ガチャ490回目:ミスティの過去

「それで、どうする兄さん。僕たちは次の階層に移動する手段は確立した訳だけど。次に行くかい?」

「いや? まだここに用があるだろ」

「彼らに会うつもりかい? 止めはしないけど……」

「それも違う。エス~、俺の心が読めるようになっても、その辺はまだまだだな」

「はは、そりゃあ君の彼女達に比べればね」

「ん! 私、分かった」


 ミスティが嬉しそうに手を挙げた。他の皆は言うまでもなく把握していたんだろう。楽しそうにミスティの言葉を待っている様子だった。


「ショウタ、この階層の本来の突破方法を見つけてない。だからそれがわかるまで居座るつもり。合ってる?」

「ああ、合ってるぞ」

「んふ」


 どや顔をするミスティを撫でると、彼女達からも合格と言わんばかりに揉みくちゃに可愛がられた。


「まあ、あの連中の相手もする予定だがな」

「そうなのかい?」

「ああ。どうせここで無視して難を逃れたって、どうせ連中はついて回ってくるんだろ。なら、不意打ちされたりしないよう、把握している内に叩いて潰しておきたい」


 何の用かは知らないが、仲間と思われる連れにすら、レッドエテモンキー並の怒気を発してしまう連中だ。邪魔をされる前に二度と絡めないようにしてやろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 それから俺達は、特に行く当てもなく気の赴くままにあっちにフラフラこっちにフラフラとダンジョン内を歩き回った。

 しかしどこを歩き回っても、目に入ってくる光景は、風に雑草が揺られる平凡な平原と、サルの住処となる森。そして時折森の外で遭遇するグリーンエテモンキーくらいのものだ。それを各々がしばいてバナナに変えていく。

 そうしていると、こちらに向けて声援が飛んでくる事があった。黄色い声援の場合は、大概がエスに向けての物であり、野太い声援には大体がミスティに対してだった。ただまあ、その中には明らかに俺に向けての感謝も混じっていて、悪い気はしなかったが。


「しっかし、平原と森とサル以外、何もないダンジョンだよな」

「ん。第一層はずっとこんな感じ」


 俺が満足するまでダンジョン内を彷徨うのはいつもの事なので、彼女達はエスが見せてくれた資料に目を通して色々と質問を投げかけているようだ。今日ここに来ている奴もそれなりに危険人物らしいけど、その点は後ほど彼女達から要点を聞くとして、今はこの階層の攻略に集中したいし、情報収集は彼女達に任せておこう。

 隣に並んで、俺の探索に付き合ってくれているミスティに、俺は話を続けた。


「ミスティが第二層を見つけたのは、ダンジョン発見の1年後だったっけ」

「ん。そう」

「うーん……。特定の行動をしないと次層へ移動できないのはまあ良いとして、1年も掛かるようなものを今では10分前後に短縮されてるんだよな。それがどうにも納得がいかないというか」


 発見が難しく、だけども見つけてしまえば短時間で済むもの。それがなんなのか見当がつかない。1つ怪しいものに目星はついているが、流石にそれが1年も見つからなかった謎とは思えないんだよな。


「ん。ショウタの言いたいことはわかるけど、少し違う。私が見つけた次層への移動方法は、その時だけのもの。今の移動手段は、マイルド版に過ぎない」

「というと、ミスティの移動手段はケルベロスを獲得するための一時的なルートで、今は簡略化された別の移動方法しか存在しないのか?」

「ん。そう。もう一度試せばまた良いものが手に入るかもと思って試したけど、なんの反応も示さなかった」

「それ、どんなだったか教えてくれるか?」

「ん。いいよ。すっごく面倒だった」


 本当に面倒そうな顔で、ミスティが俺の腰巾着からグリーンバナナを取り出した。


「まずこの階層にある全ての森の中には、必ず複数個ずつ切り株があるの。その中で1つだけ、お供え物ができる切り株が存在したの」

「お供え物? ……ってまさか、このバナナを供えるのか?」

「ん。そう。でも供えてもバナナは消えるだけで、何も起きない。モンスターはレベル3~5のグリーンエテモンキーしか存在しない平和な場所だったから、昔は子供の遊び場だったの。時間が流れて、子供たちの平均レベルが10を超えてくると、全然上がらなくなった。でも他所のダンジョンはすっごく遠い。だから彼らは皆、刺激に飢えていたの。そんな中で、バナナが消える切り株の存在は遊びに彩りを添えてくれた」

「バナナを捧げたら消える切り株かぁ。確かにそんな不思議な物があったら、遊んじゃうよなぁ」


 気持ちはよくわかる。俺もそんなのあったら、色々と試したくて仕方がないだろう。


「……ん? 彼らってことは、ミスティはやらなかったのか」

「ん。私、ダンジョンに一緒に潜るお友達がいなかったから……」

「ああ……」


 まあ、ミスティはどこまで行ってもマイペースというか、こんな感じだからなぁ。波長の合う友達が見つからなかったんだろう。

 でも、ダンジョンの外でなら遊べる友達がいたのかな。


「当時は大人の人達もこの切り株を調べてたけど、結局謎のままだった。わかったことは、ダンジョン外のバナナは反応しないこと。2本以上連なっている房を供えても1本しか消えないこと。そして1本お供えしたら、次のお供えまでしばらく反応しなくなること」

「しばらくって、詳細はわからなかったのか?」

「ん。ムラがあった。最短20分。最長で6時間くらい」

「ふーん……?」

「大人だけでなく、子供たちも面白がっていっぱい遊んだ。例えば、全員で階層中に散らばって、一斉に切り株にお供えしたりとか。その時は、私も呼ばれて参加した。人手が欲しかっただけだろうけど、ちょっと楽しかった」

「そうか」

「ん。けど、どんなに色々と試しても、どれも消えるだけでそれ以上の反応は無かった。結局、ダンジョンが出現して1年が経つ頃には、大人たちも諦めて、子供たちも飽きてきてた。そんな時、外から見てた私は、どうしても1つだけ試してみたいことがあったの。……ショウタはわかる?」

「……まあ、俺が試したい事で良ければあるな」


 話を聞いている内に、最初は誰かがやってるだろうと思っていたけど、そのやり方が実践済みなら、話に出て来ていてもおかしくはないはずだ。

 だが、聞いている限り一度も話題に出てこなかったのだ。……というかそんなに賑わっていたからこそ、試そうにも試せなかったんじゃないか?


「ん。聞かせて」

「たった1人で、全ての切り株にバナナを捧げる。かな」

「……ん。本当にショウタは、すごい」

「お、正解か。となるとミスティは、誰も邪魔をしないタイミング……。例えば、皆が寝静まった深夜にこっそりとやったのか?」

「ん。それも正解」


 ミスティは少し恥ずかしそうに答えた。


「なら、切り株の再利用間隔にムラがあったのも、理由は予想できるな。きっと、他の切り株が誰かに供え物をされて使用中だったんだろう。使用中の数が多ければ多いほど、再利用間隔が伸びていたんじゃないかな」

「ん。その発想は無かった。でも、そうだったのかもしれない」

「……だった、ってことは、もう使えないのか」

「ん。私がその方法で全ての切り株にバナナを捧げた時、特殊なフィールドに移動させられて、ケルベロスを手にした。そしてそこで強制的に修行をさせられて、戻って来た時には第二層は誰もが条件を満たせば移動できるようになっていて、切り株は、ただの切り株になっていた」

「ん? ミスティは第二層に一番乗りしたんじゃなかったのか?」

「ん。わからない。修行の時に出てきたモンスターは、第二層のモンスターと全く同じだったけど、誰にも出会わなかったから……。たぶん、この前ショウタと行ったボスフィールドに近い空間だったのかも」

「なるほどな」


 修行っていうのがどういうのか気になるけど、ミスティはそれを乗り越えて『銃器マスタリーLvEX』のスキルを得たんだろう。だけどもし、彼女がその試練にやられていたとしたらどうなっていた?

 ……ダンジョンのやる事だ。ミスティは恐らく、行方不明扱いになっていたんだろう。そして何食わぬ顔で、第二層だけはしれっと姿を現していたのかもしれないな。

 更には、ケルベロスへの道は、永久に閉ざされたままになっていたかもしれない。これは単なる予想だが、多分あってる気がするんだよなぁ。ダンジョンはチャンスこそこちらに与えてくれるが、割とドライなところがあるからなぁ。

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