ガチャ488回目:通行証
予想していた強化体ではなく通常のレアモンスターが現れ、更にはレアⅡが出現せず霧散してしまった事に衝撃を覚えていると、隣から悲しそうな声が聞こえた。
「ん。ごめん、ショウタ。私が倒したから……?」
「え? ああいや、それは違う……んじゃないか? 一応ミスティが倒しても俺が倒した扱いになってるはずだ。じゃないとそもそもレアは湧かないだろうし、ドロップもあるし、何もしてなくても俺はレベルが上がった。だからミスティのせいじゃない」
「ほんと?」
「ああ、ほんとほんと」
頭をポンポンしながら、俺は考える。
まず、強化体が出なかった理由。そして、レアⅡが出なかった理由だ。
考えられる要因はいくつかあるが、結局行きつく答えは1つずつだった。
・強化体が存在しないから。
これはまあ、今までもそう言ったモンスターはいたにはいた。『ハートダンジョン』で言うところのサーペントと、アリと、ウパルパだ。『アンラッキーホール』のスライムだってそうだ。そして強化体の概念が最初から最後まであったのは、『初心者ダンジョン』くらいのものだろう。ああいや、『初心者ダンジョン』の第一層のウサギも含めれば、少し話は違うかな?
・レアⅡの出現条件が満たせなかった。
即座に霧散したという事は、これは間違いなくあるはずだ。考えられる物としては……スタンピード機能の停止だろうか? 討伐することで、進行度や機能そのものをリセットする効果を持ったモンスターなんだから、機能が動いていない以上出現しないのは当然なのかもしれない。
ただ、上に示したように、強化体が存在しないのが正しかったとして、今までと違う点がある。それは、レアやレアⅡを倒してもトロフィーが無いという事だ。このダンジョンは、トロフィーの獲得無しに『ダンジョンボス』に挑めるのだろうか……?
今までのダンジョン攻略で、トロフィーからのボス出現は2回。それ以外も2回。確率は半々とはいえ、今回も不要なのか……? だが、果たして本当にそうなのか……?
うんうんと唸っていると、前後左右から助け舟が出される。
「ショウタさん、お悩みですか?」
「話したらすっきりするわよ?」
「いくらでも話してくださいまし!」
「情報を整理するにも、時には抱え込むよりも言葉にするのは重要ですよ」
「ん。私もショウタの力になりたい」
「……そうだな」
俺は現時点で考えられる可能性を提示した。
「……んー、そうねぇ。じゃあとりあえず、もう1回100匹やってみない? 何かわかるかもだし」
「賛成ですわ! バナナも増えて一石二鳥ですわ!」
「……だな。とりあえずミスティ。一緒に狩ろう」
「ん。わかった」
そうしてミスティと協力してグリーンエテモンキーを殲滅。最後の100匹目は俺が討伐し、残っていた雑魚20体はミスティに任せた。
「念の為、1体目や2体目とはかなりかけ離れた森に来たけど……どうだ?」
『ヴキキー!!』
……変化なし。普通のレアモンスターだった。
特に今更こいつ相手に検証することもないので、速攻で斬り捨てる。
【レベルアップ】
【レベルが106から107に上昇しました】
うーん、低レベル補正が効かないと不味いな。こっちは強化体とやるつもりで事前にガチャを回してたってのに。
まあ嘆いても仕方ないか。
「とりあえず、強化体は居ないと見て諦めるかな。今までの方法が通用しない以上、調べようがない」
「だねー。ねえエス君、この階層にはトリガー型も時間経過型も確認されていないのよね?」
「そうだよアキ義姉さん。だから僕たちとしては、この階層でレアがいたことすら驚きだったんだ」
「となると……。ショウタさん。レアⅡの3体が落とした各『紋章』を調べてみませんか? 特殊なアイテムみたいですし、何か秘密があるかもしれません」
「ああそっか。それが残ってたか」
「もしかしたら、それがトロフィー代わりになるのかもしれませんわ」
「ご主人様、こちらをどうぞ」
アイラから赤黄緑、3色の紋章を渡される。
視た結果もその見た目も、色以外全くといっていいほど同じ存在だが……。
「……ん?」
それぞれを手に持っても特に何も感じなかったが、重ねて持つと妙な違和感を感じた。俺はその感覚を信じて、3つの紋章を緑・黄・赤の順番で重ねる。
すると紋章は突然光を放ち、1つの紋章へと姿を変えた。
名称:三色の紋章【Ⅰ】
品格:≪伝説≫レジェンダリー
種類:アーティファクト
説明:特殊モンスター『グリーンハイゴリラ』『イエローハイゴリラ』『レッドハイゴリラ』の討伐報酬を合わせたもの。696ダンジョンで使用する事で、使用者を含めた周囲10メートル以内の人間全てを696ダンジョンの第二階層へ移動させる。何度でも使用可能。トリガーアイテムとしても使用可能。
「……なるほど。最後の文面からして、全部集める事でボス召喚の通行手形になるかもしれない訳だ」
「アヤネの言う通り、トロフィー代わりのようなものね」
「ですわね!」
「マキ様、お手柄ですね」
「いえ、ショウタさんならその内気付いたと思いますし」
「それでもよく気付いて教えてくれた。ありがとな」
「はいっ」
「ん。私も混ぜて」
そうして皆で集まってイチャイチャしていると、ずっと端末を操作していたエスがようやく顔を上げた。
「兄さん、お待たせ。このファイルを見てくれないか?」
「ん? どれどれ……。全部男だな」
そこに記されていたのはピラミッド型に名前と顔写真が配置された、どこかの組織の所属員リストのようなものだった。
しかもまぁどいつもこいつも顔が濃ゆいというか、イカツイというか、悪どい顔をしてる。
「なにこれ。犯罪者リスト?」
「ん。大体あってる」
「内容はともかく、全員写真は見たね? もう一度マップを開いてくれないか」
「おっけー」
エスの言うままにマップを開き、未だ入り口付近で動きのないオーラの発信源の辺りを適当にタップしていると……中央にいる人物が反応した。
「おお。出た」
「やはりこいつが来ていたか」
「ん。ゴミが来た」
2人はマップに映り込んだ男に対し、多様な感情が入り混じった目で見つめていた。
「なんだよ、辛辣だな」
「ん。撃って良いなら、ショウタ製の弾で急所をぶち抜きたくなるくらい嫌い」
ミスティがいつになく嫌悪感をあらわにしている。そんなに嫌われるとか何したんだコイツは。
「兄さんには前に言ったよね。こっちには、兄さんが対面すると出会い頭に殺しに行きかねない相手がいるって」
「もしかして、こいつが?」
「いや。そいつ直属の部下さ。ただ、奴の周りに群がる連中はどいつもこいつも波長が合うんだろうね。きっと、同じくらい兄さんも嫌うはずさ」
そんな奴らが俺に会いに来たって?
はっ、なるほど? 良い話じゃなさそうだな。
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