まあ、今回の襲撃がと知れただけでも十分か。

 しっかし『誓いの誓約書』は、レア度の高い物を使用すると命まで縛れるのか。怖い話だ。


「わかった。なら今、介錯してやる」

「……え?」

「こ、殺さないって約束しただろうが!?」

「後遺症が残らないように対処すると言っただけだ。俺は『裏決闘』自体初めてだし、これが正解かもわからん。だが、楽には死なせてやる」


 俺の言葉にスウェンは青ざめ、ラシャードは怒りを込めた目で睨みつけてきた。


「う、うわああああ!?」

「クソッ、『ニュービー』!!」


『斬ッ!』


 逃げ出すスウェンと、一矢報いようとするラシャード。

 相反する2人の首を、俺は一思いに撥ね飛ばしてやった。


「「……」」


【勝敗が決しました。勝者に賞品が贈られます】


 物言わぬ屍となった2つの肉体は、まるでモンスターと同じように煙となって行き、俺の中に全てのスキルが戻って来る感覚もやってくる。これで一安心だな。

 そして煙が晴れたそこには、無数のスキルオーブと魔法の鞄が2つ現れた。


「あれ? アイテムは賭けの対象ではなかったはずだが……。まあそもそも、本来向こうにあるはずのアイテムがこっちにある時点でおかしいし、今更か」


 考えても仕方がないし、ありがたく貰っておこう。

 俺は地面に散らばったそれらすべてを回収すると、再び通知が表示された。


【清算終了。現実世界に帰還します】


 漆黒の壁に亀裂が走り、来た時と同じく身体がフワリと無重力空間のように浮かび上がった。慣れない奇妙な感覚を受け入れ目を閉じるが、俺の手には初めて人を手に掛けた感触だけが残っていた。

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