ガチャ474回目:実力主義
「ごめんなさい! そしてさっきはありがとう! あなたのおかげで、私達ようやく前に進められそうよ!」
「ああ、それは良いんだけど……。今の謝罪は何の?」
「あなたの事を見くびってしまった事よ。オーラはやっぱり一般の人と大差ないけど、エスが認めて連れてきたのは間違いないもの。それにミスティちゃんがこんなに懐いてるし、エスが大人しく言う事を聞くのよ? 今までの彼からは考えられないわ! だからきっと、私にはあずかり知らない不思議な能力があるのよね。それを私は勝手に決めつけて、なのにあなたは私達の関係を進めてくれて……。自分の馬鹿さ加減が嫌になるわ」
「あー、シルヴィさん。何と言ったらいいか」
俺はまだるっこしいのは嫌いだったので、2人の仲を無理やり加速させただけなんだよな。
「シルヴィで良いわ。エスから連絡をもらってたから、あなたはミスティちゃんの夫で、エスの義兄だとも聞いてる。なら、私とも家族みたいなものでしょう?」
「ああ、わかったよシルヴィ。これからよろしくな」
「ええ!」
シルヴィとハイタッチすると、彼女は再びぼーっとしているエスの所へと戻って行った。
そして今の俺の行動は、思いの外彼女達からの評価は高いようだった。
「ショウタさん、素晴らしかったです!」
「ショウタ君、グッジョブ!」
「流石旦那様ですわ!」
「ダンジョンの外でもカッコイイのは珍しいですね」
「ん。ショウタないす」
口々に褒めてくれる。アイラは褒めてるのか怪しいけど。
こういう他人の色恋沙汰には、本来口を出さないことが美徳とされがちだし、俺も時と場合によってはそうする。だが、俺の場合は、他人だから口を出さないのであって、身内なら話は別だ。それに、いつぞやのアイラの言葉を真似る訳じゃないが、ああいう関係は劇薬でも無ければ変化は起きないだろうしな。
ミスティですら褒めるくらいだし、あの2人のすれ違いも年季がありそうだよな。
「エス、さっき『また』って言ってたよな。あの2人は1度破局したのか?」
「ん。エスとシルヴィ、昔は付き合ってた。けど、何かの拍子で別れた。理由は知らない。けど、シルヴィはよりを戻したがってたし、エスも気にしてはいた。うちの696ダンジョン支部で2人の関係は割と有名」
「有名になるくらいなのに、進展はしなかったのか」
「ん。エスが何かにつけて自分は相応しくないとか言って断ってたみたい。何があったか知らないけど、別れてから何年も経ってるし、私としてはうんざり。でも、妹の私が言っても効果ない。けど、エスと対等な関係の人もここにはいない。誰も、Sランクのエスを相手に、正面から言える人がいなかった」
そうなのか。……まあでも、掲示板と彼女達を除けば、俺に直接何かを言ってきてくれる人なんて、シュウさんくらいしかいないよな。そういう意味で、エスはこっちでは孤独だったのかもしれない。
「やっぱ、この国でもランク至上主義なとこがあるのか」
「ん。というより、日本が特別大人しかっただけ。この国は実力主義で、実力はランクを意味する。だから高ランクはデカイ顔をして、ランクが低いと言いなりになる。高ランクの人間に近付くのは媚びを売るためがほとんど。だから、ランクの低い人が話しかけてくる内容は自分をよく見せる為の虚偽が多い。信用ならない」
その事情がお互いに分かってるから、話はしないし、思っていても伝えられないことはあるか。
「シルヴィ……本当に僕で良いのかい?」
「当り前よ! あなた以外いないわ!」
シルヴィはこの状況を待ち望んでいた分すぐ受け入れたが、エスはまだしばらくかかりそうだなぁ。
「もう、エスしっかりしなさいっ」
「あ、ああ……。すまない……」
「……はぁ。それじゃあ私はあなたのお兄さんと話してるから、はやく戻ってきなさいよ!」
そう言ってシルヴィがやってくるとため息を吐いた。
「あんな風に混乱するエスなんて久しぶりだわ」
「楽しそうなところ悪いが、そろそろ話を進めても良いかな」
「あっ、そうだったわね。ごめんなさい」
「いいよ。んで、聞きたい事なんだけど、シルヴィは俺と最初に握手した時、訝しんでたよね。あれもオーラが少なくて弱く見えたからで合ってる?」
「えっと……」
「隠さなくて良いよ。オーラが少ないのは自覚してる」
「……ええ、そうよ。さっきも言ったかもしれないけど、私はエスとミスティの事は子供の頃から知ってるから、あなたに懐いて……それどころか従ってるところから見て、エスの言葉が嘘じゃないと納得はできたわ。けど、他の人達は違うわ」
「シルヴィは2人と付き合いがあったから間接的にわかったけど、他の人達は関係値が無いから気付かないってことだよな」
「ええ、そうよ」
エスは孤独だったみたいだし、ミスティもたぶんそうだろう。
てか、社交性のあるエスですらこの状態だ。社交性の欠片もないミスティはもっとだめだろう。
「ん。ショウタ、失礼な事考えてる?」
「……そんな顔してた?」
「憐れんでた」
「……そうか」
とりあえずミスティの頭をポンポンして誤魔化す。すると彼女はいつものように頭を押し付けてきたので、どうやら誤魔化されてくれるみたいだ。
「じゃあ、さっきシルヴィの後ろで見ていた人たちも、やっぱ気付いてたのかな?」
「ええ、きっとそうね。彼らは普段から高レベルの冒険者は見慣れてるもの。と言うか、あなたの恋人達も、連れてるモンスター達も、全員凄く強いオーラを纏ってるから、1人だけオーラが無さ過ぎて逆に目立っていたわよ」
「そ、そうか……。俺としては低く見られたところで問題はないが、それを理由に攻略の邪魔をされたら面倒だしな……。何かの形で実力が示せたら……」
そうして考えたところで、まだ頭を押し付けてくるミスティと目が合った。
「ん。もっと撫でて」
「……ミスティ」
「ん」
「俺と模擬戦しない?」
「ん。……名案」
観客には俺の強さを見てもらえるし、俺はミスティの強さを改めて肌で感じ取れる。一石二鳥だと思うんだよな。
「あ、でも俺謹製の弾丸は無しで」
「ん。わかってる」
ミスティ製の通常弾ならまだしも、流石にアレと真っ向から向き合うのは怖いからな。
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