ガチャ491回目:明確な敵対者

「うーん……」


 ミスティの受けた試練の事を改めて考えてみると、1つ気になる点があった。

 もしミスティが失敗して、ケルベロスの入手手段が失われていたと考えるとするならば、エスが一気に第三層から第五層への道を駆け抜けた事で、本来第二層や第三層から次層に移動する際に存在した特別アイテムが入手できなくなってしまったんじゃないか……と。

 まあ、もしかしたらそれらのアイテムをスルーした事で初めて『風』の入手条件となったのかもしれないし、逆に他のアイテムなんて存在しなくて、一気に駆け抜けた事が『風』の入手手段に繋がったのかもしれない。

 だが今更、そんなの確認のしようも……。


 いや待てよ? ダンジョンをクリアして『ダンジョンコア』にアクセスすれば聞けるかもしれないな。更には、再挑戦の権利だって戻せるかもしれない。

 うん、それを楽しみの1つにして、攻略を頑張ろうかな。


「兄さん、どうかな。答えは見つかったかい?」

「ああ。元々1つは目星がついてたんだが、ミスティの昔話を聞いて2つに増えちゃったな」

「その2つを聞いても良いかな」

「ああ。この階層、どこを歩いていても風が一定方向から流れて来てるんだ。だからその風上に当たる部分に何かあるんじゃないかとは思ってる。もう1つは、ミスティの話していた切り株だな。そのどれか、もしくはどれでも良いから該当の切り株に触れる事で、第二層への移動ができる。とかかな?」

「……その洞察力、さすがとしか言いようがないね」

「おっ。てことは……」

「ああ。2つとも正解だよ。ちなみに風が吹いていれば風の発生源。風が吹いていなければ切り株が階層移動の鍵になってるんだ。その場所がワープゲートのようになっていて、たどり着くことで次の層へと移動できる。現状この階層には、この2つの移動方法が時間経過で切り替わるようになってるんだ」

「なるほどなー」


 階段がなくて移動が独特のダンジョンと聞いてはいたけど、調べれば調べるほど面白いダンジョンだな。

 やっぱダンジョンって、場所によって制作者の性格の違いがわかる感じがするなぁ。今の所手を出したダンジョンは、どれも性格というか方向性が違う奴らが考えたダンジョンって感じがするけど。

 どこかには、攻略したことのあるダンジョンと似た毛色の物があるかもしれないな。まあ、全部違う場合もあるが。


「よし、じゃあ風上に向かうか。なあエス、第二層も次層への階段はないんだよな?」

「そうだよ。ここと同じようにね」

「じゃあ、戻るにはどうするんだ? 階段はないんだろ?」

「入口……というか、入場してすぐの場所に第一層への入り口まで戻れるワープゲートがあるんだ。ちなみに、第三層より奥の層も、全部入場口の近くには第一層につながるゲートがあるんだよ」

「なるほど。潜るのは何時間とかかっても、帰るのは一瞬か」


 それはそれで便利だが、逆に第三層から第二層への移動はできないと。

 でも俺の場合、紋章を使えば1から4とか、3から2みたいな不可能な移動も可能にしちゃえる訳だ。ますますあの紋章はボーナスじみてきたな。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「……兄さん、待った」


 突然エスが待ったをかける。流石に前と違って、今のエスの言葉を邪魔に思うことはないので、エスもダメージは受けていないようだった。


「どうした?」

「すまない兄さん、この可能性を考えておくべきだった。どうやら前方に、さっき言ってた兄弟の片割れが居座ってるようなんだ」


 エスに促されマップに視線を送ると、俺たちの向かう先。風の発生源と思われる場所に複数人の白点が留まっており、その内の1つは先ほど見たピラミッドリストの内の1人がいた。

 なるほど、確かにさっきの男に瓜二つだな。とくに悪そうな顔が。


「えーっと、これってどっちがどっちだったっけ?」

「この男は弟のスウェイ。他人の秘密を暴く術を持ってるらしい」

「ふーん。催眠とか思考誘導とか、精神系のなんかかな?」

「どうだろうね。奴らが力を使うのはもっぱら、ランクの低い冒険者や弱い者に対してで、人目につくところでは尻尾を掴ませないらしい。やられた側も決して口を開けないから、被害の実態が掴めてないんだよね」

「俺からしたらほぼほぼ犯罪者集団だけど、迂闊に手が出せないのは率いてる奴の配下だからとかか?」

「ああ。この国に在籍するホルダーの1人だ。だから明確な証拠がないと何もできないってわけさ。小さな証拠なら握り潰されるって話もあるしね」

「国が変われば法律も違うんだなぁ」


 あまりにも無法というか、世紀末がすぎるだろ。日本では考えられ……いや、力を持ったら欲が眩に目が眩んで何か仕出かすような奴はそこら中にいる。俺が知らないだけで、そういうのはサクヤお義母さん達が裏で頑張ってくれてるのかもな。

 んで、そんな奴らの配下がわざわざ俺に会いに来たわけだ。昨日の戦いを見た上でだ。……そもそも、何をしてくるつもりなんだろうか? 敵対するにも関わり合いが無さすぎるし、うちの彼女達はメディア露出が控えめだから、情報が出回っていると言うのも考えづらい。

 ま、現状そこまで嫌な予感はしてないし、このまま会いに行くかね。

 俺達は風上を目指して進み続けた。


 そして目的の場所に辿り着くと、複数の女性を侍らせた男が偉そうにふんぞり返っていた。


「……おっ? エス君じゃないかぁ。久しぶりだな、おい」

「スウェイ。僕と君とは仲良く挨拶するような関係でもないだろう。用件があるならさっさと済ませてくれ。僕達は君らに構っているほど暇じゃないんだ」

「けっ、冷えなぁ。んじゃ、そこにいる弱そうなのが例の『ニュービー』か? 噂通り、本当にオーラが無いんだな。だが連れてる女はレベルが高えじゃねえか! はははっ、アニキとどう分けるか今から考えとかなきゃな!」


 スウェイという男はそう言って立ち上がると、抑え込んでいたであろう気配とオーラを、強く周囲に解き放った。威嚇のつもりだろうか?

 ……だからどうした。

 うちの彼女達に汚い目を向け、下衆な話をした時点で、こいつは明確に俺の敵だ。

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