ガチャ475回目:会場入り

 シルヴィは俺の案に賛同してくれ、すぐに動き出した。

 まずはエスとのあれこれで忘れられていた、協会に向けて俺たちの到着についての連絡。そして闘技場のレンタルを伝え、それを大々的に告知する段取りをつけた。

 最後に、彼女は爆速で自身のブログを更新。

 タイトルは『日本からの協力者、無謀にも雷鳴の魔女に挑む!?』だった。目を惹くビッグタイトルに、閲覧数と拡散の速度は凄まじく、俺たちが昼食を摂ってのんびりと会場に到着する頃には、闘技場の観客席はビッシリと埋まり、入国の後そのまま帰ったと思われた地元のTV局の人達も観客席でカメラを回していた。


「兄さん、ちなみにだけどあれ、生放送みたいだよ」

「マジか」


 拡散からまだ1時間くらいしか経っていないのに、情報の伝達力と言うか、初動の速さには驚きを隠せなかった。俺達はそれを監視カメラ越しに眺めつつ、この後の段取りを決め、それぞれが動き出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 試合が始まる少し前。

 エスとシルヴィは実況解説をするらしく解説席へ。他の皆は観客席へと移動。俺とミスティは選手用の控室で、今回の勝負について最終確認を行っていた。


「ん……。模擬戦をするのはいいとして、ショウタに攻撃して本当に大丈夫かな……?」

「ああ、誓約書のことか? それなら多分大丈夫だと思うぞ」

「そうなの?」

「ああ。なんせ俺が受け入れてるしな。とりあえず試しに、俺の頬を軽く引っ叩いてみてくれるか?」

「……ん」


『ぺちっ』


 ミスティは戸惑いながら叩いたが、特にペナルティは発生しなかったようだ。


「弱い。もっと強く」

「……ん!」


『ぱちんっ』


 可愛らしいビンタだが、音だけ立派で中身が伴っていないものだった。


「遠慮するな。もっと強く!」

「ん!」


『スパァン!』


 今までのビンタが嘘のように、強烈な一撃が炸裂した。

 自分からやれと言っといてなんだが、割と効いた。叩かれた頬がヒリヒリする。


「ん。大丈夫だった。ショウタは大丈夫だった?」

「大丈夫じゃなかった」

「ん。ごめんね」


 ミスティが叩いたところを撫でてくれる。これがアメとムチか……?

 酷い自作自演のマッチポンプだが、ミスティの手はひんやりとしていて気持ちよかった。


「でも、これなら大丈夫っぽい。本気でやっていいんだよね?」

「ああ。本気じゃなきゃ、分かる奴らには八百長に見えるだろうしな。俺達が関係を持っていることも含めて、不要なトラブルを招きかねん」

「ん。わかった。私はショウタのシールドを3回割れば勝ち。ショウタは10分間、割られることなく逃げ続ければ勝ち。だったよね」

「おう。ちなみに、さっきも言ったが通常弾で頼むな?」

「わかってる。あの弾は何があってもショウタには向けない」

「人には向けないとは言わないんだな」

「……相手によるから」


 悲しい顔をするミスティの頭を撫でる。さて、そろそろ呼び出されるタイミングかな。そう思っていると、会場の方からシルヴィの声が鳴り響いた。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇



「さあ始まりました、本日のビッグイベント! 日本からの客人が、我らが誇るSランク冒険者、『雷鳴の魔女』ミスティに手合わせを挑みました!! 解説は私、696協会所属、シルヴィアがお送りします! そしてー!」

「やあ皆、ただいま。『スピードスター』こと、エルキネス・J・サンダースだよ」


 エスがそう短く挨拶するだけで、会場は割れんばかりの黄色い声援が飛んだ。


「相変わらずすごい人気ね」

「ありがたいことにね。……もしかしてだけど、今までも心配させてたかな?」

「そうね。何年も待ったわ。あなたがそんな事を言うなんて、お兄さんに何か言われた?」

「ああ、もっと自信を持てってさ。特に君の事に対しては」

「ふふっ、そう。その言葉はとっても嬉しいけれど、この会話もマイクに入ってるわよ。良いのかしら?」

「……ああ。君を守って行く覚悟はできたよ」


 2人のイチャ付きに、会場は勝負の熱よりも彼らの動向が気になり過ぎて静まり返っていた。


「という訳で、私達、再び付き合い始めたわ! 空気を読んでくれてた皆も、応援してくれてた皆もありがとう! 私は2人目以降も許容できるから、エス狙いの子は頑張ってね!」


 TVの前での大胆発言に、再び黄色い叫びと共に、祝福と野次とブーイングが飛び交う。そうして盛り上がっている間に、対戦者の準備が整ったと職員から連絡が来る。


「さあ、それじゃ気を取り直して解説に移るわよ! 本日の対戦カード、片方は誰もが知ってる有名人。戦場では幾重もの雷鳴を轟かせ、相手を蜂の巣にしてしまう数少ない銃器使いでありながら、オフの時は協会で居眠りする姿が度々目撃され、『眠り姫』の愛称でお馴染み。『雷鳴の魔女』ミスティア・J・サンダース!!」

『うおおおお!!!』

『ミスティーちゃーん!!』


 ミスティがフィールドに入場すると、闘技場のボルテージは最高潮に達した。そんな声援を受けても彼女はいつも通りで、のんびりと準備運動をしている。


「対するは、我らが希望であり英雄であるエスが、日本から連れて帰ってきた『ニュービー』! 彼の偉業は挙げ始めたらキリがないわ! 短期間で複数のダンジョンを完全攻略し、スタンピードを完全停止。更には目に見える形で、ダンジョン外にセーフティーエリアの設置や、眉唾な噂によればドロップ率アップの恩恵まで! だけど、飛行場で私と一緒に出迎えた皆は、違和感を持ったはずだわ! 彼は明らかにオーラが少ない!! それは彼が特異な人物なのか、本当は弱いのか! 今ここで、その実力の一端を見せて貰いましょう!!」

『おおおおおお!!!』

『BOOOOO!!!』


 ショウタがフィールドに入場すると、歓声と同レベルのブーイングが会場に鳴り響いた。飛行場で出迎えた人達も、改めてここで初めてショウタを目撃した人たちも、あまりのオーラの少なさに驚きを隠せず、期待を裏切られた失望から来る野次が飛び交った。

 落胆と絶望が入り混じった空気を会場が包み込むが、当の本人はまるで意に介していない様子だった。


「それじゃ、ルールを説明するわ! 今回の模擬戦、本当に殺し合いをする訳じゃないわ。だから、誰にでもわかるようルールは至ってシンプルにしたわ! ミスティの勝利条件は、時間以内に彼が展開するシールドを全て叩き割ること! 対する彼は、時間いっぱいまでミスティからの攻撃を凌ぎきる事よ!」


 シルヴィの発言に、再び会場がどよめいた。

 ミスティは『雷鳴』と通り名が付くほどのガンナー。それもSランクだ。そんな彼女の攻撃を全て捌くことなど、本当に彼にできるのか。そしてその困惑とは別に、そもそもそれが可能な人間はこの世界にいるのかという疑問だった。


「それでは試合開始!!」

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