ガチャ493回目:強奪者
「今度はラシャードか。一体僕たちに何の用だい? ここは君たちのボスの管轄外だ。あまり大きな顔で好き勝手されても困るんだけど」
こいつがいることは事前に把握していたが、エスはそれをおくびにも出さず、半身をそちらに向けた。ミスティも完全にケルベロスのグリップを握っている。
どうやら、こっちの兄のラシャードは、弟なんぞよりも2人の警戒度が高い相手なんだろう。まあこっちの方はランクがA+だったしなぁ。それなりに強いんだろう。
だから2人も、俺たちを守るためにあえて前に出てくれているのかな。その気持ちはありがたいが、俺はこいつらがやろうとしていた事にめちゃくちゃ興味があるんだよな。今の所そこまで俺の『直感』も危険信号は出してないし、少し好きに動かしておきたい。
そう思った俺は、2人の肩を掴んで少し下がらせた。
「へっ、うちのボスが怖くて今まで何も言えなかったガキが、急に強気じゃねえか。それだけ、この日本からのお友達の存在が心強いのかぁ?」
「うるさいよ。それよりも目的を言え。なぜお前たちがここに来ている。
「……ふん。答える義理はないな。スウェン……その様子じゃ駄目だったか」
「すまねえアニキ、妙な力で俺の能力が弾かれちまった」
「そうか。まあ弱小の日本とは言えSランクだしな。多少は防壁の心得はあるか。おい!」
ラシャードが合図をすると、侍らせていた女性の1人が鞄から何かの道具を取り出した。出て来た道具のサイズからして、明らかに鞄の容量を超えている。間違いなくあれも『異次元の~』系統……通称『魔法の鞄』なのだろう。
こっちじゃA+ですらアレを当たり前のように持ち歩いてるのか。そりゃ、『魔法の鞄』は超希少な存在と崇めてる日本とじゃ、道具面でも持っている情報面でも、色々と格差がありそうだよなぁ。
とりあえず、
名称:技能の天秤
品格:≪伝説≫レジェンダリー
種類:アーティファクト
説明:ダンジョンNo.500に埋葬されていた秘宝の1つ。対象とレアリティを指定することで、その相手が該当のスキルをいくつ所持しているか判明する。いかなる防護手段もこのアイテムの前には無効化される。
ほぉ……?
「『対象:ショウタアマチ。指定レアリティ:ファンタズマ』!!」
『ガコンッ!』
天秤の片方に虹色に輝く光の珠が現れ、大きく傾き『1』と表示された。あの輝きに加えて、あそこまで巨大な存在感を持つスキル。あれは紛れもなく『レベルガチャ』だ。持ち主の俺がそう思うんだから間違いない。
念のため自分のステータスを確認するが、『レベルガチャ』が喪われていたりはしないようだった。
「へへっ、すげえ。すげえぞ! こいつ、情報通り本当に『
「兄さん」
「分かってる。絶対に逃すな」
エスとミスティが散開し、奴らを囲い込むような位置に陣取った。しかし、こいつらは本当にコレだけがしたくてここまで来たのか? 俺が『
それだけが行動理由とするのは、敵対的行為の危険性からして天秤が釣り合ってない気がするんだよな。罰を受けたらそれまで。そして戦力差を考えれば負け確だろう。
なのになぜ、わざわざこのタイミングで攻めてきた?
「ア、アニキ。そろそろ」
「おっとそうだった」
天秤を収納するラシャードに、俺は剣を向けた。
「おい。それを知られた状態で逃すと思うか?」
「そのアイテムの出所もそうだけど、色々と聞きたいことがあるからね」
「ん。3人のSランクから逃げられると思わないで」
「ア、アニキィ……」
「へっ、どいつもこいつも本当に甘ちゃんだな。お前らには覚悟が足りねえ。敵だってんなら、真っ先に手足をぶった斬ってからでも話はできんだろうが」
「む」
確かにそうか。ランク至上主義のこの国で、下位ランクが上位ランクに向かって明らかな敵対行為を繰り返してるんだ。こっちには『回復魔法LvMAX』もあるわけだし、やろうと思えば四肢欠損状態でも元の手足さえあれば元に戻せるかもしれないもんな。
そんなグロいことをうちの彼女達にやらせたくなくて選択肢から除外してたけど、こういう連中相手なら四の五の言ってられないか。
エスとミスティはそんなこと分かってるって顔だけど、多分俺に気を遣ってくれていたのかな。
「助言ありがとうよ。それじゃ早速だけど、試させてもらっていいか?」
「残念だが時間切れだ。……『俺とスウェンは、ショウタアマチに裏決闘を申し込む』!!」
瞬間、俺の視界は暗転し、全身の力が抜ける感覚に襲われた。身に覚えのある現象に『ゴブリンヒーロー』の存在を思い出していると、無重力空間に放り出されたかのような感覚に襲われ、黒い壁に覆われた世界に放り出された。
「……なんだ、ここは」
その世界にいる住人はたったの3人。俺と、ラシャードと、スウェンだけ。
近くにエスやミスティ、彼女達の姿はなく、気配もオーラも検知できないでいた。マップを開こうとしても反応はない。マップの存在しない空間なのか?
さっきの脱力感は、恐らく『統率』の範囲外を意味しているんだろう。奴は今のスキルを『裏決闘』と言っていた。ならば『決闘』と通ずるところはあるんだろうが……。一体どういうところが裏なのか、調べる必要があるな。まずはこの世界を覆っている漆黒の壁だ。
「『真鑑定』『真理の眼』」
名称:裏決闘Ⅱ
品格:≪伝説≫レジェンダリー
種類:スペシャルスキル
説明:所有者は相手を指定する事で効果発動。自身と指定した相手の魂を専用フィールドに召喚する。専用フィールド内では互いに賭けるものを宣言し、勝利する事でそれを奪う事ができる。60秒経過しても宣言をしなかった場合、賭けを放棄したと見なされる。
★宣言された能力はこの空間内では使用不可能となる。
★裏決闘で死亡しても現実世界の肉体に影響はしないが、魂は消耗する。
★消耗した魂の回復は困難を極める。
『品格』が高いのと、直接スキルオーブで視たわけじゃないからか、『真鑑定』のみだと詳細画面が完全に弾かれそうになったのも驚いたが……。なるほど、これは凶悪なスキルだ。フィールドの中央にはカウントが表示され、現在の秒数は34。今33に減ったか。
これを使って相手の全てを奪い、力でねじ伏せ、魂を痛めつけ何も言えないようにすると。完全犯罪の完成という訳だ。
念のためこいつらの能力も見ておくか。
「『真鑑定』『真理の眼』――」
「俺はショウタアマチが持つ、全てのスキルを頂く!」
「俺はショウタアマチが関わる、全ての人間関係を頂く!」
「!?」
【賭けが成立しました。対象のスキルが全て封じられます】
【賭けが成立しました。対象の人間関係が全て報酬にプールされます】
奴らがそう宣言した瞬間、『真鑑定』で覗いていた相手の全てのステータス画面が消失した。そして今まで以上に全身から力が喪われて行く感覚と共に、ぽっかりと胸に隙間ができたような感覚を覚えた。
それにしても、スキルのどれか1つと言わずに、全部を対象にできるだと!? 文字通り賭けの対象となった事で、俺のスキルは全て使用不可能になった訳だ。
その上スキルだけでなく、
「はははっ! どんなベテランだろうと、スキルを使えなくなれば混乱する! 畳みかけるぞ、スウェイ!」
「おう、アニキ!」
「ふぅー……」
奴らは、俺の大事なスキルだけでなく、大切な家族を奪うつもりだという事だ。
「命まで取るのは許してやるべきではという感情が、たった今、塵になって消えた」
スキルを使って全力で疾駆してくる相手に、俺は今まで培ってきた経験を全開にし、剣を2本とも抜刀。
慌てず軌道上に剣を置き、太刀筋を合わせた。
『ガキン、キィン!』
「くっ、スキルを奪ったはずなのに、なぜ合わせられる!? それに、何だこの力は!?」
「アニキ、きっとまぐれだ!」
よし。『二刀流』のスキルが喪われたからといって、今まで修練を重ねてきた時間が無くなった訳ではない。そして『レベルガチャ』を使い続けた事で増強して行った天井知らずのステータスも、そのままだ。
これなら俺は、戦える!
そして相手は、この空間ならいくら殺しても現実では死なないんだ。
なら、彼女達を抱きしめるこの手が、血に染まる事もない。安心して、徹底的に殺してやれる。
だが、その前に……。
現在のカウントは、8か。相手が狼狽えている隙に、やっちまうか。
「俺は、ラシャード・H・ノーマンと、スウェイ・B・ノーマン。2人が持つ全てのスキルを頂く!」
【賭けが成立しました。対象のスキルが全て封じられます】
「何!? お前、なぜ『裏決闘』の使い方を知っている!!」
「そりゃ、お前らがさっき実演してくれたからな」
「その力も異常だが、そもそもスキルを奪われた直後にもかかわらず、なぜそんなに落ち着いていられるんだよ!?」
「当然驚いたが……まあ、その話はいい。これでお前らも、スキルが使えないよな?」
「「ぐっ……!」」
さーて、どう料理してやろうか。
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