ガチャ492回目:暴露者
「おい、エス」
「なんだい兄さん」
「コレは世界から消しても問題はないか?」
「そうだね……。何もなしに手を下せば貴重な戦力がどうのとやっかみを受けるだろうけど、このダンジョンを制覇してしまえば今度は兄さんが支配者だ。誰も文句は言わないと思うよ」
「……悪くはないが、こいつらと同類になるのは避けたいとこだよな」
「ははっ、同感だね。この男は、兄さんが手を汚すほどの価値もないよ」
わざと聞こえる声量で、かつ英語で話したからか、スウェイは今にも手が出そうなくらいプルプルと震えていた。煽り耐性なさすぎだろ。まあ下位ランクの冒険者じゃ手が出せない相手だろうし、同ランク以上もこいつが妙な能力を持っている事は知ってるもんな。そりゃ、何されるかわからん以上、余計なちょっかいはいれられないか。
そのせいで、こいつは自尊心ばかり膨らんでいったみたいだが。
「エスはともかく、そこのお前! 日本のSランクだかなんだか知らねえが、この国にお前の味方はいねぇ! 調子に乗ってると痛い目見るぞ!」
「うるせえ雑魚。A+にすら到達できない奴がでかい口叩くな」
エスから貰った資料によれば、こいつのランクはAだった。犯罪者みたいなやつでも、それくらいのランクはもらえるらしい。こっちの国じゃ、人格はランク査定の対象外みたいだな。もしくは、上に立つ奴のおこぼれか。
「くっ……! お前、名前はショウタアマチだそうだな!」
「黙れカス。人の名前を聞く時は自ら名乗れドアホ」
「ぐっ……!! 『ショウタアマチ、貴様のスキルの秘密を教えろ!!』」
ゾアッ!
奴から嫌な空気と魔力が解き放たれた。
それと同時に薄っすらとした魔力の糸が奴の口から勢いよく飛び出し、俺に向かって伸びて来る。その糸は音もなく俺の中へと侵入し、俺が抱える秘密が頭の中に強くイメージさせられる。
「ぐっ!?」
頭の中に浮かんだのは『レベルガチャ』。そのスキル名、スキルランク、スキルの効果、特異性。
俺はその秘密を口にしなければならないという焦燥感に駆られ、口を――。
「……喝ッ!!」
ブツッ!
気合と共に叫ぶと、奴から伸びていた魔力の糸が引きちぎられ、俺は正気へと戻った。
「なにっ!?」
「ふぅー……。どうやら、今のがお前の得意技のようだな」
「貴様、どうやって抜け出した!?」
今のは『克己Ⅱ』の効果か。
なるほど、危険は感じなかったのは、これを覚えていたからか。先ほどの精神への浸食具合からして、無印だと対処できなかったかもしれないな。
さすが『レベルガチャ』。必要な物を事前に用意してくれるようになったとは。『充電』しまくった甲斐があるってもんだよ。今までなら、食らってから後出ししてきたもんな。
「くそっ、想定外だが仕方ねえ。『鑑定』!!」
奴の目に、微かに魔力の光が宿る。
だが、ただの『鑑定』程度じゃ俺の『鑑定偽装LvMAX』の壁を突破する事はできないだろう。そう思っていると、奴はニヤリと笑った。
「へへっ、しっかり妨害スキルは覚えてるようだが、ガードが甘いなぁ? 何人か名前は見えたぜ」
「!?」
「『マキサオトメ、アヤネホウジョウイン、大事な男の秘密を教えろ!!!』」
再び奴の口から魔力の糸が伸び、二手に分かれる。
俺がその糸を遮断するよりも早く、ソレは2人へと辿り着き――。
「嫌です!!」
「お断りですわ!!」
――弾かれた。
「お?」
「なにぃ!? なぜだ、なぜ魔力の糸が通らねえ!」
そうだ。なんで通らなかったんだ?
俺には入ったのに。
「俺のスキルはレベル差があろうと、当たりさえすれば必中なんだぞ!? なぜ言う事を聞かない!?」
「……だそうだけど、2人とも平気?」
「はいっ! なんだか、ショウタさんに守ってもらった気がします!」
「旦那様の先ほどの叫びが、ずっと耳に残っているような感じですわ!」
……ふむ。となると、『克己Ⅱ』の効果か?
俺が叫んだことで弾いた状態異常攻撃が、それを聞いていたメンバー全員にも同様の抗体や耐性を付与されたとか? 今の感じからして、そうとしか考えられないんだよな。俺のあげた婚約指輪じゃ、今のところ程度の低い一般的な状態異常は防いでくれても、特殊な状態異常には力不足みたいだし。
以前『傀儡化』を受けた後、彼女達はデートの合間に、こっそりと指輪の耐性について検証してくれていたみたいなんだよな。協力者はミキ義母さんや、アヤネの姉であるタカネ義姉さんとユキネ義姉さん、更にはサクヤお義母さんまで。
彼女達の協力もあり、一般的な状態異常は防げても、マイナーなものや特殊な物は防げないという結論に至ったそうだ。サクヤお義母さんが言うには、俺が直接受けた事のある状態異常しか防げないのではないかと判断していた。
まあ、この指輪を作ったの俺だし、俺が想定していない状態異常を防げないのは道理ではあるんだよな。そんな事を『思考加速Ⅱ』で考えていると、エスとミスティが問い詰めるように前に出ていた。
「なるほど、スウェン。その魔力の糸には見覚えがあるよ。名前を呼びながら命令文を伝える事で、その通りにさせる効果があったのか。それも、強い言葉を使うほど効果が高いと見た」
「ちっ……」
「以前僕にも使って来ていたよね。あの日の会話内容までは覚えていないけど、確か……世間話ついでに僕のスキル構成を知りたがっていたね? 気味が悪いから風の膜で防がせてもらってたけど、防いでいなければ僕は君にペラペラと喋っていたのかな?」
「ん。私も昔、街中で声を掛けられたときに使われた気がする。耳が汚れた気がしたから、その日はすぐお風呂に入った」
「ミスティは何を言われたんだい?」
「覚えてないけど、気持ち悪い顔をしてたことは覚えてる。思わず街中で『サンダーバリア』を張っちゃったけど、あの時の私、ナイスと言ってあげたい」
ミスティがゴミを見る目でスウェンを睨み、腰に収めたケルベロスに手をかけている。こいつの目的はわからないが、俺のスキルの詳細を知りたがっているのは間違いない。ただ、知ったところで何がしたかったんだろうか? もしも俺がベラベラと『レベルガチャ』の事を話したとしても、その後敵対されたら終わりだろうに。
そう考えたところで、猛スピードで俺達に接近する一団を発見した。
「おいスウェン! 生きてるか!!」
「ら、ラシャードのアニキ!」
どうやら、入り口で待ち構えていた奴が増援として来たらしい。さっきの気配爆発は合図が目的だったか。
こっちは確か、奪うのが得意なんだっけ? 弟が秘密を暴いて、その情報を元に兄がかっぱらうと……。なるほど、なにかカラクリがありそうだな。
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