ガチャ495回目:精神疲労

「ショウタさん!」

「ショウタ君!」


 目を覚ますと、皆が俺を囲んで心配そうに見下ろしていた。


『ゴゴ~』

『ポポ』

「旦那様っ! 良かったですわ、お目覚めになられたのですわね!」

「ん。心配した」

「ご主人様。どこか痛むところはございますか?」

「……強いて言えば、心かな」

「「「「「!?」」」」」

「皆ごめん、心配させたね」


 半分は彼女達を心配させてしまった点。もう半分は、先程の感触がまだ手に残っている点だ。だが、俺の言葉に彼女達は相当ショックを受けたらしい。


「ショウタさん。今日はもう探索は切り上げて、今すぐ帰りましょう」

「そうですわ。第一層は終わったのですから、第二層の確認はまた今度で良いと思いますわ」

「……そんな酷い顔してる?」

「ええ。とっても悪いわ」

「全力で甘やかしたくなるくらいには酷い顔で御座います」

「ん。休息は大事。なんなら3日ぐらい休も?」


 ミスティの発言に同意するように、彼女達がうんうんと頷いた。そんなにか……。

 ゆっくりと上半身を起こし、周囲の様子を伺うと、エスがラシャードとスウェンを縛り上げていた。縛り上げられている2人は、意識があるのかないのか、どこか虚ろな表情をしていたが……。とりあえず死んではいないみたいだな。あれが魂が摩耗した状態か。

 生きてるとは言えない気もするが、あれは時間で回復するんだろうか? 奴らの被害者が現在どうなっているかでその辺りの判断が変わってきそうだな。

 俺は皆を順番に抱きしめて宥めたり慰められたりした後、いつも通り1番落ち着いているアイラに現状確認をする事にした。


「アイラ、俺が倒れた後どうなった?」

「はい。ご主人様が倒れると同時にあの兄弟も意識を手放し倒れ込みました。続けて、少し遅れて連中に付き従っていた女性達も気を失いました」

「……今は全員起きてるみたいだが」

「はい。ですが少し混乱しているようで、戦う様子が見られない為一旦放置しております」

「……なるほど」


 彼女達も恐らく被害者だろう。奴らは俺と戦うときに、賭けの対象に俺の人間関係を対価に求めて来た。つまり彼女達もまた、過去に俺同様勝負を挑まれ、全てを奪われた、誰かにとっての大切な人達なのかもしれない。

 時間差で気絶したという事は、奴らのスキルも賭けの対象にしたタイミングかな? 『裏決闘』の所有者が宙に浮いた事で、奪われていた関係も一瞬途切れたという事か。あのまま奴らが勝利すれば再度関係が結び直されていたのかもしれないが……。今は考えたくないな。


「彼女達も被害者だ。可能な限り丁重に扱ってやってくれ」

「畏まりました」


 しっかし『裏決闘』か。考えれば考えるほど危険なスキルだな。

 勝負に敗れた相手は、一時的にか永久的にかは知らないが、半ば廃人化するのは目の前の2人を見る限り間違いない。こうなったら、奪われたことに文句も言えなくなるわけだ。もしこの後正気に戻るとしても、その前に例の誓約書なり、それに近いものにサインを書かせて縛ってしまえば、もう何も言えなくなるだろうし……。

 うん、考えただけでも胸糞だな。

 そう思考していると、こちらに気付いたエスが安堵した表情を見せ、こちらにやってきた。


「ああ、兄さん。良かった、目が覚めたんだね」

「ああ。……そいつら、しょっ引くんだろ? 一度帰ろうか」

「良いのかい?」

「今日はもう、そういう気分じゃなくなったしな」


 第一層はしばらく安全なのは確実だし、今日1日休んだ所で問題はないだろう。

 女性陣は俺の言葉に安堵したらしく、賛成してくれた。こうなるとあとはいつもの様に彼女達がくっついてくるのだが、今日は少し違った。

 真っ先にやって来たのは、俺とは一心同体であるエンキ達だった。


『ゴゴ。ゴゴ』

『ポポ~』

『~~♪』

『プル』

「ああ、そうだな。おいで」


 エンキは腕の中、エンリルは肩、セレンは背中、イリスは頭の上。

 各々がベストポジションに陣取った。


「寂しかったのか?」

『ゴ~……』


 どうやら、兄弟がスキルを賭けの代償に載せられて女性達が束縛から解き放たれたのと同様に、エンキ達も俺の『魔石操作』が一時的に失われた事で、俺との繋がりがロストしていたらしい。

 幸いにも維持魔力は彼らが蓄えていた分があったため、短時間リンクが外れていても支障はなかったみたいだが、今までになく不安を感じていたらしい。彼らはいつになくべったりと引っ付いて、離れる様子は無かった。

 あと、短時間でも失われたということは、『魔石操作』は『幻想ファンタズマ』ではないというのは大きな発見かもしれないな。だって、エンキ達の存在は、俺だけの独自スキルじゃない可能性が出て来たんだから。


「分かった、兄さんの判断に従うよ。それじゃあ君たち、まだ混乱してるだろうけど歩けるかい?」

「はい……」


 エスは女性達にそう声をかけ、風の力を使って動かない兄弟を宙に浮かせた。どうやって連行するのかと思ったが、そうするのか……。

 悠然と進むエスの後ろを被害女性達が歩き、さらに後ろをエンキ達にくっつかれた俺、そしてどうやって俺を元気づけるか相談する彼女達の並びで移動をし始めた。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇



 ダンジョンを脱出し協会に到着すると、エスは早速警備の人間に未だ放心状態の兄弟を預け、シルヴィを呼んだ。

 事情を聞いたシルヴィはすぐさま女性達を保護し、俺達を落ち着ける場所へと案内してくれた。場所は協会の会議室ではなく、上層にあるホテルに併設された休憩室のようで、ささくれ立っていた俺の心も少し落ち着きを取り戻した。


「ちょっとうちのボスを呼んでくるから、ここで待っててね!」

「僕も行くよ」


 そう言って2人は出て行く。


『ゴゴ』

「ん、もう良いのか?」

『ポ』


 道中、俺に沢山撫でられて満足したのか、エンキ達は離れていき、代わりに彼女達がやって来て俺の心を全力で慰めようとしてくれた。

 膝枕なりマッサージなり、いつもの俺ならすぐに蕩けているところだが……。今日はあまり集中できないでいた。

 

「ショウタさん、力加減はどうですか?」

「ショウタ君、どう? 気持ち良い?」

「ん。きっと極楽」

「ですが、顔色はよくなりませんわ」

「それだけの目に遭ってしまわれたのでしょう」


 今まで、モンスターみたいなレッドカラーの連中には、殺意を抱いたこともあれば、心から殺してやりたいと思ったことはあった。その場にいた仲間に、それを告げたこともあった。

 だが、それはよくある冗談のようなものでもあり、いざ実際に手を掛けたのはこれが初めてだった。結果的に相手が生きていたとしても、やっぱり人間の首を落としたあの感触は本物だったわけで。

 正直言って今、時間が経てば経つほど、してしまった物事の重大さに身体が震え、何も考えたくないレベルで疲弊し始めていた。


『ゴ! ゴゴ』

『ポポ』

「お前達……」


 心が繋がっているからこそ、彼らは俺の悩みなんて筒抜けなんだろう。『こういう時は、いつものように彼女達に思いっきり甘えるべきだ』。そう彼らに諭されてしまった。


『~~♪』

『プルル』

「……だな。皆、聞いてくれるか? 俺はあの時、何に巻き込まれて、何があったのか」

「もちろんです!」

「聞かせてちょうだい」


 そうして俺は、中で起きた一連の流れをかいつまんで説明し、心情を吐露した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 不安に思っていたことを吐き出したことで、心の中に燻っていたわだかまりも少し解けた気がする。やっぱ話すって大事だな。


「もう、そういうのは我慢しちゃダメよ。溜め込んだって良いことはないんだから」

「辛い時は辛いと仰って下さい。私たちはそのために、あなたのそばにいるんですから」

「旦那様。何があってもわたくし達がそばに居ますわ。それを忘れないでくださいませ」

「ん。ずっと一緒」


 心の弱った俺を、彼女達は優しく解してくれたのだった。

 そしてアイラはというと、無言で俺の手を取って自分の胸に押し当てた。柔らかい。


「……何してんの?」

「不安を感じた時、安心感を得るにはこうするのが一番です。落ち着きましたか?」

「……まあ、多少は」

「それはようございました。ではこのまま、おぎゃってみますか?」

「おぎゃらない」


 メイド服を脱ごうとするアイラに待ったをかける。

 相変わらずのアイラ節にツッコミを入れるが、これもある意味俺の気を紛らわせるために取った行動だろう。……でもアイラの事だしな。

 他意は……ない、はず。たぶん。きっとそう。

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